マーケティングジャーナル
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投稿査読論文
製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果
― 変更するデザイン要素によって購買への効果は異なるのか ―
河塚 悠
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2019 年 38 巻 3 号 p. 95-110

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Abstract

本研究の目的は,製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更が,消費者の製品購買に及ぼす影響を明らかにすることである。そこで,変更されたデザイン要素ごとに影響を測定し,その影響に差異があるのかを探索的に検証した。検証には,複数のペットボトル入り茶系飲料ブランドの購買実態に関するデータを用いた。これらのブランドでは,製品の成分や抽出法による中味の改良に伴うパッケージの「ラベルデザインの変更」もしくは「ラベルデザインとボトル形状の変更」と,中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」が行われていた。分析の結果,中味の改良に伴うパッケージ・デザインの変更の効果は,変更されたデザイン要素によって,また,変更されたデザイン要素は同じであっても,中味の改良が伴う場合と増量が伴う場合では,消費者の購買に及ぼす影響が異なることが明らかになった。

I. はじめに

毎年さまざまな製品カテゴリーで数多くの新製品が発売され,その数は年々増加傾向にある(Nakamura, 2001)。今日市場に導入されている新製品の多くは,新規に開発された製品ではなく,既存製品の味やサイズ,パッケージの色などを新しくしたリニューアル新製品と呼ばれるものである。マーケターがリニューアルを実施する目的は,その成果が出る時間軸によって,「短期」「中期」「長期」「再起」の4タイプに整理することができる(Sasada, 2013)。「短期」は製品の売上を短期間で向上させるというもので,発売した製品の評判が思わしくなく,長期間売上の低迷が続いている製品のテコ入れや,売上の好調な製品のさらなる加速を目的としている。「中期」はロングセラー化を目指し,ブランド力を向上させるもので,製品の認知度を高め,シリーズ製品を拡充して,ブランドとしての基盤を確立し,ブランド力を蓄えることを目的としている。「長期」はブランドの活性化を図るというもので,長期的にトップブランドとしての地位を維持するためには,ブランドの鮮度を維持することが必要であり,新製品を投入しつつ既存製品のブラッシュアップすることを目的としている。そして,「再起」はかつての人気ブランドを復活させ,市場に投入することを目的としたもので,ブランドを形成するどの要素を維持するのか,あるいは改めるのかが重要なカギとなっている。このように,リニューアルはさまざまな目的で行われているが,いずれにしても「どのように」リニューアルするのかが,その目的の成否を左右している。

リニューアルした新製品が消費者に受け入れられるか否かには,製品の品質が良いことはもとより,パッケージのデザインが優れているのかどうかも大きく関係しているという指摘がある(Nikkei Design, Kanki, Sasada, Takahashi, & Hirokawa, 2013)。実際に,リニューアルの成否にパッケージ・デザインが関係したと思われる代表的な事例が,製品カテゴリーを問わず様々存在している。例えば,小林製薬が販売している医薬品「命の母」は,パッケージ・デザインを変更したことで,売上が拡大している(Morinaga, 2015)。一方,牛乳石鹸共進社が販売している石鹸「赤箱」は,従来は製品名の通り赤いパッケージを採用していたが,パッケージの色を赤からピンクに変更したことで,また資生堂が販売している「スーパーマイルド」もパッケージ・デザインを変更したことで一時的に売上を落としている(Kamioka, 2013; Takahashi, 2014)。さらに飲料カテゴリーでは,パッケージ・デザインを変更しただけで,売上が変動した例として,「コカ・コーラ」と「トロピカーナ」のデザイン変更がある。1995年にペットボトルにくびれたデザインを採用した「コカ・コーラ」は,製品の中味や広告キャンペーンなどを変更していないにも関わらず,売上を7%増加させている(Ishii & Onzo, 2010; Onzo, 2002)。一方で,2009年にパッケージ・デザインを変更した「トロピカーナ」は,デザインを変更しただけで,既存顧客の支持を失い,売上を20%も減少させている(Zmuda, 2009)。製品をリニューアルする際に,パッケージ・デザインを新たなものに変更することは,外観上の新しさをもたらし,新規顧客を獲得する機会になる。しかし,その一方で,既存製品のブランド・エクイティに影響を与え,当該製品に対する消費者の期待との不一致を引き起こし,既存顧客を離反させてしまう危険性もはらんでいる(Garber, Burke, & Jones, 2000/2002, pp. 24–33)。このように,パッケージ・デザインを変更した結果が異なる事例が見受けられる。しかし,なぜそのリニューアルで売上が増大したのか,あるいは減少したのかという原因究明や,売上が増大したリニューアルと減少したリニューアルにはどのような違いがあったのかを検証した研究は非常に少ない。また,パッケージ・デザインを変更した複数のブランドのデータを用いた変更の効果検証が実施されていないため,測定された効果はそのブランド特有にみられる効果として扱われてしまう傾向がある。そのため,マーケターはリニューアルの際にどのようにパッケージ・デザインを変更すれば,消費者から好意的な反応を引き出すことができるのかを常に試行し続けている。

そこで,本研究では,多くのマーケターが製品をリニューアルする際に直面する「どのように」パッケージ・デザインを変更するかといった意思決定上の課題に注目し,リニューアルの際に「どの」デザイン要素を変更するかという観点から提言することを目的とする。

II. 先行研究レビュー

1. パッケージ研究の流れ

マーケティング領域では,容器や包装をデザイン,製造する活動全体を「パッケージング」,デザインされた容器・包装を「パッケージ」と呼び(Kotler, 2003),パッケージは,「製品を保護し,プロモートし,輸送し,識別するために用いられる容器のこと」(Bennett, 1995)と定義されている。

パッケージを取り上げて議論した研究は,1960年代にまでさかのぼる。当初は,パッケージの機能や役割を整理するような概念的な研究にとどまっていたが,1990年代に入り,パッケージ・デザインを扱った本格的な実証研究が盛んにおこなわれるようになった(Togawa, 2010)。パッケージ・デザインを扱った研究には,パッケージを開発対象として捉えた研究,消費者に対する刺激として捉えた研究,公共政策的な問題や製品の倫理的な問題への対応策として捉えた大きく3つの研究潮流がある(Togawa, 2010)。本研究は,パッケージ・デザインを新たなものに変更することによる購買促進効果に焦点を当てたものであり,パッケージ・デザインを消費者の購買意欲を高める刺激として捉えている。そこで,パッケージを消費者に対する刺激として捉え,パッケージ・デザインと消費者の反応に関して議論した代表的な研究を概観していく。

消費者に対する刺激として捉えた研究には,パッケージを構成するデザインを要素ごとに切り分け,各要素が消費者に対してどのような反応を引き出すのかについて議論した研究と,パッケージをデザイン要素に切り分けず,パッケージ全体を研究対象とした研究の2種類が存在する(Togawa, 2010)。さらに,前者の研究は,カラー,画像,ロゴ,フォントなどの視覚的要素に着目した研究と,形状,サイズのような構造的要素に着目した研究の大きく2つに分類される(Underwood, 2003)。

まず,パッケージ・デザインを構成する個別要素の効果に着目し,視覚的要素に関して検証した研究では,消費者は寒色系のパッケージより暖色系のパッケージのほうがより強い効能を持つ医薬品であると認識する傾向があること(Roullet & Droulers, 2005)や,パッケージ上の画像は消費者の注意を引き付ける効果があること(Underwood, Klein, & Burke, 2001/2002, pp. 13–22),パッケージ上に掲載された画像が,消費者のパッケージに対する態度や信念にポジティブに影響を及ぼすこと(Underwood & Klein, 2002),画像は左側,文字はパッケージの右側に配置されたときに,パッケージ上の情報の再生率が高くなること(Rettie & Brewer, 2000)などが明らかになっている。また,解釈レベル理論を援用し,パッケージへの画像掲載の有無と消費者の製品評価の関係性を検討した研究では,心理的距離の遠近によって画像が掲載されているパッケージと掲載されていないパッケージでは製品評価に差異があること(Togawa, Ishii, & Onzo, 2016)が明らかになっている。そして,複数の視覚的要素に着目した研究では,高価格製品としてポジショニングされているパッケージは,黒を基調とした濃いカラーや,太く大きなローマン体の文字,垂直的な直線,製品の画像が含まれているが,逆に低価格で入手しやすい製品とされているパッケージは,白を基調とした明るいカラーやセリフ体の文字,水平的もしくは傾いた直線,曲線や円,人の画像が含まれていることが明らかになっている(Ampuero & Vila, 2006)。

パッケージの構造的要素に着目した研究では,細長いパッケージと幅の広いパッケージでは,実際は同容量であっても,前者のほうが容量を大きく知覚される傾向があること(Raghubir & Krishna, 1999),消費者は製品の美味しさに関係なくサイズの大きいパッケージからより多くの製品を消費する傾向があること(Wansink & Kim, 2005),容量を小さくしたパッケージからよりも,大きく知覚したパッケージから多く消費すること(Aydinoğlu & Krishna, 2010),製品の提供サイズが2倍になると,消費者の消費量は35%増加すること(Zlatevska, Dubelaar, & Holden, 2014)などが明らかになっている。

そして,パッケージ全体を対象とした研究では,パッケージが伝達する情報やイメージを包括的に捉え,それらが消費者の製品評価や購買にどのように関連しているのかの検証が行われている。この研究からは,デザイン特性の「自然」「調和」「精巧」といったイメージが,パッケージ・デザインから知覚した製品品質や魅力度を媒介して製品の価格予測に影響していること(Orth, Campana, & Malkewitz, 2010),パッケージ・デザインの「新奇性・個性」や「なじみ・身近」「高級感・洗練」といったイメージは製品の購買意向と関連していること(Ookaze & Takeuchi, 2009)などが明らかになっている。

2. パッケージ・デザインの変更に関する主要研究

パッケージ・デザインの変更に関して重要な示唆を与える研究も行われている。その代表的なものに,Schoormans and Robben(1997)Garber et al.(2000)の研究がある。

Schoormans and Robben(1997)は,パッケージの色と形状を変更させたパッケージを用いて,変更の程度とパッケージへの全体的評価との関係について検証を行っている。実験では,標準的な色の赤,中程度の変化を加えた色の赤とオレンジ,大幅な変化を加えた色のオレンジという3種類の色と,標準的な形状の長方形,変化を加えた形状の球形という2種類の形状を組み合わせた6種類のパッケージを用いている。実験の結果,デザインの変化に対する消費者の知覚が大きいほど,パッケージに対して注意が向けられるが,知覚が大きくなりすぎるとパッケージ全体に対する評価が低下することが示された。この研究結果から,彼らは大幅なパッケージ・デザイン変更の危険性を示唆している。

Garber et al.(2000)は,多くのパッケージ・デザインにはブランドを識別するための「アイデンティフィケーション要素」が盛り込まれていることに言及し,パッケージの色の変更と購買経験の有無との関係性を検討している。ここでは,バーチャル・シミュレーションを用いた実験を行っており,被験者1人につき5回の模擬実験を行い,3回目までは従来のパッケージを提示し模擬購買させ,4回目からは色を変更したパッケージを提示し模擬購買させている。4回目以降に提示するパッケージは,類似した色のパッケージか,逆に全く異なる色のいずれかである。その結果,3回目までにパッケージを購買した被験者は,従来の色と類似したパッケージのほうを購入する可能性が高くなり,一方,3回目までに購買しなかった被験者は,全く異なる色のパッケージのほうを購買する可能性が高くなることが明らかになっている。この結果から,特定のブランドにロイヤルティが高い消費者は,パッケージの色の変更度が大きくなるに伴い,当該ブランドを購買する可能性が低くなり,ロイヤルティが低い消費者においては高まることが示唆され,色の変更によるアイデンティフィケーション要素の喪失は既存顧客の混乱や離反につながる危険性があることが示されている。そして,パッケージを変更する際,ブランドは現在の顧客が有するブランド・アイデンティフィケーションの要素を維持することが重要であり,それらの要素が失われると,既存顧客はブランドを見つけ出すことが困難になり,購買の可能性が減ってしまうことも示唆されている。彼らは,パッケージ・デザインの変更による既存顧客の混乱や離反を防ぐために,徐々にデザインを変更し,顧客に新しい要素を学習させる機会を与える必要があると述べている。一方,顧客に親しみがないブランドや,シェアが小さなブランドは,変更の際に既存のパッケージ・デザインにとらわれる必要はないと言及している。

この2つの研究は,パッケージ・デザインの変更度合を議論することで,どのようにパッケージ・デザインを変更させると良いのかという点について重要な示唆を与えている。そして,パッケージ・デザインを構成する要素の変化度合によって消費者のパッケージに対する反応が異なるということと,製品の購買経験やロイヤルティの高さのような個々の消費者が有する要因によって,消費者のデザインが変更されたパッケージに対して示す反応が異なるということを指摘している。

3. 先行研究の課題と本研究の位置づけ

このように,パッケージに対する関心が高まり,様々な視点の研究成果が蓄積されつつある。そして,パッケージ・デザインの変更に関して議論した先行研究は,様々な目的のもとで製品のリニューアルを実施するマーケターが直面している「どのように」パッケージ・デザインを変更するかといった課題に対し,「どれくらい」変更するかという変更度合の観点から示唆を与えている。しかし,「どの」デザイン要素を変更するかという点に関しては,パッケージの色と形といったデザイン要素に対する消費者の反応を示してはいるものの,要素間の影響力の差異の検証は行われておらず,変更するデザイン要素に関する具体的な提言は行われていない。そこで,本研究は,パッケージ上の「どの」デザインを変更するかに関する議論を行う。

また,先行研究で確認されている,変更されたパッケージの色や形状に対する消費者の反応は,架空のパッケージ・デザインと購買環境の下で実験的に得られたものであるため,実際にリニューアルにおいてパッケージ・デザインを変更し,販売した場合,消費者から先行研究で示されたものと同様の反応が得られるとは限らない。そのため,より現実的なパッケージ・デザインの変更の効果を検証するためには,架空の製品やシナリオを用いた実験データではなく,実際の購買経験や実態に関するデータを利用することが重要となってくる。

そこで,本研究では,実際に製品のリニューアルを行い,パッケージ・デザインを変更した複数ブランドを取り上げ,それらのリニューアル前後の購買実態に関するアンケートデータを用いる。このようなデータを用いることで,購買におけるブランドの効果とパッケージ・デザインの変更の効果を識別した,一般化された変更の効果を測定できる。そして,「どの」デザイン要素を変更したかによって,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果を区別して測定することで,その効果の差異を明らかにする。

III. データとモデル

1. 使用データ

本研究では,株式会社野村総合研究所 Insight Signalシングルソースデータ(2012~2016年)を用いる。これは,消費者の性別や年齢,収入などのデモグラフィックスや,消費価値観,製品・サービス別の購買実態や購買意向に関する情報が含まれたシングルソースデータであり,株式会社野村総合研究所が2012年3月1日~4月28日,2014年2月8日~4月5日,2016年1月30日~4月2日に,関東地方に居住する20歳から69歳(2012年のデータは20歳から59歳)までの男女あわせて3000名に対して,調査期間の前半(1期)と後半(2期)の2回に分けて行った調査から得られたものである。このデータに含まれている製品カテゴリーの中から,調査期間の特定の2時点間で製品リニューアルが実施された同一カテゴリーに属す複数の製品を選び,データとして用いる。

2. 分析対象とする製品

本研究の分析のために抽出したカテゴリーは,ペットボトル入り茶系飲料カテゴリーである。このカテゴリーは,競争が非常に激しく,ほとんどのブランドが毎年のようにリニューアルを実施している(Nikkei Design et al., 2013)。特に,製品の味よりもパッケージ・デザインが消費者の選好に重要な要素になることが指摘されている(Kataoka-Shirasugi & Madokoro, 2002)。このことから,ペットボトル入り茶系飲料カテゴリーは,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果を評価するのに適していると考え,本研究の分析対象とする。

3. 分析に用いるデータ

(1) 購買実態データ

製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果を評価するために,調査期間の特定の2時点で,リニューアルを実施していない製品と,リニューアルを実施し,パッケージ・デザインを変更した複数の製品を取り上げて分析を行う。調査データから,リニューアルを実施していない「ブランドA」「ブランドB」と,リニューアルの実施し,パッケージ・デザインを変更した「ブランドC」「ブランドD」「ブランドE」「ブランドF」「ブランドG」「ブランドH」の計8つのブランドの購買実態に関するデータを分析に用いる。「ブランドC」「ブランドD」「ブランドE」「ブランドF」は,製品の成分や抽出法による中味の改良に伴ってパッケージ・デザインを変更したブランドであり,「ブランドG」「ブランドH」は,中味の増量に伴ってパッケージ・デザインを変更したブランドである。また,「ブランドC」「ブランドD」は中味の改良に伴いラベルデザインのみを変更したブランド,「ブランドE」「ブランドF」はラベルデザインに加えボトルの形状も変更したブランドである。表1は,各ブランドの購買実態に関して調査が行われた期間と,リニューアルの目的や内容をまとめたものであり,リニューアルを実施した「ブランドC」から「ブランドH」を販売する企業が公開している製品ページに記載されていた内容をもとに整理したものである。これらのブランドのリニューアルの実施目的は,先述した「中期」もしくは「長期」のブランド価値の浸透,強化と考えられる。なお,どのブランドもメーカー希望小売価格を調査期間の2時点で変更していない。

表1

ブランド別の分析データのプロファイル

(2) 消費者ライフスタイルデータ

本研究の分析では,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果をより詳細に明示するために,消費者間の効果の異質性を考慮した分析を行う。先行研究では,デザインに対する反応は個々の消費者において異なることが指摘されている(Bloch, 1995/2002, pp. 48–55; Garber et al., 2000/2002, pp. 24–33)。そこで,本研究では,消費者のライフスタイルの違いを考慮して,パッケージ・デザインの変更の効果を測定し,その結果を検討する。

マーケティングにおけるライフスタイル研究では,消費者のライフスタイルが購買行動に影響を及ぼすことが指摘されている。消費者のライフスタイルを考慮することで,消費者の購買行動をより詳細に考察することができ,購買行動の差異を捉える上で非常に有用であると言われている(Ko, Kim, Taylor, Kim, & Kang, 2007; Lin, 2002)。例えば,消費者のライフスタイルによって,広告に対する反応やブランドに対する態度,購買意図(Ko et al., 2007),購入するブランド(Lin, 2002),売り場デザイン(Shimizu, 2013)に対する反応が異なることが明らかになっており,ライフスタイルは消費者の製品・サービスに対する反応や購買行動の差異を捉える指標として優れている。そこで,本研究でも,消費者のリニューアル後の製品に対する反応の差異を捉える指標としてライフスタイルを用いた。

ライフスタイル研究の多くは,消費者のライフスタイルを分類するために,VALS(Value And Life-Style research)尺度(Mitchell, 1983),LOV(the List of Values)尺度(Kahle, 1983; Veroff, Douvan, & Kulka, 1981),RVS(Rokeach Value Scale)尺度(Rokeach & Ball-Rokeach, 1989)が開発されており(Inoue, 2001),消費者が見せる行動の根底に存在し,行動を規定する価値を用いてライフスタイルを分類している。これらはライフスタイルと消費者行動の関係性を議論した消費者行動研究において多く用いられている。一方で,先に示したような尺度を用いずに,研究者が独自に調査し,消費者が対象に対して抱いている考え方や関心度合でライフスタイルを捉え,それにより消費者行動の差異を明らかにした研究も行なわれている(Gutman & Mills, 1982; Ko et al., 2007)。Ko et al.(2007)は,因子分析を用いて消費者のファッションに対する考え方を,「ブランド・コンシャス型」「センセーショナル型」「実質型」「情報型」の4種類に分類している。そして,消費者がファッションに対してどのような考え方をしているかによって,広告に対する反応やブランドに対する反応,ファッションに関連する製品の購買意図に違いがあることを明らかにしている。そこでは,ライフスタイルを消費者はどのような価値を重視しているのか,対象に対してどのような考え方,態度を示しているのかという消費者の価値観をもとに捉えている。そこで,本研究でも,消費者の新製品を含む製品の購買行動の差異を明らかにするために,消費者のライフスタイルを製品やサービスの購入,および新製品や新サービスの選択に対する価値観で捉える。製品やサービスの購入に対する価値観は使用データに含まれている「消費価値観」データから,また新製品や新サービスの選択に対する価値観は使用データに含まれている「消費先進度」データを用いることで得ることができる。よって,以下では,消費者のライフスタイルに関する価値観を「消費価値観」「消費先進度」で表現する。これらで捉えた消費者のライフスタイルをもとに,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果を検討した。

4. 分析モデル

8つの茶系飲料に関する2時点の購買実態のデータと消費者のライフスタイルのデータを用いて,モデルを推定する。式(1)のような一般化線形モデルを推定することで,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果を,製品購買に及ぼすブランドの効果,時点の変化の影響を識別して,測定することが可能である。

  

logit=α0+i=17αiブランドダミーi

  

+t=15δt時点ダミーt

  

+j=15β0j消費価値観j+γ0消費先進度

  

+k=13ωk+j=15β1jk消費価値観j+γ1k消費先進度変更ダミーk (1)

被説明変数である「製品購買」は,購買の有無(なし=0,あり=1)で定義された2値の変数であり,製品の購買実態を表している。式(1)の右辺には3種類のダミー変数が組み込まれている。まず「ブランドダミーi」(i=1~7)は,製品購買におけるブランドの効果を各ブランドで識別するためのダミー変数である。これによって,パッケージ・デザインの変更の効果とブランドの効果を識別することができるだけでなく,各ブランドでブランドの効果を識別し,比較することができる。i=1は購買した製品がブランドBであるか否か,i=2はブランドC,i=3はブランドD,i=4はブランドE,i=5はブランドF,i=6はブランドG,i=7はブランドHであるか否かを示している。該当する場合には1をとり,該当しない場合には0をとる。7個すべてのブランドダミーが0をとる場合は,購買した製品がブランドAであることを示している。また,「時点ダミーt」(t=1~5)は,製品購買における時点の効果を各調査時点で識別するためのダミー変数である。これによって,季節性の要因や分析者がデータから観察できないマーケティング変数の効果,調査の時点が変わったことによって生じた製品購買の変化を測定することができる。さらに,時点の効果とパッケージ・デザインの変更の効果を識別することができる。t=1は製品を購買した時点が2012年2期であるか否か,t=2は2014年1期,t=3は2014年2期,t=4は2016年1期,t=5は2016年2期であるか否かを示しており,該当する場合には1,該当しない場合には0をとる。5個すべての時点ダミーが0をとる場合は,製品購買した時点が2012年1期であることを示している。「変更ダミーk」(k=1~3)は,リニューアルにおいてパッケージ・デザインの変更が製品購買に及ぼす効果を,製品の中味の変更内容と変更されたデザイン要素で識別したダミー変数である。中味の変更内容も考慮してパッケージ・デザインの変更の効果を識別するのは,分析対象である茶系飲料ブランドには,中味の改良に伴ってラベルデザインを変更したブランドと,ラベルデザインだけでなくボトルの形状を変更したブランド,さらには中味の増量に伴ってラベルデザインとボトルの形状を変更したブランドが含まれており,変更されたデザイン要素が同じであっても,同時に中味の変更内容によって効果が異なる可能性を考慮するためである。k=1は購買した製品が中味の改良に伴いラベルデザインが変更されたものであるか否か,k=2は中味の改良に伴いラベルデザインとボトルの形状が変更されたものであるか否か,k=3は中味の増量に伴いラベルデザインとボトルの形状が変更されたものであるか否かを表している。該当する場合には1をとり,該当しない場合には0をとるため,3個すべてのダミー変数が0をとる場合は購買した製品はリニューアルが実施されていないもの(「ブランドA」「ブランドB」)であることを示している。これによって,「ブランドダミーi」「時点ダミーt」の変数でブランドと時点の効果を排除した上での,パッケージ・デザイン変更の効果を測定することができる。また,このようなダミー変数を設定することで,中味の改良に伴うパッケージ・デザインの変更の効果は,ラベルデザインのみを変更した場合と,ラベルデザインとボトルの形状を変更した場合とで,どのように異なるのかを測定することができ,変更されたデザイン要素による効果の差異を明らかにすることができる。また,変更されたデザイン要素はラベルデザインとボトルの形状であるが,中味の改良に伴って変更された場合と増量に伴って変更された場合とで,パッケージ・デザインの変更の効果がどのように異なるのかを測定することができ,製品の中味の変更内容によって,パッケージ・デザインの変更の効果の差異も明らかにすることができる。

そして,説明変数の「消費価値観j」(j=1~5)と「消費先進度」は,消費者のライフスタイルを表す変数である。これらの変数によって,リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果が消費者間でどのように異なるのかが明らかになり,より詳細に効果を解釈することが可能になる。まず,「消費価値観j」は,消費者がj個それぞれの消費価値観をどれくらい有しているかを表す変数である。5個の消費価値観は,調査データに含まれている32項目からなる,製品の購入やサービスの選択に対する消費者の価値観のデータ(2値データ)から,カテゴリカル因子分析を用いて類別した。因子負荷量が|0.5|以上である価値観をもとに類別した消費価値観は,有名人や周囲の人の評判や評価に同調することなく製品を購買する「逸脱型」(j=1),安全性や環境保護を配慮して製品を購入する「環境配慮型」(j=2),製品の価格の安さだけでなく,品質の良さも追求し,これらに関する製品情報を収集・処理したうえで製品を購入する「価値追求・情報探索型」(j=3),品質といった製品の実質的な価値や知名度,利便性,アフターサービスといった付加価値に関心を向けずに,製品を購入する「価値無頓着型」(j=4),自分のためにオーダーメードしたり,自分のライフスタイルに合った製品,周囲とは違う個性的な製品を購入する「自己表現型」(j=5)である。変数のとる値は,消費者ごとの各消費価値観の因子得点である。そして,「消費先進度」は,新製品の購入や新サービスの導入に対する消費者の価値観であり,購入や導入の積極性を表す,0から3の値をとる変数である(0=新しい商品やサービス,お店には関心がないほうである,1=一般に普及してから,新しい商品やサービスを利用したり,新しいお店に行くほうである,2=少し様子をみてから,新しい商品やサービスを利用したり,新しいお店に行くほうである,3=人よりも先に新しい製品やサービスを利用したり,新しいお店に行くほうである)。

式(1)におけるパラメータα0は,「製品購買」における,「リニューアルを実施していない」「2012年1期」の「ブランドA」の効果を表し,αiは「ブランドA」を基準とした各ブランドの効果を表している。δtは2012年1期を基準とした各時点の効果を表している。そして,β0j,γ0はリニューアルを行わなかった場合における消費者の消費価値観および消費先進度の効果,ωk,β1jk,γ1kはリニューアルを実施し,パッケージ・デザインを変更した場合における,変更の効果,消費価値観および消費先進度の効果を表している。よって,α0,β0j,γ0は各ブランドの製品購買の効果を説明する上でのベースラインとなるパラメータ(以下,ベースラインパラメータ)であり,αiはブランドAと各ブランドの効果の比較パラメータ,δtは2012年1期と各期の時点の効果の比較パラメータ,β1jkとγ1kはリニューアルを実施しなかった場合と,リニューアルを実施し,パッケージ・デザインを変更した場合の消費価値観と消費先進度の効果の比較パラメータである。よって,各ブランドの製品購買の効果は,ベースラインパラメータの値と該当する比較パラメータの値の和である。

IV. 分析結果と考察

本研究における分析では,茶系飲料カテゴリーの8つの製品購買に関するデータと消費者のライフスタイルのデータを用いて,式(1)を推定することにより,中味の改良に伴う「ラベルデザインの変更」と「ラベルデザインの変更とボトル形状の変更」,そして中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」が,消費者の製品購買にどのような影響を及ぼすのかを測定した。

1. 推定結果

式(1)の推定結果は,表2に示した。

表2

茶系飲料の製品購買に関する推計結果

***:有意水準0.1%,**:有意水準1%,*:有意水準5%

まず,定数項α0と「ブランドダミーi」のパラメータαii=1~7)に関して見ると,α1,α3,α6,α7は有意に正,α0,α2,α4,α5は有意に負の値をとっている。よって,「ブランドB」「ブランドD」「ブランドG」「ブランドH」は,「ブランドA」よりも製品購買に及ぼすブランドの効果が大きく,「ブランドC」「ブランドE」「ブランドF」は効果が小さいことが示された。このことから,消費者の茶系飲料の購買にはブランドが関連しており,同じ茶系飲料の購買であっても,ブランドによって消費者の製品購買は異なることが明らかになった。

同様に,「時点ダミーt」のパラメータδtt=1~5)に関して見ると,δ1とδ4は有意に正,δ2とδ3,δ5は有意に負の値をとっている。よって,2012年2期と2016年1期は,2012年1期よりも茶系飲料が購買されており,2014年1期と2014年2期,2016年2期は,購買されていないことが示された。このことから,時点によって消費者の茶系飲料の購買は異なることが明らかになった。

ここで,「消費価値観j」のパラメータβ0jj=1~5)に関して見ると,β02,β05は有意に正,β01,β03は有意に負の値をとっており,β04は非有意であった。つまり,「環境配慮型」「自己表現型」の消費価値観は,消費者の茶系飲料の購買に有意に正,「逸脱型」「価値追求・情報探索型」の消費価値観は有意に負の影響を及ぼしており,「価値無頓着型」は影響を及ぼしていないことが示された。このことから,消費者のライフスタイルによって茶系飲料の購買が異なることがわかり,製品を選択する際に「有名人や周囲の人が支持している製品か」や「環境にやさしい製品か」「価格も品質も納得がいく製品か」「自分らしい製品か」を検討する消費者が購買していることが明らかになった。また,「消費先進度」のパラメータγ0は有意に正の値をとっていることから,新製品を積極的に選択する消費者は,茶系飲料を購買している特徴があることが示された。

次に,「変更ダミーk」のパラメータωkとβ1jk,γ1kk=1~3)に関して見てみる。まず,「変更ダミー(k=1)」で,中味の改良に伴うラベルデザインの変更の効果を表すパラメータ(ω1)は有意に正の値をとっている。よって,消費者の購買確率はリニューアル前よりも上昇しているということが示された。また,この変更における「消費価値観j」の影響を表すパラメータ(β1j1)に関しては,β131が有意に正の値をとっており,それ以外のパラメータは非有意であった。このことから,「価値追求・情報探索型」の価値観をもつ消費者の購買確率はリニューアル前よりも上昇していることが示された。「消費先進度」の影響を表すパラメータ(γ11)も非有意であったことから,新製品を積極的に選択する消費者の購買確率はリニューアル前後で差はないことが示された。

「変更ダミー(k=2)」では,中味の改良に伴うラベルデザインとボトルの形状の変更の効果を表すパラメータ(ω2)は有意に負の値をとっている。よって,消費者の購買確率はリニューアル前よりも低下していることが示された。また,「消費価値観j」のパラメータ(β1j2)に関しては,β132が有意に負の値をとっており,それ以外は非有意であった。このことから,「価値追求・情報探索型」の価値観を持つ消費者の購買確率はリニューアル前より低下してることが示された。また,「消費先進度」のパラメータ(γ12)が有意に正の値をとっていることから,新製品を積極的に選択する消費者の購買確率はリニューアル前よりも上昇していることが示された。

「変更ダミー(k=3)」では,増量に伴うラベルデザインとボトルの形状の変更の効果を表すパラメータ(ω3)は有意に負の値をとっている。よって,消費者の購買確率はリニューアル前よりも低下していることが示された。また,「消費価値観j」のパラメータ(β1j3)に関しては,β123とβ143は有意に正,β133は有意に負の値をとっており,それ以外は非有意であった。このことから,「環境配慮型」「価値無頓着型」の価値観を持つ消費者の購買確率はリニューアル前よりも上昇し,「価値追求・情報探索型」の価値観を持つ消費者の購買確率は低下していることが示された。また,「消費先進度」のパラメータ(γ13)は有意に正の値をとっていることから,新製品を積極的に選択する消費者の購買確率はリニューアル前よりも上昇していることが示された。

2. 考察

パッケージ・デザインの変更の効果を検証するために,実際に製品リニューアルを実施し,パッケージ・デザインを変更した複数のペットボトル入り茶系飲料ブランドを取り上げ,リニューアルで見られた,中味の改良に伴う「ラベルデザインの変更」「ラベルデザインとボトル形状の変更」および中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」の3種類のパッケージ・デザイン変更の効果に関して分析を行った。さらに,変更の効果をより詳細に明示するために,消費者のライフスタイルの差異を考慮して分析を行った。それぞれの変更の効果を簡単に整理したものが表3である。分析の結果,製品リニューアルにおいて変更されたデザイン要素によって,消費者の製品購買に及ぼす影響が異なることが明らかになった。

表3

製品リニューアルに伴うパッケージ・デザイン変更の効果

注:n.s.はnot significantの略。推定値が有意水準5%で非有意であったものを表す。

例えば,中味の改良に伴ってパッケージ・デザインが変更されていても,変更されたデザイン要素がラベルデザインのみである場合と,ラベルデザインとボトルの形状である場合とでは,リニューアル後の製品購買への効果は異なっている。前者の場合は,消費者全体のリニューアル後の製品購買の確率を上昇させるが,後者の場合は購買確率を低下させている。また,消費者のライフスタイル別に見ても,前者の場合は「価値追求・情報探索型」の消費価値観を持つ消費者の購買確率を上昇させ,逆に後者は低下させている。製品価格と品質のバランスを考え,詳細な製品情報を収集・処理して製品を購買する消費者は,「ラベルデザインのみを変更した」製品に関しては,リニューアル前よりも製品を購買するようになっているが,「ラベルデザインに加え形状も変更した」製品に関しては,リニューアル前よりも購買しなくなっている。また,「ラベルデザインのみを変更した」製品では,リニューアル前後で新製品や新サービスを積極的に導入する「消費先進度」の高い消費者の購買に変化が見られないが,「ラベルデザインとボトル形状を変更した」製品に関しては,リニューアル前よりも購買するようになっている。

したがって,製品の中味を改良し,それに伴ってラベルデザインを変更すると,消費者全体の購買を促進し,製品価値をよく理解した上で購入する特徴を持つ消費者の購買を促進する。他方,製品の中味を改良し,ラベルデザインに加えボトル形状を変更すると,消費者全体の購買を低下させ,特に製品価値をよく理解した上で購入する消費者の購買を低下させる。一方で,新製品やサービスを積極的に選択する消費者の購買を促進する。このように,ラベルデザインに加えてボトルの形状を変更すると,リニューアル後の製品購買への効果は異なる。このことから,パッケージの形状は消費者の購買意思決定を大きく変えるデザイン要素であることが予想され,形状の変化の有無が消費者のリニューアル後の製品の購買,非購買を決定づけることが推察できる。消費者において「ラベルデザインとボトル形状の変更」が実施された製品の購買確率が低下した背景には,ラベルデザインに加え形状も変更したことにより,消費者のリニューアル前とリニューアル後の製品の差異に関する情報の収集や処理が困難になったことが考えられる。先行研究では,消費者は製品に関する情報処理のしやすさを製品機能や品質の良さと錯覚し,情報処理しにくい製品よりも,情報処理しやすい製品に対して高く製品を評価し,購買意向を示すことが知られている(Cho, Schwarz, & Song, 2008)。パッケージの形状は即座に製品ブランドを認識できる視覚的要素であり(Lindstrom, 2005/2005),また「内容物のイメージを伝えるための記号」(Fukui & Suga, 2014)であるため,これが変更されると消費者は製品やそのブランドに関して容易に情報処理できなくなると予想される。つまり,ラベルデザインに加えボトルの形状も変更したことにより,消費者のリニューアルされた製品の変化に関する情報の収集や処理はより複雑になり,消費者は情報処理のしにくさから,製品の品質や機能をネガティブに評価し,その結果,製品の購買確率が低下したと予想される。特に,「価値追求・情報探索型」の消費価値観を持つ消費者は,製品の価格の安さだけでなく,品質の良さも追求し,精緻な製品情報の収集・処理の結果をもとに製品の購買・非購買を決定するため,この傾向が見られたのではないかと推察される。さらに,新製品やサービスを積極的に選択する「消費先進度」の高い消費者において,「ラベルデザインとボトル形状の変更」が実施された製品の購買確率が上昇した要因としては,ラベルデザインだけでなくボトルの形状も変更したことにより,消費者にリニューアルによる製品の新しさが訴求され,“既存製品が新しくなった”と認識されたと考えられる。

また,製品リニューアルにおいて変更されたパッケージのデザイン要素がラベルデザインとボトルの形状で同じであっても,中味の改良に伴うデザインの変更か,増量に伴うデザイン変更かによって,効果が異なっている。双方の場合とも全体的に消費者のリニューアル後の製品の購買確率を低下させ,特に「価値追求・情報探索型」の消費価値観を持つ消費者において購買確率を低下させている。しかし,増量に伴ってラベルデザインとボトル形状を変更した場合は,「環境配慮型」「価値無頓着型」の消費価値観を持つ消費者の購買確率が上昇しており,安全性や環境保護を配慮して製品を購入する消費者や,品質といった製品の実質的な価値や知名度,利便性,アフターサービスといった付加価値に関心のない消費者に購入されている。この理由として,ゴミの削減と単価の安さが考えられ,中味の増量によって,消費者は1本のペットボトルから消費できる製品の量が増加し,購入するペットボトルの本数が減り,ゴミの削減が可能になり,「環境配慮型」の消費価値観を持つ消費者の購買確率が上昇したと考えられる。さらに,中味を増量するというリニューアルは価格を据え置いて実施されているため,製品単価が安くなり,製品の実質的な価値や付加価値にあまり興味を持たない消費者はこの点に魅力を感じ,購入するようになったと予想される。

以上の考察を踏まえると,マーケターのリニューアルの目的によって,どのようなリニューアルを行うと効果的であるかが異なってくるだろう。例えば,製品の価値をより多くの消費者にもっと知ってもらい,購買を促進させたい場合には,既存製品の中味を改良するだけでなく,製品の価格の安さ,品質の良さも追求し,詳細な製品情報の収集・処理をして製品購入を決定する消費者の購買確率を上昇させる「ラベルデザインの変更」を実施することが効果的であると考えられる。表1に示したように,中味の改良に伴って「ラベルデザインの変更」を行った「ブランドC」「ブランドD」は,ブランド独自の価値の向上,強化を目的としている。このことから,価値の向上・強化手段として「ラベルデザインの変更」を採用したことは効果的であったと予想される。他方,消費者に今までの製品とは異なり,新しくなったことを伝えたい場合には,消費者に“既存製品が新しくなった”ことを認識させると予想される「ラベルデザインとボトル形状の変更」が効果的であると考えられる。表1に示したように,中味の改良に伴って「ラベルデザインとボトル形状の変更」を行った「ブランドF」はパッケージ・デザインを一新して,“新型”として製品を販売している。このように,新しくなったことを消費者に伝達し,新型であることを認識させる手段として「ラベルデザインとボトル形状の変更」を採用したことは効果的であったと予想される。しかし,このデザイン変更では変更前よりも購買が減退する傾向が確認されたため,より多くの方々に楽しんでもらうというリニューアルの目的の達成には至らなかった可能性がある。同様に中味の改良に伴って「ラベルデザインとボトル形状の変更」を行った「ブランドE」においても,目的として掲げた独自の価値をさらに進化させるためには,ラベルデザインとボトルの形状両方を変更するのではなく,ラベルデザインのみ変更する方が効果的であったと考えられる。一方で,中味の増量に伴って「ラベルデザインとボトル形状の変更」を実施すると,安全性や環境保護を配慮して製品を購入する消費者や,品質といった製品の実質的な価値や知名度,利便性,アフターサービスといった付加価値に関心を持たずに製品を購入する,価値に無頓着な消費者の製品購買を促進させている。表1に示したように,増量に伴って「ラベルデザインとボトル形状の変更」を実施した「ブランドG」「ブランドH」は,製品の良さや独自の価値をより多くの消費者の訴求することを目的としている。しかし,中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」は,製品の価値に関心の薄い消費者の購買を増加させる傾向があるため,この目的の達成のためのリニューアルとしては適していないと考えられる。このような目的の場合,中味の量を増やすのではなく,中味を改良し,パッケージのラベルデザインのみを変更することが有効であると考えられる。

V. まとめ

本研究の目的は,製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更が消費者の製品購買に及ぼす影響を明らかにすることであった。そこで,変更されたパッケージのデザイン要素ごとに影響を測定し,その影響に差異があるのかを探索的に検証した。パッケージ・デザインの変更の効果を明らかにする先行研究は,多くのマーケターが製品のリニューアルを実施する際に直面する,「どのように」パッケージ・デザインを変更するかといった課題に対して,「どれくらい」変更するかという変更度合の観点から示唆を与えてきた。マーケターが抱く課題に対して多少の示唆を提供するために,本研究は「どの」デザイン要素を変更するかという観点から課題を捉え,変更するデザイン要素による効果の差異を示すことを試みた。検証には,実際に製品リニューアルを実施し,パッケージ・デザインを変更した複数のペットボトル入り茶系飲料ブランドを取り上げ,それらのリニューアル前後の購買実態に関するアンケートデータを用いた。そして,ペットボトル入り茶系飲料リニューアルに見られた,中味の改良に伴う「ラベルデザインの変更」「ラベルデザインとボトル形状の変更」および中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」の3種類の変更の効果を,消費者のライフスタイルの違いによる効果の差異を考慮して測定を行った。

分析の結果より,先行研究が示しているように,製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更は消費者の製品購買を変化させることを示した。また,先行研究がパッケージ・デザインの変更度合によって消費者の製品購買に及ぼす影響が異なることを示していることに加え,本研究からは「どの」デザイン要素を変更するかによっても影響が異なることを明らかにした。具体的には,既存製品の中味の改良に伴い「ラベルデザインのみを変更した」場合と,「ラベルデザインに加えボトルの形状も変更した」場合では消費者の製品購買に及ぼす影響は異なることが確認できた。また,パッケージのラベルデザインとボトルの形状が変更された場合,中味の改良に伴って変更されたのか,増量に伴って変更されたのかによって消費者の製品購買に及ぼす影響が異なることも明らかにした。本研究において,製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更の効果に関して議論する際には,デザイン要素をどの程度変更するかといった変更度合に注目するだけでなく,「どの」デザイン要素を変更するかについて考慮し,また製品の中味に関してどのような変更が実施されているかについても検討する必要があることを示した。

本研究には検討するべき研究課題がいくつかある。1つは,ペットボトル入り茶系飲料カテゴリーにおけるパッケージ・デザインの変更に焦点を絞っていることである。紙パックやチルドパックなど素材の異なる飲料や,飲料以外のその他の製品カテゴリーにおけるパッケージ・デザインの変更の効果に関しても検討する必要があるだろう。2つ目は,実際にリニューアルを行った製品のリニューアル前後の購買に関するアンケートデータを用いているため,実験室実験では統制可能な変数(e.g. パッケージ変更の認知,デザインの変化度の知覚,ブランドに対するロイヤルティ,価格変動,広告出稿量)を統制することができず,モデルの中にこれらの変数を取り込めていない点である。今後は,これらの変数の効果を考慮した分析モデルを構築し,推定するか,もしくはこれらの効果を統制した実験的に集めたデータでも検証を行い,本研究結果と同様の結果が得られるかどうかを確認する必要があるだろう。3つ目は,製品リニューアルにおいて中味の改良や増量を伴わない,パッケージ・デザインの変更の効果を測定できていないことである。現実には,中味を変更することなく,パッケージ・デザインのみを変更するリニューアルも存在する。そのようなリニューアルを実施したブランドの購買実態データを用いることにより,パッケージ・デザインの変更の効果をより正確に測定することが可能になる。4つ目は,本研究は「ラベルデザイン」「形状」といったパッケージをデザインする上で根幹となるデザイン要素に注目しているため,「ロゴ」「フォント」「製品画像」「背景色」「背景画像」といったより細かなデザイン要素に関しては検討していないことである。先行研究では,細かなデザイン要素の差異や配置の変化が消費者の反応に影響を及ぼすことが指摘されており,今後は蓄積された知見をもとに,より詳細なデザイン要素の変更の効果と,変更したデザイン要素の違いによる効果を比較する必要があるだろう。5つ目に,変更したデザイン要素とブランド・イメージとの整合性,その要素の変更がそのブランドのブランド・アイデンティフィケーションに及ぼす影響に関して議論できていない点である。これらを議論するためには,事前に製品がリニューアルされることと,実施される日時,目的を把握していることを前提条件とし,リニューアル前後のイメージ調査を行う必要があるだろう。パッケージ・デザインの効果検証には,研究遂行上の課題が大きく,架空のパッケージを用いた実験による実証研究が行われているが,より精度の高いデータを用いることで,実務的に有益な示唆を提示することができるだろう。

先行研究および本研究は,製品をリニューアルすること,そのうえでパッケージ・デザインを変更することが決まっていることを前提とし,「どの」デザイン要素を変更するかという議論を行っている。しかし,実際にマーケターが直面している課題は「いつ」「どのタイミングで」変更するかという点も存在しているだろう。現実には毎年パッケージ・デザインが変更される製品や,全く変更されない製品など様々なものが存在している。パッケージ・デザインの変更の効果を,より詳細に理解するために,変更するタイミングに関しても議論を展開していく必要があるだろう。

謝辞

本研究を行うにあたり,株式会社野村総合研究所より大変貴重な調査データを御貸与して戴きました。また,慶應義塾大学商学部里村卓也教授ならびに清水聰教授に多大なる御指導を賜りました。ここに記して深謝致します。

河塚 悠(こうづか はるか)

2014年,慶應義塾大学商学部 卒業。

2016年,慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程 修了。

現在,慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程 在籍。

専攻はマーケティング,消費者行動論。

References
 
© 2019 The Author(s).
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