マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
ボランタリーチェーンがもたらす地域商業に対する有効性
― コスモス・ベリーズの事例に基づく流通再考 ―
西村 順二
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2019 年 38 巻 3 号 p. 37-54

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Abstract

本研究は,生産と消費をつなぐ流通・商業,特に相対的に小商圏を対象とする地域商業・流通における中小規模卸売業と中小規模小売業の環境適応に着目する。そして減退化に向かう地域の小売業に対して積極的に支援しながらも自身の成長を目指し,もって地域全体の商業・流通の活性化を図ろうとする卸売業の動向をボランタリーチェーンの事例を通して確認し,商業・流通の果たすべき役割の変化について検討する。

近年の卸売業と小売業の販売額推移をみると,本来は卸売業と小売業が連関性を持って,生産と消費をつないできた商業・流通にあって,全国市場を標的とする大規模な小売業・卸売業が減退し,小規模な小売業と中規模な卸売業において増大の傾向が見られる。中間流通として,小規模な小売業と中規模な卸売業を中心とした連関性が生まれ,全体としては減退傾向にある商業・流通において反転の動向を示している。この一つの事例としてコスモス・ベリーズは,ボランタリーチェーンの本部企業として,地域市場の小規模な小売業支援を行っている。バンドリング,ハブ&スポーク,業種を超えた業態対応の点で,優位性を保ち,流通フローを最適に流しているのである。

I. 問題の所在―流通・商業部門の減退と対応

現代経済社を取り巻く環境は,多様に変化し,そのスピードも速まってきていることは誰もが感じているところである。この大きな変化の一つに,消費の成熟化,消費者ニーズの多様化,そして消費人口そのものの減少等によって経済社会が大量生産・大量販売体制から,少量生産・少量販売体制にシフトしてきたことが挙げられる。さらには,海外から日本市場への大きなインバウンド需要の移入とe-commerce等を基盤とする海外取引の増大により,既存の国内市場・海外市場だけではなく,グローバル消費市場とグローバル調達市場での取引の顕在化と進展がかなりのスピードでおこってきている。このような大きなインフラ体制,消費行動,そして社会的指向の変化が起きてくると,従来中間流通としての卸売業・小売業を経由して流れていた商流,物流,情報流の流れ方も変わらざるを得なくなると言ってもよいであろう。あるいは,これら流通フローそのものが,改めてその役割を問われる可能性も生まれてくるかもしれない。これに伴い,生産部門と消費部門の間に介在し,その両者を結び付けることで存在してきた流通部門もまた,この大きな社会経済の変化に対して,その果たすべき役割を変化させざるを得ないのも当然のことであろう。

本稿では,このような変動の中にあって,生産部門と消費部門をつなぐ役割を果たしている流通・商業部門に焦点を当てる。それも,全国市場を標的とする商業・流通よりは相対的に小商圏を対象とすることとなる地域市場を標的とする地域商業・流通の環境適応に着目する。それは,近年の地方や地域における中小小売業者の減退が顕著であるからである。地域の中小小売業者は原則的には小さな近隣商圏に縛られるが故に,地方を中心とした人口縮減化の影響を大きく受けることとなる。そして,その疲弊は今に始まったことではなく,全国市場を目指した大規模チェーンストアやコンビニエンストア等の攻勢にあい,70・80年代からバブル経済が終焉する頃には明らかにこの問題は表出してきていた。しかしながら,その対策に向けての施策等の決定打を十分に打ち出されないまま,今に至っているのが現状であろう。このような状況下にある地域の小売業はどの様にして生き残り,そしてそれに対して卸売業はどの様に対応しているのだろうか。本稿では,この減退化に向かっている地域の小売業に対して積極的に支援しながらも自身の成長を目指し,もって地域全体の商業・流通の活性化を図ろうとする卸売業の動向を確認し,商業・流通の果たすべき役割の変化について検討するものである。

II. 商業・流通部門の変化―小売業と卸売業の差異

先ずは,バブル経済が破綻した後の商業・流通の動向を簡単に見ておこう。ここでは単純化のために商品販売額の推移でもって眺めてみる。以下の図1は,1997(平成7)年度から2016(平成28)年度までの卸売業と小売業,そしてそれを合算した商業計の商品販売額の推移である。2009(平成21)年度に大きく減少しているのは,この年度には,日経平均株価がバブル経済崩壊後最安値を更新した年であること,自民党麻生内閣の総辞職に伴い民主・社民・国民の3党による鳩山由紀夫内閣が成立し,15年ぶりの非自民政権が誕生したこと,そして所謂「リーマンショック」と呼ばれる2008(平成20)年9月アメリカリーマン・ブラザーズの破綻があったことなどが,原因と考えられる。内閣府の『平成21年度年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)(平成21年7月)』では,「日本経済は2007年10月1を景気の山として,景気後退局面に入った」とも言われた時代である。当然ながら,マクロ次元での政治・経済の動向も消費・流通部門に少なからず影響を及ぼし,この2009(平成21)年度から商業・流通業も減退傾向に入ったのである。

図1

卸売業,小売業,商業合計の販売額の推移(単位:10億円)

出所:下記に基づく各年度の商業販売額から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業販売統計年報』(財)経済産業調査会。

ここで,注目すべきは商業・流通全体として販売額が減少傾向にあるとはいえ,卸売業の減少がより顕著であるということである。図2と図3を見てみよう。図2は小売業の販売額推移を示したものである。この22年間でみて小売業も全体的には減少傾向にはあるが,2003(平成15)年度・2004(平成16)年度を底にして,その後は上昇し,やや高いゾーンでの動きを示している。リーマンショックなどが起こった2009(平成21)年度には一時的に減少しているが,その後は上昇傾向にあるのである。年間販売額推移では,小売業は減少傾向にあったが,また戻りつつあるということである。ところが,図3をみると,卸売業の動きは,小売業と類似して2003(平成15)年度までは下がり,その後に若干戻している。しかし,2009(平成21)年度のリーマンショックからは,小売業とは異なり,再び減少傾向に向かっている。なお,1997(平成7)年4月に橋本龍太郎内閣において消費税が3%から5%に引き上げられている。また,2014(平成26)年には安倍晋三内閣時に消費税8%への引き上げが行われている。これらの消費税率変更導入に伴い,その直近において駆け込み購買等の影響を及ぼしている部分があるだろうが,長い期間でみるとそれほどの大きな直接的影響を及ぼしてしているとは言い難い。

図2

小売業の販売額の推移(単位:10億円)

出所:下記に基づく各年度の商業販売額から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業販売統計年報』(財)経済産業調査会。

図3

卸売業の販売額の推移(単位:10億円)

出所:下記に基づく各年度の商業販売額から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業販売統計年報』(財)経済産業調査会。

さて,商業・流通全体が減少傾向にある中で,近年の小売業が上昇傾向を示している現状が見られた。そして,その一方で卸売業が近年も減退傾向を示している。この動向は何故おこってきたのであろうか。さらに,図4にある流通・商業の販売額の対前年比推移をみても,卸売業と小売業では異なる成長動向を示している。すなわち,中間流通に位置する卸売業と小売業が共に販売額を伸ばし,または共に販売額を減らすという連関性が必ずしも確認できないのである。このような動向を示しているのは,どういう理由からであろうか。それについて,さらに考えてみよう。

図4

卸売業と小売業の販売額の対前年比推移

出所:下記に基づく各年度の商業販売額から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業販売統計年報』(財)経済産業調査会。

III. 卸売業と小売業の連関性の衰退

上記の販売額の推移から,商業・流通業全体が減退傾向にある中で,その大きな原因は卸売業の減退によるものであると言えるだろう。小売業の販売額が上昇に転じる中でも,卸売業が減少傾向にある。通常,卸売業と小売業は流通経路上連関しているが故に,その販売状況は連動して変動すると思われるが,それが,卸売業と小売業では異なる動向を示しているのである。

それにはいくつかの原因を想定することができるであろう。一つ目の視点として,小売業側の変化に基づく原因では,以下のものが考えられる。第一に,卸売業にとって販売取引先である小売業の中で,特に卸売業への依存度が大きな小売業が減退をしたということである。上の図2からは,この10年間は小売業全体では販売額を増大させている。しかし,それは全国市場を対象とした大規模小売業者や組織型小売業者の進展によるものであり,卸売業に依存し易く,主に地域市場に対応している中小小売業は減退しているのではないだろうか,そして,それによって卸売業全体が減退してきたのではないだろうか。第二に,問屋無用論に代表される中間流通である卸売業者が排除され,直接生産者からの仕入れを行う小売業が増大したということである。それは,物流技術向上や情報技術革新により,卸売業が遂行してきた流通機能の幾つかが他者に代替され,それに基づき小売業がその仕入れ先を直接製造業に変更することにより,卸売業が減退してきたということである。第三に,上記の更に進んで展開されたものとして小売業が流通経路上の川上への進出を進め,急激かつ多様に変化する消費への対応のため業態を変化させ,ある種の製造小売業や卸小売業が顕在化してきたことが考えられる。第四に,インターネット環境の充実と物流システムの高度化により,リアル店舗での販売からインターネット販売へのシフトが挙げられる。これも,第二の原因と同様に,小売業にとっては製造業からの直接仕入れの利便性向上により,卸売業を活用する機会を減らしてきたという意味では,問屋無用論に繋がる要因であるとも言える。

そして二つ目の視点として,卸売業側に基づく原因では,第五に,卸売業自体が縮減化し,それにより卸売構造の変化(大規模・集約化)が生じてきていることである。例えば,総合商社をその最たる代表として,大規模卸売業の川上や川下への進出が進み,さらに大規模化が進む一方で,小規模の卸売業は苦境におかれているということである。

もちろん,これらだけで卸売業と小売業の連関が崩れ,それぞれの成長軌道が関係なく進むようになってきていることを説明できるわけではない。また,これらの五つの原因は独立して影響を及ぼすのではなく,互いに関連性を持って影響を及ぼしていることも理解できる。ここでは,図1に示される実態を明確に考察するために,これらの中で第一の原因に着目し,さらに考察を進めてみる。

卸売業,小売業ともにその事業所数の推移を見てみよう。以下の図5は,1997(平成7)年度から2016(平成28)年度までの20年間で,図1で示された卸売業が減退に入りそのまま低迷し,一方で小売業が増進に向かい始めた頃である2012(平成24)年度を一つの基点として,それぞれに近似する時点推移をみたものである1)。事業所数の推移では,この20年の全期間で小売業,卸売業共に概ね減少傾向にある。しかし,2012(平成24)年度からは卸売業も小売業も微増となり,両者同じ動きを示している。これに対し,図2・図3にあるように近年の販売額推移においては卸売業は減退し,小売業は増大するという異なる動きを示している。

図5

平成6・24・28年度卸売業・小売業の事業所数の推移

出所:下記に基づく各年度の数値から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業統計表』第1巻 産業編,(財)経済産業調査会。

この異なる動向を考えるに当たり,先ず従業員規模別の小売業事業所数比率の推移(図6)に着目したい2)。この図から,2人以下の事業所数が平成6年度には50%を超えて存在したものが,平成28年度には40%程度にまで減少していることがわかる。さらに,3~4人規模の事業所数まで含めると,75%程度から60%程度にまで減少している。逆に50人以上の事業所数比率は増大している。すなわち,小売事業所数比率の推移において,相対的に小規模と大規模な事業所が減少し,相対的に中規模の事業所は増大してきている。従って,小売業の事業所数の中で主に減退傾向を示しているのは,相対的に大規模,そして小規模な小売事業所であることが分かる。

図6

平成6・24・28年度の従業員規模別小売業事業所数比率の推移

出所:下記に基づく各年度の数値から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業統計表』第1巻 産業編,(財)経済産業調査会。

次に,小売事業所当たりの販売額推移を見てみよう。それが表1である。この表からは,相対的に従業員規模の大きい50人以上の小売業が全体の販売額に対して占める比率は減少傾向にあることが分かる。つまり,84.9%から,79.2%及び79.6%へと減少及び横バイしてきている。一方で,従業員数9人以下の小規模な小売業と従業員数10人~99人の相対的に中規模な小売業は,その比率を高めているということが分かる。

表1

平成6・24・28年度の小売業の従業員規模別事業所販売額の比率

出所:下記に基づく各年度の数値から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業統計表』第1巻 産業編,(財)経済産業調査会。

これらから言えることは,第一に,小売事業所数が減少する中でそれを誘引しているのは小規模な小売業であること,そして第二に,大規模な小売業が必ずしもその販売額比率を高めているわけではなく,規模が中程度の小売業が事業所当たりの販売額を増やしてきているということである。

それでは,一般的には特にこの小規模な小売業との取引を中心として行ってきている卸売業は,この小売業の動向にどのように対応しているのであろうか。従来,主に地域商業を支えてきた中小規模の小売業,それは商店街であったり,地元の生業店であったり,というのが一般的な見方となるだろう。となると,先ずは取引先数に直結する事業所数比率を減らし,一方で販売額比率ではやや増加している小規模小売業の減退の影響は卸売業にはマイナスに影響を及ぼしており,それが卸売業の販売額推移を一貫して減少させていることに繋がっていると考えてもよいのであろうか。

ここで,図7を見てみよう。卸売業事業所比率では相対的に中小規模なものが堅調に維持されている。また,小規模なものは事業所数比率を若干ではあるが高めている。さらに,販売額比率を見てみると,やはり中小規模の卸売業が相対的に若干ではあるが比率を高めてきている。そして,大規模な卸売業がやや減少傾向を示している。結局,全体の比率からみれば,事業所数比率と販売額比率両者ともに小規模な卸売業が,少しではあるが伸びてきており,中規模な卸売業は横ばいとなっている。しかし大規模な卸売業は事業所比率と販売額比率共に減少させ,相対的に大規模な卸売業が卸売業全体の減退の主原因となっていると言えるであろう。(以下の図7と表2を参照されたい)。

図7

平成6・24・28年度の従業員規模別卸売業事業所数比率の推移

出所:下記に基づく各年度の数値から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業統計表』第1巻 産業編,(財)経済産業調査会。

表2

平成6・24・28年度の卸売業の従業員規模別事業所販売額の比率

出所:下記に基づく各年度の数値から作成したものである。

産業省経済産業政策局調査統計部編『商業統計表』第1巻 産業編,(財)経済産業調査会。

結局のところ,以下の表3にあるように,平成6年度から平成24・28年度にかけての商業・流通の変化の方向は,事業所規模別に纏めることができる。

表3

小売業・卸売業の平成6年度から平成24・28年度の変化方向

註:筆者が上記の図6・7,表1・2に基づく作成したもの。

さて,ここで少し考えてみよう。古くから商業・流通の存在意義として認識されているM. Hallが定式化した取引総数単純化の原理,そして不確実性プールの原理は,もちろん商業・流通部門への適応である。そして小売業部門よりも卸売業部門への適応においてその効果の優位性が高いと言える3)。しかしながら,この定式化には川上と川下における取引先数の多数性がある種必要である。また,卸売業からみて,川上・川下ともに取引業者となる生産や小売業の小規模性も,この定式化の優位性を高めることになるし,特に個別の消費者に直面する小売業については品揃え形成において,小規模性は大きな課題となる。と言うことは,その前提が崩れれば,すなわち中小小売業が減退していけば,商業・流通部門に留まり続けることのできる卸売業の存在もまた縮小化されることになるとも言えよう。

ところが,上で見てきたように実態として小売業の事業所数は全体として減少傾向にある。その一方で小売業の販売額は全体としては近年堅調に増加しつつある。この販売額では,大規模小売業や全国展開の組織型小売業に依存する部分が多いことは否めない。しかしながら,大規模小売業は事業所数比率でも販売額比率でも減少してきており,それに対して,主に中規模な小売業が小売販売額の上昇に貢献していることが分かる。また,小規模な小売業も横ばいで維持されながら,それなりの寄与をしていると言える。つまり小売業の事業所数が減少することにより,卸売業の介在意義の効果が小さくなり,それが卸売業の事業所数を減らすことに関連していると言えるが,それは卸売業を活用することを所与とせざるを得ない小規模小売業によるものと言えよう。そして中規模な小売業は,むしろ事業所数比率を高め,さらに販売額比率も高める傾向にある。また小規模な小売業は事業所数比率において減少傾向にあるとは言え,販売額比率では横ばい傾向を示している。卸売業全体では,事業所数も販売額も減退しているが,この中規模そして小規模な小売業の堅調な動向が,卸売業の中規模なものと小規模なものにおいて事業所数比率を堅持・増加させ,また販売額比率でも堅持・増加をもたらしていると言えるのではないだろうか。なお,ここで中規模及び小規模と言う場合に,企業規模ではなく事業所規模であることに注意しておく必要はある。

大規模な卸売業の事業所比率・販売額比率の低下が卸売業全体の事業所数減少と販売額減少をもたらしているとはいえ,部分的には連関性を残しつつ,卸売業の存在意義を堅持していると言ってよいであろう。この中規模の卸売業がメインとなり,中規模そして小規模な小売業を支援しながら地域の商業・流通を下支え,それがまた小規模な卸売業の増加に寄与しつつ,結果として小売業の販売額上昇の一因にもなっていると考えてもよいであろう。

本来は,卸売業と小売業がある種の連関性を持って,取引の連動性を高めて流通の活性化が図られる4)であろう事態が,近年ではそれぞれに規模が異なる事業所での差異がうまれ,全体としてうまく連関していないが,部分的にはそれをつなぐ役割を中・小規模な小売業と中規模な卸売業が果たしているということではないだろうか。その役割遂行に当てはまる一つの事例が,本稿で考察されるコスモス・ベリーズ株式会社であると言える。コスモス・ベリーズ株式会社は,ボランタリーチェーンの本部機能を果たす企業であり,近年成長を続けている。以下では,このコスモス・ベリーズ株式会社のビジネスモデルについて考察してみる。それは,この企業が卸売業として小売業を支える役割を果たしているからである。その前に,先ずはボランタリーチェーンについて,簡単に確認しておこう。

IV. ボランタリ―チェーンの特徴と実態

ボランタリーチェーン(以下では,VC)は,Suzuki(1980)によれば,1883(明治16)年スイスの食料品小売業者のSHGが小売業者主宰の共同仕入れ機構として始めたものが初期のものとされている。また,1916(大正5)年には米国で卸売業者主宰のVCがみられ,1926(昭和元)年にはスーパー・バリューやフレミング等の有力食品卸企業が参加する卸売主宰のIGA(Independent Grocer’s Alliance)が結成されている。日本では1929(昭和4)年に小売業主催のVCとしてうまれた全東京洋品商連盟が,初期のものとされている5)。しかし,その以前からVCの基盤となる動きは見られ,1912(大正元)年に東京実業薬剤師会(薬品商),1928(昭和3)年に赤星靴チェーン等が登場している。大正末期から昭和初期にかけて当時の威勢を発していた大規模小売業である百貨店問題への対応上,小売店への支援策としてVCは注目されていたのである6)。VCの導入は,大正期にまで遡ることができるが,本格的な普及は第2次世界大戦後である。本稿冒頭,近年の中小小商業に対するその減退の対応策について言及したが,1996(平成8)年には通産省(現経済産業省)による助成制度が設置される等大規模小売業者が活性化する時期に,中小小売業への支援のための活性化策の一つの有効な方向性として,VCはその時からすでに着目されていたということである7)

さて,このVCの特徴はどこにあるのだろうか。日本ボランタリーチェーン協会の定義によれば,VCは,「同じ目的を持つ独立事業者が主体的に参画・結合し,チェーンオペレーションの仕組みを構築・活用して,地域生活者のニーズに対応した商品・サービスを提供する組織」とされている。従って,そこに参加する事業者は独立性が担保されつつ,共同化による規模の経済などのメリットを享受して大規模小売業に対抗するものとされたのである。すなわち,小規模な独立事業者が,仕入れ取引において規模の経済を求めて共同仕入れを行い,販売取引において品揃え形成におけるある程度の独立性・自由度を保持ししつつ,そして販売促進活動において共同化することによる規模の経済を求めたものであり,市場対応上の適応化とオペレーション上の標準化を融合させるべく組織化されたものであると言えよう。

また,Suzuki, Azuma, Kakeda, and Mimura(2016)では,協調関係だけではなく,衝突関係も存在することが指摘され,VCと言う組織が形成されても,必ずしもメンバー全員の利益に繋がるものではないことに注目した上で,VCを「チェーンストアの長所を参考にして,小規模の独立した事業所が所有上の独立性を維持したまま運営上の共同関係を行うもの」8)と指摘されている。

これらの定義から,図8にあるように,チェーンストアの一つとしてVCが生まれてきている以上は,VCは組織全体での共同チェーンオペレーションを前提とすることを拒めない組織属性を有している。そして,この契約の制限を受けた中で,各加盟店の独立性を担保しつつ,仕入れを中心とした運営管理のための本部機能を果たす組織部署を設置し,それを中心にした運営が行われることになる。従って,仕入れや販売の独立性があるが故に,加盟店に対して契約に基づく行動を守らせるための拘束力には曖昧さを含むことになりがちである。また,基本的に加盟店は独立性を維持するが故に,個々の加盟店に対して強固な共同意識を醸成するにはそれなりの困難性を有していること,つまりVCとして個々の加盟店を完全にコントロールすることには限界があることは明白であろう。

図8

チェーン組織におけるVCの位置づけ

出所:(一社)日本ボランタリーチェーン協会編(2016)『一半社団法人 日本ボランタリーチェーン協会創立50周年記念誌 これからのボランタリーチェーン協会』,pp. 4–5,に基づき,筆者が一部加筆修正したものである。

入手できたデータに基づいてVC加盟事業所数の推移を見てみると,このようなVCは,平成14年以降4万1千店から平成26年度77万5千店へ増大している。またその販売額を見ても,平成14年度の6兆5千800億円から平成26年度に12兆2千億円へ大きく増大していることが分かる(図9を参照されたい)。

図9

VC加盟事業所の販売額と事業所数の推移

出所:各年度の『商業統計表 流通経路別統計編(小売業)』に基づいて作成されたものである。

さらに,その内訳を規模別で見てみたものが,図10と図11である。加盟店の従業員数比率で見ると,VC事業所数を増やしているのは相対的に小規模な加盟店であることが分かる。また,図11からは,VC加盟事業所の販売額を増加させているのも,また相対的に小規模そして大規模な加盟店であることが分かる。すなわち,大規模小売業が中心的・支配的な小売業にあって,VCでも大規模な小売業が大きい影響力を持つとは言え,相対的に中規模・小規模な事業所もまたそのポジションを堅持し,小売業の中で確実な存在感を示しているのである。

図10

VC加盟店事業所数比率の従業員規模別推移

出所:各年度の『商業統計表 流通経路別統計編(小売業)』に基づいて作成されたものである。

図11

VC加盟事店業所販売額比率の従業員規模別推移

出所:各年度の『商業統計表 流通経路別統計編(小売業)』に基づいて作成されたものである。

あえて刺激的に言うならば,たとえ地域の小売店が減退・消滅してしまったとしても,機能としての小売機能を大規模小売業のような他の機関が遂行すれば,最終消費者に対する社会的厚生は維持されると言えよう。しかし,現実問題としては人口縮減化が進む日本市場においては,大規模小売業はこれまでのような拡大出店を目指すことはなく旗艦店に集約・整理統合していくだろうし,中小零細規模小売業は販売額減退と後継者不在により閉業・事業撤退していく傾向にある。これらにより,卸売業と小売業の連関が機能しなくなり,商業・流通業の減退が起こるという悪循環が生じてきていると言うこともできよう。それは,特に全国市場ではなく,小さな商圏である地域市場において顕著になりつつある。そういう中にあって,地域において卸売業と小売業の連関性を高め,既存小売業を活用しつつ,地域経済の活性化を進めることができるのであろうか。その一つの答えが,VCにあると言える。これまでみてきたように,大きくは減退傾向にある商業・流通業において,中規模・小規模を中心としたVCが,卸売機能を遂行する本部企業と共に,加盟店小売業を増大させてきているのである。従来規模の経済を求めて展開してきた全国市場への適応は,相対的に小商圏である地域市場への適応では,ミディアムサイズであることのメリットが存在するといえよう。VCは,そういう意味では小規模な小売業を加盟店として取り込み,中規模な事業体としての本部企業の展開と言う点で,地域市場においては親和性が高い業態であると考えることができるのである。

そもそもVCは,他のチェーン組織に比べて任意性・自由性が高い流通業態である。それをある種の共通ルールに基づく共同化と言う制約の中で,規模の経済を求めると共に,個別適応も求めると言う業態である。それ故に,地域の小さな商圏を対象とする中規模・小規模小売業にとっては,標準化・共同化と個別適応化・自由化の共存と言うVCの特徴的メリットは享受し易いと言えるであろう。そのメリットを最大限に生かしながら存在しているのがコスモス・ベリーズ株式会社と考えられる。そこで以下ではコスモス・ベリーズ株式会社の事例を見てみたい。

V. コスモス・ベリーズ株式会社の諸属性

コスモス・ベリーズ株式会社は,愛知県名古屋市名東区に本社を置くボランタリーチェーンの本部企業である。1971年に株式会社豊栄家電を創業し,もともとは愛知県下で家電製品を扱うナショナルショップ4社でスタートしたものであったが,2005年より現社名となった。2005年にはヤマダ電機が株式の51%を保有するようになり,ヤマダ電機との関係性が強固なものとなった。その後,2008年にはヤマダ電機の100%子会社となっている。(以下の表4を参照されたい)。

表4

コスモス・ベリーズ略史

出所:コスモス・ベリーズ株式会社HPおよびヒアリング調査に基づき筆者が作成

その構成は,2005(平成17)年の仕入口座を有する加盟企業数121社・総店舗数121店舗から,2017(平成29)年12月現在で加盟企業数3684社・総店舗数10,795店舗にまで,年々その数を増加させている(図12を参照されたい)。加盟企業の業種は81業種に上り,上位25業種で加盟店数の95%を占めている9)

図12

加盟企業数と総店舗数の推移

出所:コスモス・ベリーズ株式会社資料及びヒアリング調査に基づき,筆者が作成。

さて,コスモス・ベリーズ株式会社は,VCの本部機能を遂行する企業組織である。その基本的なミッションは「地域店に「小売の公平な競争環境」を提供すること」であり,具体的には家電販売における仕入を,複数の加盟店で共同仕入をすることによって,各メーカーからの仕入価格を低く抑えて,地域の家電小売店に低単価提供することである。その中心は,BFC(ベリーズ・フレンド・チェーン)と呼ばれ,以下のような条件下で加盟店は共同のメリットを享受できる。すなわち,①仕入れ額に関係なく加盟金・加盟会費は一定額,②本部からの仕入れノルマ・売上ノルマは課されない,③現在の取引メーカーとの帳合は継続可能,④店名や店舗看板は現状のままで可能,④販売促進チラシなどは受益者負担による,⑤仕入れ量に関係なく仕切り価格は均一,⑥ヤマダ電機のインフラ利用可能(ヤマダ電機店舗の店頭在庫を活用し,店舗からの直接引き取り可能,店舗をショールームとして活用,物流・宅配・修理・工事のサービス利用可能)という諸条件が設定されている(図13を参照されたい)10)。この図の矢印で示された働きかけにあるように,コスモス・ベリーズ社自身は最終消費者への小売販売することはなく,ある種の独立性を有した加盟小売店を支えるために,仕入本部としての役割を果たしている。その中でヤマダ電機という小売業者を活用して加盟小売店の負担軽減を実現し,かつ存続・成長への支援を行っている。流通段階において,製造業者と小売業者の間に介在し,仕入本部としての卸売流通段階を形成し,小売加盟店への支援機能を遂行しているのである。それは,卸売流通機能の中で,特にリテール・サポート機能を品揃え,物流・在庫,情報の面で遂行し,結果として中小規模の地域に点在する小売業を支援しているのである。

図13

コスモス・ベリーズ(株)のビジネスモデル

出所:『日経流通新聞』2014(平成26)年3月26日掲載記事に基づき,筆者が加筆修正したものである。

なお,BFCのシステムを進展させたCМS(コスモス・メンバーズ・ストア)も展開されている。これは,上記のBFCにPOSを導入すると共に,家電メーカーにとってはヤマダ電機の一店舗と位置付けられることになり一帳合の取引となるものである。この業態はより多くの商品扱い・販売促進活動を可能とし,在庫補償も受けられるものである。

VI. コスモス・ベリーズの特徴的優位性

商業・流通業における商流,物流,情報流と言う流通フローを効率的かつ有効に流すことに関わるが故に,卸売業と小売業は存在し得る。この中で,中小規模の小売業であってもVCの枠組みを利用することによって,物流と情報流を流すことにおいての優位性を得ることができるであろう。それは,いわゆる大規模小売業や全国市場にチェーン展開する組織型小売業が実施している規模の経済を梃子としたビジネス展開と類似したことを,このVCによる共同化を進めることによって可能としているということである。しかしながら,商流を流すということに関しては,VCであること自体つまり仕入れと業務の共同化を本部企業が行うということでもって,その流通フローの流れに対して特段の優位性が提供されるものではない。もちろん,VC本部に集約された自動決済システムの活用や危険負担のメリットはあるが,商流と言う流通フローを流すということ,つまり所有権移転には在庫の形成を含めて買い取りの費用に相当する金銭的ストックが必要であろう。それをVCであることによって担保されるということでは,必ずしもないのである。VC加盟店の自由度を担保し,独立性を許すということは,経済的にも独立であるということであるだろう。例えば,委託販売の形をとるなら,中小規模の小売業でも商流に直接関わることなく,VC本部を活用して物流と情報流を効率的かつ効果的に流すということで従来のVCのメリットを享受できるが,商流に拘ると中小規模の小売業では資金的制約や在庫スペースの問題からもその流通フロー展開は困難であろう。上記のコスモス・ベリーズ株式会社は,ヤマダ電機と言う地域の大規模小売業の店頭在庫を活用することによって,この商流を流すことに対する障害の程度を軽減しているのである。コスモス・ベリーズ株式会社の実現しているVCの強みは,地域に点在する中小小売業が加盟店化することによって,そのシステムを利用することにより,物流と情報流を有効に流すことだけではなく商流をも有効に流すという視点で優れているということであるだろう。

さて,VC本部の役割を果たすコスモス・ベリーズ株式会社は,その機能遂行上は卸売業でもある。この卸売業という側面に着目すると,幾つかの特徴的な課題が見えてくる。それは,第一にバンドリングとアンバンドリング,第二にハブ&スポーク,そして第三に業種対応と業態対応である。

先ず,バンドリングとアンバンドリングである。従来の卸売業は,様々な卸売機能を遂行することによりその機能遂行上の優位性を維持してきた。それは,第一に,品揃え形成機能であり,生産者の大量生産志向と小売業者の多品種少量販売をマッチングするために,収集,取り揃え,仕分け,集積,分散・分配という一連の品揃え形成を行うものである。第二に,生産部門と消費部門・小売部門との間の情報を整理し,かつその往来をスムーズに実現するための情報伝達機能である。第三に,危険負担機能,第四に,物流機能(在庫・輸送機能),そして第五に,金融機能である。これらの機能は生産部門と消費部門・小売部門間で取引の円滑化・促進化を進めるために卸売業者が果たす役割である。これらの諸機能を統合して,つまりバンドリングして一括提供していたが故に卸売業の流通部門介在は正当化されてきた。しかしながら,バリューチェーンとして流通段階をもとらえていく中で,このバリューチェーンを分解することにより強みを生かせる特定の業務に特化・専門化していくアンバンドリングが生まれてきた。つまり,仕入れ,製造,出荷配送,小売という流通の全段階を経ていく中で,価値の付加を行うことによりバリューチェーンが生まれ,それぞれの強み分野に特化し,それが結果として競争力を高めることになるものである。ところが,ユーザーのニーズが複雑かつ多様になる中で,その一元的対応,特に物的側面とサービス的側面の統合に対する一元的サービス対応が重視されるようになり,再びバンドリングが重視されるようになってきたと言えよう。VCとして集約できる活動が増えるという意味で,このバンドリングにより,商流をもより有効に流すことがコスモス・ベリーズ株式会社の特徴的な優位性の一つであると考えられる。

次に,ハブ&スポークである。このハブである中核となる本部組織がコスモス・ベリーズ株式会社である。ハブ&スポークの強みは,物流の共同化によりシステム全体の配送の効率性を上げることができるということである。また,VC本部として情報を縮約・整合できるということである。これにより,必要な配送設備の節約化と配送時間の短縮化が実現されるし,さらには環境負荷の削減と言う視点からも,その効果は大きくなってくる。コスモス・ベリーズ株式会社はこの機能遂行により,物流と情報流をより有効に流すことで優位性を手に入れているのである。このハブとしての役割は,上述したHall, M.の取引総数単純化,そして不確実性プールという各原理を実現するということであり,物流と情報流の流れはこれの実行により実現されることとなる。

そして,業種対応と業態対応である。従来の流通段階では卸売業は業種別形態をとることとなり,小売業で生まれてきた業種を超えた多様な業態展開に対応することが困難であった。もちろん総合商社と呼ばれる業種を超えた多様な製品取り揃えを行う卸売業も存在するが,専門商社等が温存され,基本的には卸売業は業種別卸売業者でもって構成されている。しかし,この業種別卸売業では,総合的な品揃えを必要とする総合スーパーなどの小売業には十分には対応できない。また,当該卸売業種とは無関係な業種の商品構成を行う小売業には対応できない。これは,特に相対的に小さな規模の事業所で考えると,1業種卸売業対1小売業態とならざるを得ないであろう。しかし,コスモス・ベリーズ株式会社は,家電業種という1業種の製品扱いでありながら,加盟店を家電販売店だけにとどめず,多種多様に拡大している。これにより,地域における多様な小売業態に対応し,地域の中小規模小売業に対して,それも多様な小売業態に対しても取引関係を結んで,地域の中小規模の小売業を支えることを実現している。現在の取り使い製品は家電製品という業種だけではあるが,小売業に対して商流,物流,そして情報流を有効に流すことを行っているのである。それは,加盟店業種の多様性とその拡大傾向を見れば自明のことであろう。

VII. 残された課題―流通の捉え方・新視点

最後に,残された課題について考えておきたい。本稿で考察してきた商業・流通の今後の在り方については,全ての産業界に当てはまることであるかどうかを確認できてはいない。あくまでも家電業界での新しいVCの動向に留まっている。従って,他の業種・産業界における地域中小小売業を支えるVCを検討する必要性は残る。特に食料品・日用雑貨などの生活に関わる製品業界等は,地域商業を支えていく上で検討は必要であるだろう。しかしながら,コスモス・ベリーズはVC参加の加盟企業を地域の課題解決を行う企業に広げていることから,他の産業界にとっても有益な示唆を含んだ一つの方向性を示しているということは言えよう。業種に縛られることなく,小売業の業態化への対応を実現し,最終消費者の課題解決を提案し,それも地域商業が直面する小さな商圏において可能な形態で提案されている。改めてコスモス・ベリーズ株式会社の事例から言えることは,新しいVCの在り方を提案することにより,地域に点在する中小規模小売業を支援しつつその活性化を図る一つの方向性が提示されたということである。それは,標準化のメリットを享受しながらも,個別適応化を図る商業・流通業の在り方として興味あるビジネスモデルである。所謂マス・カスタマイゼーションを進める可能性をも提示した点では興味あるものである。

なお,理論的インプリケーション及び課題としては,次のことが考えられる。元々の卸売業や小売業は,商流,物流,情報流と言う流通フローを流すことにおいて,そのバンドリングにより一括して機能遂行することことに優位性があった。それは取引相手に効果的・効率的に対応できるということである。しかし,そこから,アンバンドリングによる機能専門化のメリット(低コスト,高品質)へのシフトが起こり,さらにグローバルにも経済発展することにより分業がさらに進んだことによって,流通段階も多様な流通機能をいずれかに特化して専門化することは,一つの方向性として有効である状況が生まれてきた。それは,IT革新や物流の高度化と言う商業・流通業のインフラ体制が整ってきたということで裏打ちされる。それが今や,リ・バンドリングとでも呼ぶことができるバンドリングへの回帰が生まれてきている。従来の商流・物流・情報流を分解(アンバンドリング)していくことに対して,それを外部調達しながらも統合(リ・バンドリング)する流通機関の登場である。ただし,そこには単に規模の経済性を求めるだけではなく,多品種少量への対応そして製品とサービスのセットでの対応と言う質的整合性,コスモス・ベリーズ株式会社の言う業態化対応も求められる。また,標準化した全国市場だけではなく,個別化した地域市場への適応化と言うことも技術革新により可能となると共に,必要とされてきている。物流と情報流だけではなく,商流をバンドリングして有効に流すことの再評価,さらには地域市場への対応と言う点で,この事例は一つの有益な示唆していると言える。

実務的インプリケーション及び課題としては,次のことが考えられる。減退傾向にある小規模小売業がコスモス・ベリーズ株式会社のVCを活用することにより活性化する道を可能とした。しかしながら,それにより地域の小規模卸売業が活性化することは担保されない。コスモス・ベリーズ株式会社が,その本部企業として活性化することはあっても,地域の卸売業は淘汰されていくことに変わりはない。本稿の基本視点である,卸業と小売業の連関性のもとで両者の活性化を図るということでは,コスモス・ベリーズのビジネスモデルでは限界があるとも言えよう。しかしながら,近年のコスモス・ベリーズ株式会社は業態化指向に従い,多様な業種にその加盟店を広げている。今後これら産業間の連携が生まれていく中で,新たなシナジー効果から地域の小規模小売業が活性化していき,それによる小規模卸売業への波及効果も期待できるのではないだろうか。

 

*事例分析にあたり,コスモス・ベリーズ(株)代表取締役社長 三浦一光氏,及び同社MSM流通研究所長斉藤昭造氏にヒアリング調査など,大変お世話になった。ここに記して御礼を申し上げる。

1)  考察する統計数値は,必ずしも実際の減退や増大に当たる年度と同じものとはなっていない。それは,本稿で利用している統計において,必ずしも毎年度調査が行われてはいないからである。従って,近似する年度で代置して,考察することにした。

2)  中小企業基本法に基づく定義では,中小企業と位置付けられる卸売業は「資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人」,そして中小企業と位置付けられる小売業は「資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人」とされている。そして,小規模企業の定義では,卸売業と小売業からなる商業としては,「従業員5人以下」をもって小規模企業としている。本稿では,便宜的にこの従業員数に近似させ,相対的な従業員数規模でもって区分するものとする。

3)  この原理が,商業・流通全般に向けてではなく,卸売業に対する説明としての方がその有効性が高いことについては,Nishimura(2009)Hall(1948)Tamura(2001),そしてSumiya(2010)を参照されたい。

4)  ここでは,取引の連動性を高めることが流通の活性化に繋がると想定している。取引の連動性が高まれば,卸売業と小売業の連関性が高まり,流通全体の市場サイズが大きくなることとなる。卸売業の存在に対する一つの重要点と考えられる。Nishimura(2009)を参照されたい。

5)  Suzuki(1980)pp. 147-154,及びIto(2001)を参照されたい。

6)  Tokunaga(1967)を参照されたい。

7)  我が国における小規模小売業が,チェーンストア等に対して同様の競争条件を有することによって,適正な競争状況を担保するための組織としてVCは,政策的に組織化されたのである。VC誕生の詳細についてはShizawa(1980)を参照されたい。

8)  Suzuki et al.(2016),p. 213を参照されたい。

9)  加盟店の内訳は,コスモス・ベリーズ資料に基づくと,電気店で43.3%,そして燃料店で22.8%と,この2業種で66.1%を占めている。これらに続き電気工事店7.9%,工務店・リフォーム店7.4%,EC店4.0%,不動産1.1%で全体の86.5%に上る。その他に,事務機器・文具店,百貨店,建材店,リサイクルショップ,介護ショップ,便利屋,空調水道設備工事,電財店,生活雑貨店,理美容院,運送・引っ越し店,農協,住宅設備販売店,PC・OA関連,ギフトショップ,新聞店,服飾衣料店,通信・カラオケ,コンサルティング,パソコン教室,文教教材店,電気設備販売,スーパー,ホームセンター,カーショップ,広告業,商社,薬局,家具店,自動車部品店,金物販売店,廃棄物処理業,レンタル業,人材派遣業,パソコンショップ,インテリア店,時計・貴金属店,農機具店,音響設備店,携帯電話・プロバイダー,自動車整備業,電動工具販売,カメラ店,記録メディア販売店,酒店,健康食品店,飲食業,牛乳配達店,畳屋,冠婚葬祭業,イベント企画,事業協同組合,出版,プリペイド会社,保険代理店等と多様な業種に広がっている。特に,生活支援産業と生活インフラ産業への広がりは,特徴的であり,地域経済を指させる関連業種には着実に広がっていると言えよう。

10)  コスモス・ベリーズのビジネスモデルについては,幾つかの評価視点はあるであろう。家電業界におけるその展開については,Shimizu(2011)及びOouchi et al.(2017)を参照されたい。

また,コスモス・ベリーズは外形的には小売業主宰のVCであるが,地域の小規模小売業を支える仕入本部としては卸売業としての機能を遂行していると言える。これについては,Nishimura(2018)を参照されたい。

西村 順二(にしむら じゅんじ)

甲南大学 経営学部経営学科 教授

神戸大学経営学部商学科卒業

同大学院経営学研究科博士課程単位取得満期退学

博士(商学)(神戸大学)

1987年福山大学経済学部助手,同大学専任講師,甲南大学経営学部助教授,リーズ大学客員研究員,エディンバラ大学客員研究員を経て,1998年より現職。

References
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