2018 年 37 巻 3 号 p. 6-21
近年,ネガティブなクチコミに対する企業の関心が高まっている。背景には,経済のサービス化,情報環境の変化,さらには,怒りを抱く顧客の存在感の増大があげられる。従来,ネガティブなクチコミは,サービスの失敗に不満をもった顧客の,その後の行動の選択肢の一つとして,主としてサービスリカバリー研究の枠組みで検討されてきた。顧客が有する不満を議論の出発点としており,サービスの失敗の内容や,サービスの失敗とネガティブなクチコミを結びつけるプロセスの検討は十分ではない。そこで本稿では,ネガティブなクチコミに焦点をあてる。顧客の感情形成を説明する認知的評価理論の枠組みを用いて,サービスの失敗に対する顧客の認知的評価が顧客に生じる感情に影響し,さらには対処行動としてのネガティブなクチコミ行動に間接的に影響することを,先行研究の知見を引いて論じている。ネガティブなクチコミ行動の包括的な理解のための検討枠組みと検討次元の提示を目的とする。