哺乳類科学
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原著論文
自動撮影装置を用いた里山におけるニホンザルの環境利用の評価:高知県中土佐町の事例
寺山 佳奈金城 芳典加藤 元海
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2020 年 60 巻 1 号 p. 45-53

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抄録

ニホンザル(Macaca fuscata)による農作物被害が全国的に広がっている.森林と農地がモザイク状に分布する里山において,効率的な被害対策を講じるための基礎研究として,ニホンザルの環境利用を調べた.高知県中土佐町にある常緑広葉樹林帯の里山において,ニホンザル1群の行動圏のコアエリア内の4つの群落[放棄果樹園,竹林,シイ・カシ二次林,スギ(Cryptomeria japonica)・ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)植林]に自動撮影装置を設置し,ニホンザルによる各群落の利用状況を調べた.採食行動が最も多く撮影された群落は放棄果樹園であり,次いで竹林であった.放棄果樹園では午前中にニホンザルが多く撮影され,葉や果実といった植物質の採食が確認された.一方で,それ以外の群落では午後に撮影されることが多かった.特に竹林では,放棄果樹園で採取したと思われる果実や,竹林内を流れる沢で採取したと思われるカニやカエルなどの動物を採食していた.放棄果樹園と竹林では成熟個体が多く撮影され,それらの周辺にあるシイ・カシ二次林とスギ・ヒノキ植林では未成熟個体が多く撮影された.里山のようにモザイク状に群落が存在する場所では,ニホンザルの時空間的な環境利用パターンは生息地の空間構造の影響を受けており,放棄された耕作地周辺における空間開放度の低い群落の整備が,ニホンザルの隠れ場所除去の観点から重要であると示唆された.

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© 2020 日本哺乳類学会
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