Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Aesthetic Perception and Consumer Behavior:
A Comprehensive Review
Jaewoo ParkTaku Togawa
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2019 Volume 38 Issue 4 Pages 20-34

Details
Abstract

優れたデザインは,企業が競争優位を獲得するうえで重要な要因の1つになっている。先行研究では,機能性や象徴性など,消費者の製品評価においてデザインが果たす役割が明らかにされているが,いずれの研究においても共通して重要性が指摘されているのは「審美性」である。本稿では,心理学および消費者行動研究の包括的なレビューを行い,消費者がどのようなデザインに対して審美性を知覚するのかについて議論を行った。具体的には,色,形状,水平配置,垂直配置といった要素が審美性知覚に及ぼす影響について,既存の研究知見を整理し,体系化を図った。こうした考察は,研究知見の体系的把握を可能にするだけでなく,デザインに携わるマーケターにも有益な実務的示唆をもたらすと考えられる。

I. 導入

“Good design is good business”。マーケターに広く知れ渡っているこのフレーズは,IBMの初代社長を務めたThomas John Watson氏が述べたものである。1974年にハーバード大学で行われた講演で発言されて以降,この言葉はビジネス・パーソンにとってのいわばマントラとなった(Hertenstein, Platt, & Veryzer, 2005)。ソニーの初代最高経営責任者や名誉会長などを歴任した大賀典雄氏も,製品の品質や特性では差別化が困難になっていることを早くから指摘し,競争優位を生み出す源泉として製品デザインの重要性を主張してきた(Peters, 2005)。

当時から数十年が経過した今日に至っても,マーケティングにおいてデザインの重要性が低下する気配は見られない。スマートフォン市場におけるiPhoneの人気の高さと高い利益シェアは,デザイン審美性がいかに製品の差別優位性の確立とマーケティング・パフォーマンスの向上に多大な影響を与えるかを如実に示している。スマートフォン市場におけるアップルの販売台数シェアは20%程度に留まるものの,利益シェアでは90%を超える。この収益率を支えている要因の1つは,同社が有する高いデザイン能力といわれる(Ovide & Wakabayashi, 2015)。デザインの重要性は消費財市場のみならず,産業財市場にまで浸透している。建設機械メーカーのキャタピラーは,デザインを通じた高い製品性能と快適性の実現をブランド価値の中核に位置付け,ロゴからトラックの内装に至るまで,あらゆる要素を用いてブランド価値を体現している(Karjalainen & Snelders, 2010)。

こうした実務的潮流を踏まえ,マーケティング研究においても,製品デザインの評価が売上や市場価値といった企業パフォーマンスにポジティブな影響を及ぼすことが多くの研究で明らかにされてきた(e.g., Hertenstein et al., 2005; Kotler & Rath, 1984; Swan, Kotabe, & Allred, 2005)。近年では,優れた製品デザインの源泉を解明するため,デザインが有する各種特性を明らかにする取り組みも積極的に行われている。例えば,Swan et al.(2005)は,環境変化のなかで成功する製品デザイン特性として,機能性,審美性,操作性,品質を挙げている。Veryzer(1995)は,審美性,機能優美,人間工学設計を挙げ,Homburg, Schwemmle, and Kuehnl(2015)は,審美性,機能性,象徴性を挙げている。Iwashita, Ohira, Ishida, Togawa, and Onzo(2015)も国内外の自動車メーカーに対する定性調査を行い,審美性,機能性,操作性,安全性など9つの製品デザイン要素を特定した。

各論者が多様な見解を示しているなか,いずれの研究においても共通して取り上げられているデザイン特性は「審美性」(Aesthetics)である。審美性は,「対象の外観と知覚者との相互作用によって生じる反応」(Veryzer, 1995: 643)と定義され,消費者の製品評価や選択(Creusen & Schoormans, 2005),および顧客満足(Srinivasan, Lilien, Rangaswamy, Pingitore, & Seldin, 2012)にポジティブな影響をもたらす。審美性が製品評価を高める効果は,ポンプやモーターなどの産業財においても確認されている(Yamamoto & Lambert, 1994)。

審美性が製品の評価や選択を規定する重要なデザイン特性であるとするならば,消費者は具体的にどのようなデザインに対して審美性を知覚するのかが鍵となる。心理学研究や消費者行動研究などに視点を広げてみると,製品の審美性を左右する要因も様々な観点から明らかにされてきた(詳細は後述する)。しかしながら,多くの研究は色の効果,形状の効果といったように,個別の要素が審美性にどのような影響をもたらすかを示すにとどまっており,あらゆる要素を包括的に捉え,系統的なレビューを行った研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,心理学および消費者行動研究の包括的なレビューを行うことにより,審美性と関連する各種要因とその効果について整理および体系化を図る。こうした取り組みは,マーケティング研究者にとって既存知見や理論的課題の体系的把握を可能にするだけでなく,新製品開発や製品デザインに携わるマーケターに対しても重要な指針を示すものになるだろう。

本稿ではまず,第II節において,色と形状という2つのデザイン要素が審美性知覚に及ぼす影響について先行研究の知見を整理する。第III節では,対象の水平的および垂直的な配置デザインが審美性知覚にどのような影響を及ぼすのかについて既存の研究知見を整理する。最後に,第IV節において今後の研究課題について議論を行う。

II. デザイン要素と審美性知覚

1. 色

日々の生活において,私たちがあらゆる物体や対象を目にする際,そこには必然的に色の知覚を伴う。色とは何かを定義することは容易ではないが,物体に吸収されず反射された多様な波長の光が視覚システムに取り込まれ,その情報が脳内で処理された結果であると理解することできる。人が識別できる色の種類は膨大であり,その数は2,300万色に上るという(Linhares, Pinto, & Nascimento, 2008)。

このように私たちは膨大な数の色を識別可能であるが,アルバート・マンセル(Albert H. Munsell)によって開発されたマンセル色体系に基づけば,いずれの色も色相(hue),明度(value),彩度(chroma)の3要素の組み合わせで表現することができる(Kaya & Epps, 2004)。まず,色相は,色味の違いである。マンセル色体系では,基本色相として赤(R),黄(Y),緑(G),青(B),紫(P)の5色が,また中間色相として黄赤(YR),黄緑(GY),青緑(BG),青紫(BP),赤紫(RP)の5色が設定されている。次に,明度は色の明るさの程度である。明度は色味に関係なく,白に近いほど高くなり,黒に近いほど低くなる。最後に,彩度は色の鮮やかさの度合いを示すものである。この彩度はある色における色相の色と無彩色(白と黒もしくはその組み合わせで創り出される色)の割合で決まる。無彩色の割合が少ないほど彩度は高くなり,無彩色の割合が多いほど彩度は低くなる。

私たちがどのような色を美しいと感じるかについては,個人差も大きいものの,人の色の選好には一定の共通点が存在することも先行研究で報告されている。

まず,色相の観点では,文化や国にかかわらず,大半の人は青を好む(Madden, Hewett, & Roth, 2000; Saito, 1996)。こうした青に対する半ば普遍的な選好形成には人の進化過程における環境適応や生存本能が深く関係しているという(McManus, Jones, & Cottrell, 1981; Palmer & Schloss, 2010)。すなわち,人は進化の過程で,生存にとって有益な対象の色を好むようになった反面,有害な対象に関連する色を嫌うようになったという説明である。例えば,人が青を好む理由は,それが晴天や綺麗な水といった生存に有益な環境要因や対象と一定程度関連しているからであり,反対に人が茶色をあまり好まない理由は,ある程度,それが腐敗したものに関連づけられるからである。また,青色を人が好む背景には色がもたらす生理的反応も関係していると思われる。波長の長い赤やオレンジは覚醒水準を高める働きをする反面,波長の短い青は人の心理状態を鎮静化する働きをすることが知られている(Jacobs & Hustmyer, 1974; Stone & English, 1998)。さらに,青は安心,平和,希望などの意味的概念を連想させるという(Elliot & Maier, 2014; Kaya & Epps, 2004)。こうした青の心理的鎮静化作用や連想されるポジティブな意味的概念も,人が青を好む理由に関係しているであろう。

次に,明度と彩度も色の選好に大きく影響する(D’andrade & Egan, 1974; Valdez & Mehrabian, 1994)。Valdez and Mehrabian(1994)は,快(pleasure),覚醒(arousal),優越(dominance)で構成されるPAD感情モデルを用いて,色と感情の関連性を検証した。その結果,色の明度と彩度が高いほど快次元の評価が高まることや,快次元評価への影響は明度が彩度よりも3倍ほど強いことが確認された。また,同モデルの3つの次元をすべて考慮に入れた場合,色が感情生起に与える影響は色相よりも明度と彩度がより大きいことが示された。こうした研究結果から,色の知覚や感情反応に関する多くの先行研究は色相に注目してきたが,それらの先行研究で確認された色の効果に関しては色相の影響と明度および彩度の影響が交絡している可能性が高いことをValdezとMehrabianは指摘している。

マーケティング研究において,色が消費者の購買意思決定に有意な影響を与えることは,主に「製品やブランド」「広告」「ショッピング環境」の3つの視点で確認されている。以下ではこれらの視点で検証された色の効果を順に考察する。

(1) 製品・ブランドにおける色

多くの消費者は製品を選択する際,色を重視しており,そうした傾向は自己表現的製品(洋服,靴,サングラスなど)でより顕著に見られるという(Akcay, Dalgin, & Bhatnagar, 2011)。こうした色とブランド・パーソナリティの関連性を検証した研究にLabrecque and Milne(2012)がある。この研究では,ブランド・ロゴの色を色相と彩度・明度の次元で操作し,ロゴの色が消費者のブランド・パーソナリティ知覚に与える影響を検証している。その結果,色相の次元では,白とピンクは誠実さ(sincerity),赤とオレンジは刺激(excitement),青は能力(competence),黒と紫は洗練(sophistication)や頑丈さ(ruggedness)といったブランド・パーソナリティを連想させることが示された。また,彩度や明度もブランド・パーソナリティ知覚に影響することが確認された。具体的には,ロゴの彩度が高いほど刺激,有能,頑丈さのパーソナリティ印象を,明度が高いほど,誠実さや洗練のパーソナリティ印象を強めることが示されている。

Bottomley and Doyle(2006)は,ブランド名および製品カテゴリーのフォントの色を操作した実験を行い,製品の機能性および情緒性に対するフォントの色の適合を検証している。その結果,消費者は機能的製品(工具,電気修理サービス,法律サービスなど)には黒,グレー,緑,青を,情緒的製品(香水,遊園地,ナイトクラブなど)には赤,黄,明るいピンク,紫をそれぞれ関連づけていることが確認された。また,彼らの研究では,同一の製品カテゴリー(たとえば,シャンプー)であっても,機能性訴求の場合(フケ防止)は青フォントを,情緒性訴求の場合(輝くつや)は赤フォントを消費者はより適していると評価することが示されている。

Powers(2015)は,カリフォルニアの自動車ディーラーの新車および中古車に関する20万件以上の販売データ(2001年から2005年)を用いた分析から,車のモデルや使用年数の効果を統制した場合でも,中古車価格の下落率はボディーの色によって異なることを明らかにした。具体的には,最も下落が遅い中古車の色は白であり,それに次いで赤と黒の下落が遅い一方,これらの色に比べると,シルバー,青やグレーの下落は速いことが確認された。こうしたPowersの研究結果は,色が製品価値と密接な関連を持つことを示している。

(2) 広告における色

色は,広告に掲載された製品画像などの視覚要素を,より現実的もしくは魅力的にすることで,広告に対する消費者の注目と評価に影響する(Schindler, 1986)。こうした消費者の広告評価に対する色の効果については,色の3要素や色の有無(カラー対白黒)が広告態度に与える影響が検証されている。

色の3要素の効果を検証した研究にはGorn, Chattopadhyay, Yi, and Dahl(1997)がある。Gornらは,ペイント会社の架空の広告の中でブラシによって塗られている色を色相,明度,彩度の3次元で操作した上で,消費者に広告から感じる感情状態(安静と興奮の程度)と広告態度についての評価を求めた。その結果,明度と彩度が高いほど広告態度が高まること,また,明度と広告態度の関係は安静(relaxation)によって,彩度と広告態度の関係は興奮(excitement)の感情状態によって媒介されることが確認された。一方,広告態度に対する色相の影響が見られなかったことが報告されているが,こうした結果は,感情反応は色相よりも明度と彩度によって誘発されることを指摘したValdez and Mehrabian(1994)の研究結果と一脈相通ずる部分があるように思われる。

色の有無の効果を検証した研究にはLohse and Rosen(2001)Meyers-Levy and Peracchio(1995)がある。Lohse and Rosen(2001)は,多様な製品やサービス(掃除機,写真現像,ホテル,レストランなど)の広告画像をカラーと白黒に操作した実験から,消費者の広告態度および広告品質に対する評価は,多くの広告において,カラー条件のほうが白黒条件よりも有意に高いことを確認している。また,広告画像の色の有無による調整効果に注目したMeyers-Levy and Peracchio(1995)では,色の有無が広告評価に与える影響は,消費者の広告処理に対する動機水準(どれぐらい注意深く広告を評価するか)と情報処理負荷(情報処理にどれぐらいの認知資源が必要か)の大きさによって異なることが示された。すなわち,消費者の広告処理に対する動機水準が低い場合は,情報処理負荷の大きさにかかわらず,広告態度はカラー広告条件が白黒広告条件に比べて有意に高かった。一方,動機水準が高い場合,色の有無が広告態度に与える影響は情報処理負荷の大きさによって調整され,情報処理負荷が大きい広告に関しては白黒条件が,情報処理負荷が小さい広告に関してはカラー広告条件が広告態度を高めることが確認された。これらの色の有無に関する研究では,広告への注目度や評価については一般的にカラー広告が白黒のそれよりも優れているものの,情報量の多い複雑な広告を消費者が注意を払って見る場合は,白黒広告がカラー広告よりも消費者の情報処理を促進する可能性があることが示唆されている。

(3) ショッピング環境における色

Bellizzi and Hite(1992)は,赤の覚醒・緊張効果と青の鎮静・緩和効果に注目した。彼らは,小売店の内装色を操作した画像実験を行い,これらの色が消費者のショッピング行動にどのような違いをもたらすかを検証した。その結果,店舗の内装が青の場合,赤の場合に比べて小売店の利用意向や製品の購入意向が有意に高いことが確認された。また,こうしたショッピング行動に対する青の効果は,青色が消費者にもたらすポジティブな感情反応と関連していることも示された。一方,特定の評価属性については,赤色も小売店に対する消費者評価を高めうることがCrowley(1993)で示されている。Crowleyは,家具販売店の内装の色を4色(青,緑,黄,赤)に操作した画像実験を行い,内装色が消費者の店舗評価や製品評価に与える影響を検証した。その結果,赤色の内装は,その他の色に比べて,家具スタイルの新しさ(up-to-date)の評価や家具の推定価格を高めることが確認された。

Gorn, Chattopadhyay, Sengupta, and Tripathi(2004)は,不動産企業のウェブページのダウンロード画面の背景色を色相,彩度,明度の次元で操作した実験を行い,色の心理的覚醒および鎮静効果が,ダウンロード時間の知覚に与える影響を検証した。その結果,色は3つの次元すべてにおいてウェブページのダウンロード時間の知覚に影響を与えており,いずれの次元でも,心理的鎮静を促す色がそうでない色よりも主観的な待ち時間を縮めることが確認された。すなわち,色相では黄色や赤に比べて青が,彩度の次元ではそれが低いほど,また明度の次元ではそれが高いほど,知覚される待ち時間が短くなることが示された。また,色と主観的な待ち時間の関係はくつろぎ感(feelings of relaxation)によって媒介されること,色が待ち時間の知覚に与える影響は,消費者のウェブページに対する評価や他者への推薦意向にも波及することが示されている。

2. 形状

対象の形状は,審美性に関する心理学研究で古くから注目されてきたデザイン要素のひとつである。審美性知覚に関連する代表的な形状要素には「曲線性」「対称性」「縦横比」などがある。以下ではこれらの要素がどのような形で審美性知覚と関連するかを順に考察する。

(1) 曲線性

一般的に,人は直線的な形状よりも曲線的な形状を好むことが,多くの心理学研究で示されている(e.g., Hevner, 1935; Kastl & Child, 1968; Lundholm, 1921; Poffenberger & Barrows, 1924)。例えば,古典的な研究の一つであるPoffenberger and Barrows(1924)では,500人の被験者にカーブや角の数が異なる波線と折線を18種類提示し,それらの線の印象を一連の形容詞によって評価する実験を行った。その結果,丸みを帯びている波線は,被験者に「穏やかな」(quiet),「陽気な」(merry),「優しい」(gentle)といった印象をもたらす一方,角ばっている折線は「動揺させる」(agitating),「硬い」(hard),「深刻な」(serious)といった印象をもたらすことが示された。また,抽象画を用いたHevner(1935)の研究では,曲線で構成された抽象画は静か(serene),優雅(graceful),感傷的(tender-sentimenal)な印象をもたらす一方,直線で構成された抽象画は強固(robust),強健(vigrous),威厳のある(dignified)といった印象をもたらすことを確認している。こうした曲線と直線の形状が対象の印象形成に与える影響は字体においても確認されており,前述した2つの先行研究と同様の結果が得られている(Kastl & Child, 1968)。

人はなぜ直線的形状よりも曲線的形状を好むのか。近年,進化心理学の観点からその理由を探る研究がいくつか進められている(Bar & Neta, 2006, 2007; Leder, Tinio, & Bar, 2011)。Bar and Neta(2006)では,人が曲線的形状に比べて,直線的形状を好まない理由は,直線的形状が,意識的または無意識的に,人に脅威感(a sense of threat)をもたらし,結果的にネガティブな反応をもたらすという仮説を立て,強制選択法による実験で仮説を検証している。実験では,形状のみが異なる(直線もしくは曲線)それぞれ140組の物体(時計やソファーなど)や平面図形の画像を0.084秒の速さで被験者にランダム提示し,その画像が好きか嫌いかを強制選択法で直感的に評価してもらった。その結果,対象に対する好ましさは,物体や平面図形の両方において,曲線的形状が直線的形状に比べて有意に高いことが示された。また,曲線的形状と直線的形状に対する回答の反応速度には有意差がないことから,曲線的形状に対する選好が知覚的流暢性(情報処理が容易な対象がそうでない対象より好まれるという主張)によるものではないことも示されている。さらに,Bar and Neta(2007)では,彼らの2006年の研究と同じ刺激と手順による追試実験から,人が直線的形状よりも曲線的形状を好むことを再確認した。さらに,fMRI分析によって,人が直線的形状を見る場合は,曲線的形状を見る場合に比べて,脅威や危機の察知に関連する右脳偏桃体がより活性化することを確認している。

マーケティングの文脈においてもこうした曲線性に対する消費者の選好が確認されている。Westerman et al.(2012)は,2つの実験を通じて,パッケージ形状が製品評価に与える影響を検証している。チョコレートのパッケージ形状(立方体もしくは角が丸い立方体)とパッケージに表示されるロゴの形状(直線的もしくは曲線的)を操作した実験1では,パッケージとロゴのいずれにおいても消費者は曲線的なデザインをより美しく感じること,また購入意向も曲線的条件のほうが直線的条件よりも高いことが示された。実験2では,直線的形状が脅威感を誘発するという心理学研究の知見に注目し,危険性のある製品の場合は直線的形状のパッケージデザインが製品評価を高めるかを検証した。具体的には製品カテゴリー(危険性のない製品としてのミネラルウォーターもしくは危険性のある製品としての漂白剤),ボトルの形状(曲線的もしくは直線的),ボトルに表示されるグラフィックス模様(円もしくは三角形)という3つの要因がパッケージに対する審美性知覚と購入意向に与える影響を検証した。その結果,製品の危険性レベルにかかわらず,実験1と同様に,曲線的な形状のボトルおよびグラフィックス模様が,直線的な形状の要素に比べて,パッケージの審美性知覚および製品の購入意向を高めることが確認された。

Leder and Carbon(2005)は,自動車のインテリア(ステアリングホイール,運転席周辺の操作パネル,リアビューミラーなど)を曲線的もしくは直線的デザインに操作したイラストを用いて,これらのデザインが消費者の自動車評価に与える影響を検証した。その結果,直線的なデザインは消費者に斬新な印象を与えるものの,審美性については曲線的デザインが消費者に好まれることが確認された。一方,Ghoshal, Boatwright, and Malika(2016)は,30の生活用品や家電(テーブルランプ,キャンドル,ティーポットなど)の製品カテゴリーを対象とした調査を行い,消費者は情緒性が高いと判断する製品については直線的なデザインよりも曲線的なデザインを好むのに対し,機能性が高いと判断する製品については,曲線的なデザインよりも直線的なデザインを好む傾向が見られることを報告している。

(2) 対称性

クリスタルや生体といった自然物,人工的に製造された多くの物体,古代中国の陶器やメソポタミア時代の装飾品から20世紀の美術作品に至る文化と時代を超えた多様な芸術品など,あらゆるところに対称性は存在する(Tinio & Leder, 2009; Wagemans, 1995)。

対称性は審美性知覚に強く影響するデザイン要素であること,またその影響は頑健であることが多くの心理学研究で繰り返し確認されてきた。こうした対称性と審美性知覚の関連性は,人物の顔と図形を用いた研究で検証されている。

顔の審美性に関する研究では,顔の対称性がその人物に対する魅力評価にいかなる影響を与えるかを検討している。たとえば,Perrett et al.(1999)は,画像編集によって顔の対称性を操作した実験を行い,顔の対称性が高いほどその人物をより魅力的に感じること,また,顔の対称性の魅力評価への影響は,人物モデルの性別や被験者の性別にかかわらず見られることを確認している。

進化心理学の領域では,人の成長や生存,配偶者選択などにおいて,身体的対称性が正の関連性を持つため,人は対称的な顔を好むと主張されている(詳細はThornhill & Gangestad, 1993を参照)。こうした主張を検証するためにJones et al.(2001)は人物モデルの顔の客観的な対称性(モデルの目,鼻,口等の対称性を数値化)および操作した対称性(モデルの顔の対称性を画像編集で操作)がその人物に対する健康状態の推測や魅力評価とどのように関連するかを検証した。その結果,いずれの対称性においても人の顔の対称性と魅力評価の関係はその人に対する健康状態の推測によって媒介されることが確認された。また,顔の対称性が健康状態の推測に与える影響は男性モデルと女性モデルで共に見られたが,そうした影響は同性モデルよりも異性モデルでより顕著に見られることも示された。

一方,こうした対称性の生物学的優位性の主張に異議を唱える研究もある。推測される健康状態のみならず実際の健康状態と顔の対称性の関連性を検証したRhodes et al.(2001)では,Jonesらと研究と同様に,顔の対称性と推測された健康状態に有意な正の相関関係を確認したものの,顔の対称性は実際の健康状態とは殆ど関連しないことが示されている。また,青年期の男女の顔の魅力と実際の健康状態の関連を検証したKalick, Zebrowitz, Langlois, and Johnson(1998)でも,顔の魅力度と実際の健康状態には有意な関連がないことが報告されている。また,Kalickらは顔の魅力度が高い人物ほど,被験者は当該人物の健康状態をより良好と判断することから,顔の魅力が当該人物の健康状態の評価に与える影響は一種のハロー効果として理解できると結論づけている。

図形を用いた対称性の研究では,図形要素(例えば,大きな円の中に配置された多数の小さい四角形や三角形)の配置を変え,対称性と非対称性が異なる幾何学的な模様を被験者に提示することで,図形の対称性が審美性知覚に与える影響を検証している。こうした検証では,質問紙による自己申告評価(Cárdenas & Harris, 2006; Jacobsen & Höfel, 2002, 2003; Tinio & Leder, 2009)およびIAT(implicit association test)やfMRIによる潜在評価測定(Jacobsen, Schubotz, Höfel, & Cramon, 2006; Makin, Pecchinenda, & Bertamini, 2012)のいずれにおいても,人は非対称的な図形に比べて対称的な図形をより美しく感じることが確認されている。また,こうした対称性に対する選好は,早くは1才の乳児にも見られることが報告されている(Bornstein, Ferdinandsen, & Gross, 1981)。さらに,対称的な図形に対する選好は情報処理流暢性と関連しているという指摘もある。すなわち,対称的な図形は非対称的な図形よりも情報の重複性(redundancy)があり,それがパターン認知に規則性を与えるため,情報処理が容易になること(Garner, 1970),また,こうした情報処理流暢性が生じるがゆえに,人は対称的な図形を非対称的なそれよりも好み,美しいと感じる(Reber, 2002; Reber, Schwarz, & Winkielman, 2004)という。Makin et al.(2012)では,IAT課題における対称的パターン認知への反応速度が非対称的なそれよりも速いことから,人の対称的なパターンの選好には情報処理流暢性が関連していることが主張されている。

筆者らが把握する限りにおいて,対称性に関するマーケティング研究は未だ希少であるが,いくつかの製品デザインやロゴ・デザインの研究でその影響が検討されている(Bajaj & Bond, 2018; Creusen, Veryzer, & Schoormans, 2010; Henderson & Cote, 1998)。例えば,Henderson and Cote(1998)は,195人の消費者に対して,知られていない外国企業のロゴを提示する実験を行った。その結果,消費者のロゴに対する評価に影響を与えるデザイン特性として,自然さ(natural:デザインの具体性もしくは抽象度),調和(harmony:デザインの全体的なバランス),精巧さ(elaborate:デザインの複雑さや力動性)などを抽出している。こうしたロゴ・デザインの特性に関する詳細分析において,対称的なロゴは非対称的なロゴに比べて消費者のロゴに対する肯定的な感情評価やロゴに対する記憶可能性を高めることが示されている。一方,対称的なデザインの望ましさを示唆するHendersonとCoteの研究とは対照的に,Bajaj and Bond(2018)ではロゴの非対称性に注目し,そうしたデザインがブランド・パーソナリティ評価に与える影響を検証している。具体的には,非対称的なロゴは,対称的なそれに比べて,ブランド・パーソナリティとしての刺激(excitement)因子に対する消費者評価を高めるという仮説を立て,その検証を行った。この研究の実験2では,対称性の水準は異なるが(対称的なロゴと非対称的なロゴ),その他のデザイン要素が類似するロゴ(6組12種類)が用いられた。実験の結果,非対称的なロゴは対称的なロゴに比べて,刺激因子の評価を高めること,また,ロゴの非対称性が刺激因子の評価に与える影響は,ロゴの非対称性がもたらす主観的な覚醒水準によって媒介されることが確認された。こうした対称性に関する一連のマーケティング研究では,一般的には対称的なデザインが消費者のブランド評価を高めることに有効であるものの,非対称的なデザインも特定の次元ではブランド評価を高めることに貢献しうることが示唆されている。

(3) 縦横比

特定の形状に対する選好については数々の研究が行われてきたが,とりわけ,黄金比(1:1.618)の長方形に対する審美性知覚については,Fechnerによる実験を端緒とし,これまでも数学や心理学の観点から多くの研究が行われてきた(e.g., Fechner & Höge, 1997; Green, 1995)。

こうした観点をパッケージに適用した研究として,Raghubir and Greenleaf(2006)が挙げられる。彼女らは,パッケージ形状のなかでも,とりわけ長方形の縦横比に注目した。まず,正方形と長方形(縦横比1:1.38と,黄金比である1:1.62の2種類)のCDケースを用いて,それらに対する購入意向と選好について調査が行われた。その結果,正方形よりも長方形のほうが,そして縦横比1:1.38より1:1.62の長方形のほうが購入意向,選好ともに高いことが示されている。

次にこの結果を一般化および補強するべく,縦横比を1:1から1:2まで9段階に変化させた招待状用のカードを用いた実験も行われた。この実験では,最も重要度が高いものから「会計ソフトの新製品説明会」「ピアノの発表会」「サーカス」「誕生会」の順にカードの使用場面が設定され,被験者は特定の使用場面において購入意向の高いものから順にそれぞれのカードを順位付けすることが求められた。結果として,各カードに対する購入意向は使用場面に依存しており,重要度が比較的高い使用場面においては縦横比1:1.26から1:1.5までのカードに対して高い購買意図が示されたという。これらの結果から,パッケージ形状の縦横比は,購買意図や選好に影響を与えることが結論付けられた。

さらに彼女らは,パッケージの寸法比率と市場シェアの関係についても論じている。分析においては,スーパーマーケット等で消費者が一般的に購入し,かつ立方体ないし直方体のパッケージに包装された消費財の中から,消費者にとって重要度の高いカテゴリーとして石鹸と洗剤,重要度の低いカテゴリーとしてシリアルとクッキーのパッケージが選出された。それぞれのパッケージの寸法を測定し,市場シェアとの関係を分析した結果,パッケージの縦横比が黄金比に近いほど,当該製品の市場シェアが高い傾向が確認された。

III. 配置デザインと審美性知覚

1. 水平配置

対象に対する審美性知覚は,その対象を構成するデザイン要素のみならず,その対象がどのように空間に配置されているかという配置デザインからも影響を受ける。視覚的審美性に関する心理学研究で考察されてきた代表的な水平配置には「センター配置」と「オフセンター配置」がある。

(1) センター配置

センター配置は,横長の長方形の平面空間上の中心に対象物を配置すること,または,デザイン要素が複数の場合は,それらの要素の配置起点を平面空間の中心に据えることである。Palmer(1991)は,横長の長方形の中に同じ大きさの円を等間隔で35個配置(縦5列,横7行)した画像をもとに,長方形のなかに一つの円のみが配置されている35枚の画像刺激を作成した。そのうえで,被験者に各画像における円の配置バランスの良さについて評価を求めた。分析の結果,バランス評価が最も高かったのは,左右と上下をそれぞれ折半する中心位置の円であり,次いで評価の高かったのも左右を折半する垂直線上の(中心位置の円を除く)4つの円であった。また,Locher, Stappers, and Overbeeke(1998)Locher, Cornelis, Wagemans, and Stappers(2001)では,一般人と視覚芸術の専門家を対象に,異なるデザイン要素(大きさの異なる円,四角,楕円,落ち葉など)を使って四角の平面スペースに創作物を製作する課題を与えた。それらの創作物におけるデザイン要素の配置を分析した結果,一般人と芸術専門家の区分にかかわらず,また創作に用いられたデザイン要素の種類にかかわらず,創作物の中心バランスは画面の中心とほぼ一致することが確認された。こうした一連の研究では,対象の空間配置において,人は空間の中心に対象を置くことを好むこと,またそうしたセンター配置を美しいと感じることが示されている。

(2) オフセンター配置

一方,空間の中心ではなく,中心から少し離れたところに対象を配置するオフセンター配置が審美性知覚を高めるという主張もある。オフセンター配置に関する有名な法則に3分割法(rule of thirds)というものがある。3分割法は,絵画の制作や写真の撮影において美しい構図を作るための代表的な法則とされている。この法則によると,等間隔に引いたそれぞれ2本の水平線と垂直線によって画面を9等分し,それらの線上もしくは水平線と垂直線の交点上に中心要素を配置することでバランスの取れた構図が得られる。したがって,この3分割法に基づいて対象を配置すると,対象は画面の中央と左右のいずれかの端との中間に位置することになる。Amirshahi, Hayn-Leichsenring, Denzler, and Redies(2014)では,3分割法に基づく被写体の写真群とそうでない写真群(合計200の写真)をコンピューター画像分析によって判別し,それらを刺激として用いた実験を行った。被験者に写真の構図と審美性についての評価を求めた結果,彼らは3分割法の構図とそうでない構図を識別できるものの,写真に対する審美性評価については3分割法条件と非3分割法条件で有意な違いが見られないことが確認された。こうした結果から,Amirshashiらは3分割法が,実際の審美性知覚に影響を与える要因というよりは,芸術創作における構図のあり方の規範的な指針のひとつとして理解すべきであるという見解を示している。

一方,Palmer, Gardner, and Wickens(2008)は,画面における対象の向きによって,配置デザインに関する審美性知覚が異なりうることを示している。この研究の実験3では,画面上の横長の長方形のフレームのなかに3つの角度のいずれかで表示される(正面,左向き,右向き)人や動物,自動車などの対象(表示角度3水準,対象物14,計42種類)を構図の観点で最も美しいと思う水平的位置に移動させる課題を被験者に与えた。分析の結果,構図の審美性に関する水平的位置は,対象の表示角度が正面か側面かで異なること確認された。具体的には,対象が正面表示の場合はそれをフレームの中央周辺(フレームの左端から44~57%の位置)に配置することが審美性知覚を高めること,その一方で,対象が側面表示の場合はそれを3分割法に該当する位置周辺(フレームの左端から15~28%の位置もしくは72~86%の位置)に配置することが審美性知覚を高めることが確認された。さらに,側面表示に関しては,対象が左向きの場合は,右側の3分割法の位置に,反対に右向きの場合は,左側の3分割法の位置に対象を配置することが審美性知覚を高める一方,逆の配置(左向きの対象を左側に配置もしくは右向きの対象を右側に配置)では審美性評価が大幅に低下することが確認された。すなわち,いずれの場合でも対象がフレームの中心側に向いている場合,そうでない場合よりも審美性知覚が高まるという。Palmerらはこうした特徴を内向き(inward)バイアスと名付けている。

センター配置およびオフセンター配置の構図が審美性知覚に与える影響については更なる研究知見の蓄積が求められるが,以上の配置デザインに関する先行研究の議論を踏まえると,対象の表示角度が正面の場合はセンター配置が,一方,対象の表示角度が側面や斜めの場合はオフセンター配置が,対象の審美性知覚を高めることが予想される。

筆者らが把握する限りにおいて,未だ,センター配置が消費者の審美性知覚に与える影響を直接的に検証した研究は存在しないものの,消費者は陳列された製品のうち中央に配置されているものを選ぶ傾向があることがいくつかの研究で報告されている(Atalay, Bodur, & Rasolofoarison, 2013; Chandon, Hutchinson, Young, & Bradlow, 2009; Valenzuela & Raghubir, 2009)。例えば,Atalay et al.(2013)の実験1Aでは,それぞれ3種類の架空ブランドのビタミンと栄養補助食品のパッケージが陳列された棚を画面上で順に提示した。棚上では,各製品がカウンターバランスによって左,中央,右の縦3列に配置されており,被験者がどのブランドを選択するかをアイトラッキングと被験者による自己報告で検証している。検証の結果,いずれの製品においても,ブランドの種類に関係なく,中央列に配置されたブランドが左右列に配置されたそれよりも有意に高い確率で選択されることが示された。また,アイトラッキングデータの分析から,消費者は中央列のブランドをその他の位置のブランドに比べて有意に長く注視すること,また,中央列のブランド配置が消費者のブランド選択に与える影響は,そのブランドに対する視覚的注意(visual attention)の持続時間によって媒介されることが確認された。こうしたAtalayらの研究から,消費者はとりわけ空間の中央に注意を向けやすいこと,またそうした視覚的注意におけるセンターバイアスが中央に配置された製品の選択を高める要因となっていることが示唆される。

一方,オフセンター配置と審美性知覚の関連性はLeonhardt, Catlin, and Pirouz(2015)の広告研究で検討されている。Leonhardtらは,前述のPalmer et al.(2008)の内向きバイアスに注目し,広告における製品のオフセンター配置(左配置と右配置)と製品の向き(内向きと外向き)の関係が消費者の広告評価に与える影響を検証している。この研究の実験2では,斜めのアングルで描写されたパソコンの画像と側面からのアングルで描写された自動車の画像を用い,4種類のパソコン広告と自動車広告が製作された。各広告を消費者に被験者間条件で提示し,広告についての評価を求めた結果,消費者の広告態度はいずれの製品のいずれの配置においても,製品が内向きの場合が外向きに比べて有意に高いことが示された。また,広告に対する情報処理流暢性についても,製品画像が内向きの場合,外向きの場合よりも有意に高いこと確認された。さらに,媒介分析によって,内向きの製品画像は,外向きの製品画像に比べて,広告に対する情報処理流暢性の促進を通じて消費者の広告態度を高めることが確認された。Leonhardtらは,内向きのオフセンター配置の製品画像が外向きのそれに比べて情報処理流暢性を高める理由として,視覚的注意の中心固定効果(central fixation effect)を挙げている。すなわち,人は空間の周辺領域よりも中心領域に注意を向けやすく,それゆえに中心領域の視覚情報は周辺領域のそれよりも情報処理流暢性が高まるが(Tatler, 2007),内向き画像の場合は,外向きの画像に比べると,製品の顔に該当する主要要素が画面の中心付近に配置されるため,製品に関する情報がより容易に処理される,という説明である。

2. 垂直配置

ある対象についての審美性知覚は,その対象の平面空間上の水平位置のみならず,垂直位置,すなわち高さによっても影響を受けることが,視覚的審美性や言語と空間配置の関連性に関する心理学研究から示唆されている。

Sammartino and Palmer(2012)は,平面空間における対象の高さ(底辺からの高さがそれぞれ20%,35%,50%,65%,80%)を操作した一連の実験を行い,対象の高さが審美性知覚に与える影響を検証した。その結果,器やコップ,花瓶などの普段私たちが見下ろす角度で目にする対象の場合は,それらの垂直位置が低いほうが高いほうよりも対象の審美性知覚を高める。一方,天井照明やワシの飛ぶ姿など,普段私たちが見上げる角度で目にする対象の場合は,それらの垂直位置が高いほうが低いほうよりも対象の審美性知覚を高めることが確認された。SammartinoとPalmerは,こうした対象の実際の高さと観察者がその対象について期待する望ましい高さの適合が審美性知覚に与える影響を,環境高位効果(ecological height effect)と名付けている。

こうした環境高位効果が審美性知覚を高めることには情報処理流暢性が関係しうることが言語と空間配置の関連性研究で示唆されている。Coslett(1999)は,環境における対象の位置の記憶は,たとえば,食べ物の位置や潜在的な脅威が出現する位置を前もって知ることで生存の可能性を高められるといったように,人類の進化過程において重要な役割を果たしてきたと主張した。そのうえで,言語と空間配置の関連性についての空間登録仮説(spatial registration hypothesis)を提唱している。この仮説では,ある対象を指す単語を学習するとき,私たちはその対象の意味を習得するだけでなく,その対象に関連する感覚的特性についての連想も形成するが,そうした連想には対象の望ましい空間的位置も含まれることが仮定されている。

この言語の空間登録仮説を垂直配置の観点から検証した研究では,対象を指す単語が画面の上下のいずれかの位置で表示された場合,単語の表示位置とその単語から連想される対象の高さが一致する場合は,その対象への知覚速度が速まる一方,不一致の場合は対象への知覚速度が遅くなることが示されている(Estes, Verges, & Barsalou, 2008; Šetić & Domijan, 2007; Zwaan & Yaxley, 2003)。たとえば,Šetić and Domijan(2007)の実験1では,被験者に画面の上部もしくは下部に表示される飛ぶ動物(ワシやコウモリなど)もしくは飛ばない動物(ヘビやネズミなど)を意味する単語についてできるだけ早くそれらの単語がどちらの動物に該当するかを判定させる課題を与えた。分析の結果,動物に対する判定速度は,飛ぶ動物の場合は上に表示された場合が,飛ばない動物の場合は下に表示された場合が,反対の条件に比べて有意に速いことが確認された。これらの研究結果は,私たちが対象について期待する高さと実際に目にする対象の高さが一致する場合,対象についての情報処理流暢性が高まることを示している。こうした対象に対する環境高位効果と情報処理流暢性の関連は,垂直配置のデザインがいかにして審美性知覚に影響を与えるかを説明する一つの理論的枠組みを提供するものである。

審美性知覚に焦点を当てた研究ではないものの,マーケティングの文脈で前述した環境高位効果と類似の視点から,垂直配置デザインの影響を検討した研究も行われている。

Deng and Kahn(2009)は,対象を平面空間に配置する際,下側配置が上側配置よりも対象について重量感の印象を高めるという現象に注目し,製品パッケージにおける画像配置が消費者の製品評価に与える影響を検証している。この研究の実験3では,通常タイプと健康タイプという2つの製品特徴を設定した上で,同一のクッキー画像をパッケージの上側もしくは下側に配置した刺激を被験者に提示し,パッケージの印象評価を求めた。その結果,通常タイプのクッキーでは,画像を下側に配置したほうがその反対よりもパッケージの評価が高い一方,健康タイプのクッキーでは,画像を上側に配置したほうが,その反対よりもパッケージの評価が高いことが確認された。Sunaga, Park, and Spence(2016)では,対象の色の明度が低いほど重量感を感じること,また,対象を空間の下側に配置するとそれに対する重量感の印象が増すことに注目し,パッケージの色の明度と製品陳列の垂直位置の適合が消費者の製品探索に与える影響を検討している。この研究の実験1と実験2では,洗剤のパッケージの色を高明度と低明度に操作した製品群を陳列棚の上2段と下2段のいずれかに配置した刺激を用いて,パッケージの明度と製品の垂直位置の適合が消費者の製品探索に与える影響を検証した。その結果,パッケージの色が低明度の製品群を下段に配置し,高明度の製品群を上段に配置したほうが,その反対に比べて,陳列棚に対する消費者の情報処理流暢性が高まること,また,それゆえに,適合が高い場合は,特定の製品を陳列棚から探す探索時間もより速まることが確認されている。

IV. 議論

ここまで心理学および消費者行動研究の包括的なレビューを行い,視覚的なデザインの構成要因が審美性知覚にどのような影響を及ぼすのかについて研究知見の体系的な整理を行った。こうした考察を通じて,色や形状といった個別のデザイン要素から,対象の水平的配置や垂直的配置といった配置デザインに至るまで,多様なデザイン要素が消費者の審美性知覚に影響を与えうることが明らかになった。一方で,先行研究のレビューを通じて,今後取り組むべき課題も浮かび上がってきた。

一つ目は,審美性知覚をもたらす心理的メカニズムの解明である。ここまでレビューしてきた先行研究を踏まえると,なぜ特定のデザインが審美性知覚をもたらすのかについて,主に2つの理論的説明が展開されている。ひとつは,進化心理学からのアプローチである。例えば,その他の色に比べて青色が好まれるのは,綺麗な水や晴天といったように,青が生存にとって有益な対象の色だからといわれている(McManus et al., 1981; Palmer & Schloss, 2010)。同様に,多くの場合,直線的な形状は生存にとって脅威となるため,人は曲線的な形状を好む(Bar & Neta, 2006, 2007)。もうひとつのアプローチとして,情報処理流暢性も挙げられている。例えば,対称的な形状が好まれるのは,非対称的な形状に比べて,パターン認知が容易に行えるからである(Reber, 2002; Reber et al., 2004)。また,ワシやコウモリなどの単語の判断速度が,上に表示されたときに速まるのは,人が単語を学習する際にその意味だけでなく,位置に関する連想も形成するためである(Šetić & Domijan, 2007)。

一方,これら2つのアプローチでは説明が難しい現象も存在する。例えば,本稿では詳しく触れなかったものの,人は情報処理が容易である単純なデザインより,情報処理に多くの認知資源が求められる複雑なデザインを好むこともある(Berlyne, 1970; Graf & Landwehr, 2015)。とするならば,情報処理流暢性とは異なる何らかの心理的メカニズムが働いていることが考えられる。例えば,単純すぎる対象に対して退屈さを感じたり,複雑な対象に対して思考を巡らす楽しさを感じたりすることが,心理的メカニズムとして機能しているかもしれない。今後は,進化心理学,情報処理流暢性以外のアプローチから,デザインと審美性知覚との因果関係を深く考察していく必要がある。

二つ目は,文化差をはじめとした調整要因に関する検討である。既存研究の知見の多くは,あらゆる消費者に共通して見られる傾向として理解できる。例えば,対称的なデザインが非対称的なデザインに比べて審美性評価を高めるという結果は,様々な研究で繰り返し報告されていることから,ある程度頑健な傾向であると理解できる。しかしながら,デザインに関して注意深く見てみると,なかには対称性ではなく非対称性に審美性が見いだされる場合もある。例えば,古来,日本人は非対称的なデザインを好んできたという。実際,室町時代中期に編纂された日本庭園に関する文献『山水並野形図』では,庭園を造る際,常に非対称性を考慮すべきであるという記述が見られる(Van Tonder & Lyons, 2005)。また,和室の床の間には,あえて左右異なる位置に取り付けられた「違い棚」も備わっている。こうした点を踏まえると,特定の要素と審美性との関係について,一定程度の普遍性は認めつつも,文化や国による差異が存在する可能性も検討する必要がある。

なお,一部の研究では文化差を考慮した議論も行われている。例えば,前述のとおり,人は一般的に直線的形状より曲線的形状に審美性を知覚する傾向があるが,Zhang, Feick, and Price(2006)によると,この傾向にも文化差があるという。具体的には,個人主義の文化圏では直線的な形状(例えば,正方形)が好まれる一方,集団主義の文化圏では曲線的な形状(例えば,楕円形)が好まれる。

また,例えば,同じ色であってもそれが審美性知覚にいかなる影響を与えるかは,状況要因や個人特性によって変わりうる。すでにレビューしたとおり,人は一般的に赤よりも青を好ましく評価するが(e.g., Bellizzi & Hite, 1992),人物に対する魅力評価では,その人の洋服が青の場合よりも赤の場合,魅力評価がより高まるという研究報告も存在する(Elliot & Niesta, 2008; Niesta-Kayser, Elliot, & Feltman, 2010)。こうした対立する結果についても,状況要因や個人要因など,色の効果を調整する変数が特定されることにより,矛盾なく理解することが可能になる。

三つ目は,各デザイン要素の組み合わせ効果に関する検討である。これまで,色や形状など,個別の要素が審美性評価に及ぼす影響については,多くの研究が取り組まれてきた。しなしながら,ゲシュタルト心理学研究によると,消費者は個別要素の評価をもとに製品全体を評価するのではなく,最初から製品全体を1つの対象として捉えて印象を形成する(Orth & Malkewitz, 2008)。例えば,自動車のデザインを評価する際,「まずボディーの色を評価し,そのあとライトの形状を評価し…」などと個別で評価する人は稀であろう。多くの人は,最初から自動車を1つの対象として評価するはずである。とするならば,個別のデザイン要素に注目した研究だけではなく,複数の要素の組み合わせに注目し,どのような組み合わせが1つの製品全体としての審美性知覚を高める(または低下させる)のかという点について明らかにしていくことが求められる。

最後は,視覚以外の審美性に関する検討である。審美性に関する先行研究のほとんどは,あくまで視覚的な美しさや選好に着目してきた。しかしながら,審美性に関する先駆的な研究であるVeryzer(1995)も指摘しているとおり,ある感覚要素が視覚的な美しさのみならず,聴覚的,または触覚的に美しさを感じさせることもあり得るだろう。例えば,特定の音階を組み合わせた和音は不協和音に比べて美しさを感じるといった傾向は,音声的な意味での審美性と捉えることもできる(Hekkert, 2006)。今後は,視覚以外の感覚における美しさの規定要因や,複数の感覚要素の組み合わせによる美しさに注目した研究を行うことにより,審美性に関するより深い理解が得られるであろう。

謝辞

本稿の内容は,科学研究費基盤研究C(16K03938),科学研究費基盤研究B(16H03675)による研究成果の一部である。本稿の掲載に際し,レビュワーから建設的な指摘を頂いた。ここに記して,感謝申し上げる。

朴 宰佑(ぱく ぜう)

武蔵大学 経済学部 教授。

2005年 一橋大学大学院商学研究科 博士後期課程修了。博士(商学)。

神戸国際大学専任講師,千葉商科大学専任講師,准教授,教授を経て2018年より現職。オックスフォード大学実験心理学科客員研究員(2014年)。

専門は消費者行動論,マーケティング。

外川 拓(とがわ たく)

千葉商科大学 商経学部 准教授。

2013年 早稲田大学大学院商学研究科 博士後期課程単位取得。博士(商学)。

早稲田大学商学学術院助手,千葉商科大学専任講師を経て,2016年より現職。オハイオ州立大学心理学部客員研究員(2016年)。

専門は消費者行動論,マーケティング。

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