2017 年 57 巻 2 号 p. 315-321
哺乳類の食性分析は糞分析でおこなわれることが多く,組成内容の量的割合をもとに多様度が表現されることがある.これは基本的に場所や季節を代表させる集団としての多様度(「集団多様度」)である.一方,多様度は試料ごとにも算出でき(「個別多様度」),2種の多様度は動物種や状況により接近することがあるし,大きく異なることもあり,それぞれに意味があるが,これまで集団多様度だけが取り上げられがちであった.そこで6ヶ所の5種の動物を取り上げて2つの多様度の比較をおこなった.草食獣の例としてシカ(ニホンジカ)2例,カモシカ1例,イノシシ1例,果実依存の雑食性食肉目の例として,タヌキ2例,テン3例を用いた.草食獣では個別多様度と集団多様度は接近していたが,食肉目では個別多様度が低く,集団多様度ははるかに大きかった.また,食肉目の個別多様度と集団多様度の違いは,タヌキよりもテンで大きい傾向があった.この2つの多様性の違いが生じる背景を動物の体サイズ,食性,消化生理,食物の供給状態などと関連させて考察した.