Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Influence of Visual Heaviness on the Perception of Scarcity
Ikumi HirakiTaku Togawa
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2019 Volume 38 Issue 4 Pages 35-46

Details
Abstract

身体化認知理論への注目により,感覚が消費者行動に及ぼすさまざまな影響が明らかになっている。本稿では,製品の希少性知覚に対して視覚的重さが及ぼす影響を検討する。製品パッケージのカラー(実験1)と製品画像の掲載位置(実験2)を操作した2つの実験を通して,視覚的重さの経験は,当該製品に対する希少性知覚へ影響を及ぼすことが明らかにされた。さらに,視覚的重さが希少性知覚へ及ぼす影響は,製品間の陳列スペースが広いときのみ生じることも示された。希少性は消費者を製品に惹きつける強力な要因である。重さという感覚経験と希少性知覚との関係を明らかにした本研究は,製品開発に携わるマーケターや店頭マーケティングに携わる小売業者に対して多くの示唆を提供している。

I. 導入

コモディティ化の進展により,企業は他社製品との違いを生み出すためにさまざまな価値の創出に力を注いでいる。機能的価値をはじめ,情緒的価値や文脈価値などといった価値への議論が展開されるなかで,希少価値も製品の魅力を増大させる重要な差別化軸の1つである。製品供給量が少ないことにより生じる希少価値は,とりわけ人々が当該製品を欲する気持ちを掻き立て,行動に向かわせる力が強い価値であると考えられている(Brehm & Brehm, 1981; Brock & Brannon, 1992; Inman, Peter, & Raghubir, 1997)。希少性の概念については多くの先行研究において議論されてきたものの,消費者が得る感覚的情報と希少性知覚との関係については検討されていない。

本研究では,身体化認知理論を援用することにより,製品から得られた感覚的情報が希少性知覚にどのような影響を及ぼすのかについて明らかにする。近年同理論への注目により,これまで検討されてこなかった感覚経験が,我々の行動のさまざまな側面に大きな影響を及ぼしていることが明らかにされている。例えば,温かいものに触れると他者を親切な人であると感じる(Williams & Bargh, 2008),硬いモノに触れると意志が固くなる(Ackerman, Nocera, & Bargh, 2010)といった傾向は広く知られつつある。合理的に考えるならば,温かさや硬さといった経験は,他者への印象や意志の強さとは無関係のはずである。しかし,身体化認知理論は,こうした本来,関係ないと考えられてきた行動や評価に対して,私たちが日常生活で経験する感覚が,大きな影響を与えていることを裏づけてくれるのである。

感覚的な情報には様々なタイプが存在するが,本稿では特に「重さ」の感覚に注目する。その際,重さの感覚が希少性知覚に及ぼす効果がどのような条件のときに生じるのかについても検討を進める。先行研究によると,重さの感覚は対象に対する重要性の知覚と結びつくことが明らかにされている(Jostmann, Lakens, & Schubert, 2009; Togawa, Ishii, & Park, 2016)。さらに,重さの感覚は,物理的に経験する重さだけではなく(Ackerman et al., 2010; Jostmann et al., 2009),視覚的に経験する重さの影響も明らかにされている(Deng & Kahn, 2009; Togawa et al., 2016)。日々の購買行動において,消費者は製品を手に取る前にパッケージだけを見て意思決定をくだしやすいため,本研究では視覚を通じて得られる重さの経験に焦点をあてていきたい。一見すると関係のないように思われる視覚的重さと希少性知覚の関係が明らかになれば,製品のパッケージ戦略に対して示唆を提供できるものと思われる。

本稿は以下の順に議論を展開していく。まず,第II節ならびに第III節では,身体化認知理論および希少性に関連する先行研究をレビューし,既存の知見を踏まえて仮説を提示する。続いて,視覚的重さをパッケージ・カラーの明度(濃さ)によって操作した実験1(第IV節),製品画像の掲載位置によって操作した実験2(第V節)を行い,仮説をテストする。最後に第VI節では,本研究の理論的意義や実務的示唆,および今後の課題について議論を展開していく。

II. 理論的背景と仮説の設定

1. 身体化認知理論

温かい環境は気持ちを明るくし,凍えるような環境は気持ちを萎縮させる。こうした誰しもが日常的に経験する環境が心理や行動へ及ぼす影響の多くは,これまで人の感情という観点から説明されてきた(e.g. Donovan, Rossiter, Marcoolyn, & Nesdale, 1994; Jang & Namkung, 2009)。しかし,Williams and Bargh(2008)の実験は,そうした環境の影響が,感情だけでは説明しきれない判断や行動にまで及ぶことを示している。彼らの実験では,参加者に対し,温かいコーヒーカップか,冷たいコーヒーカップのどちらかをもってもらうという条件を設定した。その後,初対面の他者に対する印象を尋ねたところ,温かいコーヒーカップをもった条件の参加者は,冷たいコーヒーカップをもった条件の参加者より,その他者を優しく,親切な人物であると評価する傾向が示された。一方,温かさ(冷たさ)と関係のない強さ(弱さ)や正直(不正直)などの項目に関しては,温かいコーヒーカップをもった条件と冷たいコーヒーカップをもった条件とで,評定に違いは見られなかった。もしこの現象が,温度により生じる感情によってすべてを説明できるとするならば,冷たいコーヒーカップをもった参加者にくらべ,温かいコーヒーカップをもった参加者は,優しさや親切さだけでなく,強さや正直さなどを高く評価してもおかしくない。しかしながら,実際に温かいコーヒーカップをもった参加者が評定を高めた項目は,温かさの経験と関係のある項目だけだったのである。

身体化認知理論(embodied cognition theory)は,人の感覚と認知との関係に注目することによって,感覚が人の判断や行動に及ぼす影響について,これまでにない新たな説明を可能にする(Barsalou, 2008)。この理論によると,人が思考する抽象的概念は,具体的な感覚経験と比喩的に結び付いており,人は具体的な感覚経験を結びつけることによって,抽象的な概念を理解しているのだという(Asch, 1958; Lakoff & Johnson, 1980)。一見すると何の関係もないように思われるカップの温かさが対人の印象形成に影響を及ぼす理由は,温かさの感覚が「優しさ」や「親切さ」の概念を活性化させ,対人理解の手がかりとして作用したのだと説明できる。

身体化認知理論を用いた研究では,温度以外のさまざまな感覚経験についても検証が進められている。硬さに注目したAckerman et al.(2010)は,椅子の硬さが意志の強さに及ぼす影響を明らかにした。実験は,自動車販売店における価格交渉場面において,ディーラーが提示した価格に対し,顧客側(実験参加者)が希望購入価格を提示するという設定である。実験において操作された条件は,交渉に臨む際に硬い木の椅子に座るか柔らかい椅子(ソファ)に座るかの違いだけである(実験参加者は椅子の硬さについて意識していなかった)。しかし結果は,柔らかい椅子に座った参加者の方が硬い椅子に座った参加者よりも,ディーラーが提示した金額を受け入れる傾向を示した。つまり,柔らかい椅子に座った参加者の方がディーラーが提示した金額を許容し,当初提示していた希望購入額よりも,大幅に高い購入額を示したのである。このことから,椅子の硬さは「頑固」や「強硬」の概念を活性化させる一方で,椅子の柔らかさは「柔軟」や「軟弱」の概念と結びつき,意思決定に影響を及ぼしたのだと考えられる。

Ackerman et al.(2010)は手触りについても実験を行っている。まず,実験参加者たちは,5ピースのパズルを完成させるという課題を与えられた。一方のパズル条件は表面が滑らかでつるつるしており,もう一方のパズル条件は表面がサンドペーパーで覆われざらざらした手触りのものであった。その後,参加者たちは,登場人物の間に展開される曖昧なやりとりに関する文章を与えられ,読み終わった後に,登場人物たちの関係(例えば協調的か敵対的か)を評価するよう求められた。その結果,ざらざらした手触りのパズル条件の実験参加者は,つるつるした手触りパズル条件の実験参加者にくらべ,登場人物間の関係をより困難で厳しいものであると評価した。粗い手触りの感覚は「難しさ」や「過酷さ」の概念を活性化させ,社会的相互作用における対人の印象形成に影響を及ぼしたと考えられる。

こうした感覚経験と抽象概念との比喩的な結びつきは,成長過程で経験した感覚を抽象概念として知識に構造化していくことで形成される(Lakoff & Johnson, 1980)。たとえば,温かさや柔らかさの感覚は,母親の胎内で経験する「安心」や「優しさ」と結びつく(Krishna, 2012)。それらは比喩的なリンクを有しながら記憶に保持されるため,後に温かさを経験すると,比喩的に結びついた抽象概念が活性化し,意思決定に影響を及ぼす(Barsalou, 2008)。このように,私たちが思考するさまざまな抽象概念は身体的な感覚経験と結びつき,人はそれを土台に評価や判断をしているものと考えられる。温かさ(冷たさ),硬さ(柔らかさ),滑らかさといった感覚経験は,同じ形容詞で表現される抽象概念の理解の土台をなしているのである。

2. 重さの効果

重さの感覚を比喩的に用いた形容詞も「重大さ」「重要性」「重圧」などさまざまある。身体化認知理論にしたがえば,これらの形容詞で表現される抽象概念は,人が重さの経験をした際に活性化され,彼らの判断や行動に影響を及ぼすことになる。

Jostmann et al.(2009)は,重さの経験が物事の価値や重要性の知覚を高めることを明らかにした。実験参加者は,さまざまな外国通貨の価値を見積もるという実験において,一方のグループには質問票を重いクリップボードに挟み,もう一方のグループには軽いクリップボードに挟んで回答させた。その結果,重いクリップボードをもって回答した参加者は,軽いクリップボードをもって回答した参加者より,外国通貨の価値を高く見積もった。クリップボードを持たせた別の実験でも,学生が奨学金に関わる委員会で発言できる権利をどれくらい重要に感じるかについて質問したところ,重いクリップボードをもって回答した参加者の方が,学生が発言できることの重要性を高く感じていた。

さらに,Ackerman et al.(2010)もクリップボードを用い,重さの感覚が評価に及ぼす影響を調査した。この実験は,参加者たちが,同じ内容の履歴書が挟まれたクリップボードをもちながら,求職者の能力を評価するという設定である。条件の違いは,履歴書をはさむクリップボードが重いか軽いかという点だけである。分析の結果,重いクリップボードで評価したグループは,軽いクリップボードで評価したグループに比べ,求職者の能力を高く評価した。さらに重いクリップボードをもったグループでは,この課題における自分の判断の重要性をより強く認識していることが示されている。

重さの感覚は触覚を通じて物理的に伝達されるだけではなく,視覚的にも伝達される。Deng and Kahn(2009)は,パッケージに掲載されるクッキーやビスケットなどの製品画像の掲載位置が,視覚的な重さに影響を与えると考えた。その根拠として用いたのが重力の法則である。日常生活の中で,人は重いものは下に行き,軽いものは上に行くことを知っている。こうした感覚経験が,下方に掲載された製品画像を見て重さを知覚し,上方に掲載された製品画像を見て軽さを知覚することにつながると考えた。実験の結果,パッケージの下側に画像を配置した時,上方に画像を配置した時に比べ,製品が「重そうである」と評価されることが示された。

さらに,Sunaga, Park, and Spence(2016)は,配置による視覚的重さと色の明度との重さ感覚の一致が,購買意思決定に及ぼす影響を検証した。実験では,製品の配置と明度とを組み合わせた架空の陳列棚が用意された。具体的には,配置について,上方の陳列が軽さを知覚し,下方の陳列が重さを知覚することが想定され(Deng & Kahn, 2009),製品の明度については,明るさが軽さを伝達し,暗さが重さを伝達すると想定された(e.g. Walker, 2012)。陳列の配置と製品の明度との一致や不一致の効果を検証した結果,明るい製品が上方に陳列され,暗い製品が下方に陳列されている一致条件において,消費者の情報処理の流暢性や製品探索の容易さが高まることが示された。さらに,重さ感覚において刺激が不一致の場合より,一致している場合の方が,選択や支払い意思額(WTP)も高くなることが明らかになった。

同様に,Zhang and Li(2012)は,対象物との直接的な接触がなくても,言語情報によるプライミングによって重さの知覚が発生することを示している。

3. 視覚的重さが希少性知覚に及ぼす影響

重さは,希少性概念とも認知的な連想を有していると考えられる。希少性とは,数が少ないがゆえに消費者が知覚する価値であるため(Brock, 1968; Brock & Brannon, 1992; Cialdini, 1993; Lynn, 1991),一見すると重さと少なさとの概念の結びつきは矛盾しているように思われる。しかし,私たちは希少価値があるものを「貴重」「珍重される」などという。また,Oxford English Dictionaryによると,英語でもheavyにはrareと類似した意味がある。こうした点を踏まえると,重さと結びつく抽象概念は,希少性知覚へも影響を与えると考えられる。

重さと希少性知覚の関係は,希少性効果のメカニズムを説明するコモディティ理論(Brock, 1968)からも説明することができる。同理論によると,希少性知覚は,何らかの理由により対象の入手が困難であると知覚された場合に生じる。したがって,入手困難性を知覚しない状況であれば,そもそも対象に対する希少性知覚は生じにくくなる。さらに,希少性知覚は,対象の有用性が高いほど強まる(Brock, 1992; Verhallen & Robben, 1994)。したがって,複数製品に知覚する入手困難性が同じであれば,有用性の高い製品の方が希少性知覚は高くなると考えられる。有用性は重さの概念と認知的連想を有していることから(Ackerman et al., 2010),店頭において入手困難性が等しい場合,製品から伝達される視覚的な重さが,有用性や重要性などの概念を活性化し,希少性知覚を高めると予想される。

4. 陳列スペースによる効果

通常,店舗の棚上には1つだけではなく,複数個の製品が陳列されている。とするならば,消費者は製品を個別に評価する前に,複数個の製品が陳列された棚全体を知覚し,何らかの印象を形成するであろう。その際,製品に対する希少性知覚も,こうした陳列方法によって何らかの影響を受けることが予想される。

陳列に対する印象に関して,とりわけ先行研究で議論されてきた要因の1つに,複数製品間のスペースが挙げられる。スペースは製品と製品との間の物理的距離であり,これ自体が身体化認知の影響を受ける可能性がある。実際,物理的距離の感覚は,対人関係における遠さの知覚に影響を及ぼしたり(組織図におけるトップマネジメントから各人に引かれた縦線の長さと上司への距離感;Giessner & Schubert, 2007),製品取得の困難性の知覚に影響を及ぼしたりすることが明らかにされている(製品を入手するまでにかかる時間的長さと入手困難性;Verhallen & Robben, 1994)。

これまでに行われた製品間スペースに関する研究では,直接的に陳列スペースを操作することによって,製品の審美性知覚に及ぼす影響が検討されてきた(Sevilla & Townsend, 2016)。具体的には,製品間の陳列距離が遠い条件の方が,近い条件に比べ,製品の審美性知覚が高まること,さらには審美性知覚が高まると,製品評価や支払意思額も高まることが明らかになっている。この研究は,広告分野における余白効果の研究に基づいており,たとえばPracejus, Olsen, and O’Guinn(2006)は,広告上の余白の広さがブランドの「一流」というイメージに最も強く影響を与えたほか,「権威」「品質」「信頼」などにもポジティブな効果を持つことを明らかにしている。ここでは,陳列スペースや余白といった視覚的なレトリックがシンボリック・システムとして作用し,消費者に望ましいイメージを伝達することが議論されている(Scott, 1994)。しかし,身体化認知理論を直接的に引用していないものの,これらの研究から得られた知見は同理論によっても説明可能である。製品間スペースから伝わる「遠い」という経験が,心理的な「遠さ」や「届かない」という抽象的な概念を活性化し,「高級」や「一流」といった概念に影響を及ぼしたと考えられる。さらに「届かない」という概念は「入手困難性」の概念とも結び付く。

III. 仮説の設定

1. 視覚的重さが希少性知覚に及ぼす影響

身体化認知理論にもとづくと,感覚的な刺激は抽象的な概念と結びつくことで,消費者の意思決定に影響を及ぼす。重さを取り上げたJostmann et al.(2009)Ackerman et al.(2010)は,物理的な重さの感覚経験が「重要性」などの抽象的な概念と結びつき,対象の価値や評価を高めることを明らかにした。さらに,画像の掲載位置(Deng & Kahn, 2009)や色の明度(Sunaga et al., 2016)に着目することによって,こうした重さと抽象的な概念との結びつきは,視覚的にも伝達されることが示された。複数の英和辞典においても,weightやheavyという単語を検索すると,gravity(「重大さ」「重力」)やimportance(「重要性」)といった意味の他,rare(「希少」)といった意味も示される。さらに,日本語でも複数の辞書を調べてみると,「重い」には物理的な重量や質量を表す意味だけでなく,「重視する」「重んじる」の他,「貴重」「珍重される」などといった意味が示されている。こうした点を踏まえると,重さの経験は製品の重要性知覚だけでなく,製品に関わるより広い判断に影響を及ぼすと考えられる。例えば,消費者が店頭を訪れた際,製品パッケージに対して視覚的な「重さ」を知覚するならば,こうした経験が,製品に対するさまざまな判断に影響を及ぼすであろう。さらに,コモディティ理論に基づくと,重さの感覚が強いほど,希少性は強く知覚されるはずである。つまり,パッケージによって生じる視覚的な重さ感覚が強いほど「rare」や「貴重」といった概念を強く活性化させ,当該製品に対して希少性を強く知覚させると予想される。したがって,以下の仮説を設定した。

仮説1:視覚的重さを伝達するパッケージは,視覚的軽さを伝達するパッケージに比べ,当該製品に対する希少性知覚を高める。

2. 視覚的重さと陳列スペースの効果

次に,視覚的重さが希少性知覚に及ぼす効果はどのような条件において生じるのかについて検討を進める。その際,製品間の陳列スペースの調整効果に注目する。

すでに議論したように,陳列棚において製品間のスペースを広くとることにより,高級感の知覚が高まることが先行研究で示されている。これらは,製品間スペースから伝わる「遠い」という経験が,心理的な「遠さ」や「届かない」という抽象的な概念を活性化し,「高級」や「一流」といった概念に影響を及ぼしたと考えられる。さらに,コモディティ理論によると,届かない(入手困難性)といった知覚は希少性価値も高める(Brock & Brannon, 1992)。通常,高級な製品は安価な製品に比べて供給量が限定されていることからも,広い陳列スペースにより生じる入手困難性の感覚は,高級感のみならず,希少性に対する連想ももたらすと考えられる。

一方で,こうした希少性知覚は,製品間スペースが狭い時には薄れる,もしくは生じない可能性がある。製品間スペースが広い時とは逆に,製品間スペースの狭さは近さという抽象概念を活性化させ,手の届かない感覚を減じるためである。実務的にも,陳列でボリューム感を出したいときは商品を隙間なく埋めた方が良いことが指摘されている(Kikuchi, 2013)。これは,陳列スペースが狭い時には希少性知覚が生じにくいため,個々の商品の集合効果で価値を生じさせようとする経験的な手法であると考えられる。対象の有用性と入手困難性の知覚から希少性知覚を検討するコモディティ理論からも,知覚的重さ(有用性)が製品の希少性知覚に及ぼす影響は,陳列スペースが広い(入手困難性高い)ときには強く生じるものの,狭いときには低減または消失する可能性が考えられる。以上の議論に基づき,次の仮説を設定する。

仮説2:視覚的重さを伝達するパッケージが視覚的軽さを伝達するパッケージよりも製品に対する希少性知覚を高める効果(仮説1)は,製品間のスペースが広い場合のみ生じる(一方,製品間のスペースが狭い場合には,製品に対する希少性効果は薄れる)。

IV. 実験1:視覚的重さと希少性知覚

1. 刺激

実験1では,製品パッケージで用いられる色の濃淡によって,視覚的重さを操作する。対象となる製品として,一般消費者にとって身近であるチョコレートを用いることにした。先行研究では,市販されている製品パッケージを用いて実験を行っているものも多いため(e.g. Deng & Kahn, 2009),本実験でも輸入品チョコレートのパッケージを実験用刺激として採用した。パッケージは2種類用意され,1つは全体的に濃い青色,もう1つは全体的に淡い青色の背景色を有している。

実験に先立ち,刺激についてのプリテストを実施した。具体的には,青色の製品パッケージの濃淡が,本実験で前提とした通り「濃い」または「薄い」と知覚されているかを確認することが目的である。大学生20名に対して,2種類のパッケージについてリッカート式7点尺度(1:「まったくそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で評価してもらった結果,カラーの濃淡を測定する項目において濃い色のパッケージは薄い色のパッケージに比べ「濃さ」の値が高く,その差は有意であった(M=5.40, SD=1.635 vs. M=3.65, SD=1.631; t(19)=3.601, p=.002)。このように,濃い色のパッケージは薄い色のパッケージに比べ,「濃さ」の知覚が有意に高いことが確認できたため,実験1では,プリテストで用いたパッケージを使用することにより,実験参加者の視覚的重さを操作することに決定した。

2. 実験の手続きと結果

実験は2018年12月,Yahoo! Japanクラウドソーシングに登録している20歳以上の一般消費者165名を対象として行った。実験参加者には濃い色のパッケージ,または薄い色のパッケージのいずれかを提示したのち,希少性知覚について,リッカート式7点尺度(1:「まったくそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で回答してもらっている。希少性知覚は,Sevilla and Townsend(2016)を参考に「この商品は手に入れるのが難しそうだ」「生産量が少なそうだ」という項目を設定し,分析にはこの2項目の合成尺度を用いることにした(r=.528, p<.0001)。また,視覚的重さについても「重みを感じる」という項目を用い,前述の7点尺度で測定した。

まず,「濃」条件と「薄」条件における「希少性知覚」をt検定によって比較した。その結果,「濃」条件は「薄」条件に比べ「希少性知覚」の値が高く,その差は10%水準で有意であることが示された(M=3.347, SD=1.0857 vs. M=3.013, SD=1.087; t(161)=1.962, p=.051, d=.0308;図1)。

図1

希少性知覚の平均値

さらに,パッケージの濃さが希少性知覚を高めるメカニズムを確認するため,パッケージ・カラーの濃さ(0:薄い/1:濃い)を独立変数,希少性知覚を従属変数,視覚的重さを媒介変数とする媒介分析を実施した(Hayes, 2017, Model 4)。その結果,パッケージ・カラーの濃さが視覚的重さに正の影響を与えており(B=1.029, SE=.189, t=5.454, p<.0001),視覚的重さが希少性知覚に正の影響を与えていた(B=0.440, SE=0.063, t=6.990 p<.0001)。間接効果を確認した結果(Bootstrap法による5,000回リサンプリング),視覚的重さによる間接効果は99%信頼区間で有意となっていた(B=0.453, SE=.110, 99% CI [.205, .767];図2)。これらは,パッケージ・カラーの濃さが視覚的な重量感知覚をもたらし,結果的に希少性知覚を高めるであろうという本研究の想定を支持するものである(仮説1支持)。

図2

媒介分析の結果

注:パスの値はすべて非標準化係数。**は1%水準,は10%水準で有意の意。括弧内の数値は,媒介変数を含んでいない直接効果の結果を表す。

V. 実験2:陳列スペースによる調整効果の検討

実験2では,希少性知覚に及ぼす視覚的重量感がどのような条件で生じるのかといった希少性知覚の発生条件について,「スペース」という調整要因を加えて検討する。

1. 刺激

実験1では,視覚的重さの操作方法としてカラーを取り上げたが,実験2ではパッケージ上の画像掲載位置を取り上げる。画像掲載位置と重量感知覚に着目したDeng and Kahn(2009)の実験で採用された,市販されているクッキーのパッケージを参考に,実験2では架空のクリームサンドウィッチクッキーのパッケージを作成した(作成したパッケージは,付録A参照)。1つはクッキーの画像がパッケージの上半分に掲載されており(視覚的な軽さを感じさせるパッケージ),もう1つは下半分に掲載されている(視覚的な重さを感じさせるパッケージ)。パッケージの画像掲載位置(上配置/下配置)が,「重い」または「軽い」と知覚されているかどうかについては,大学生20名に対してプリテストを実施して確かめている。2種類のパッケージについてリッカート式7点尺度(1:「まったくそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で評価してもらった結果,下配置のパッケージは上配置のパッケージに比べ「重さ」の値が高く,その差は10%水準で有意であった(M=4.825, SD=1.150 vs. M=4.325, SD=1.004, t(19)=2.055, p=.054)。

また,前述のとおり製品を並べる際のスペースも操作した。製品のスペース効果を検証したSevilla and Townsend(2016)に基づき,狭い条件と広い条件に配置する個々の製品サイズや陳列総数,および製品の並べ方は統一し,製品間における背景スペースだけを広い条件と狭い条件で操作した刺激を作成した(付録A参照)。

2. 実験の手続きと結果

実験は2018年12月,Yahoo! Japanクラウドソーシングに登録している20歳以上の一般消費者304名を対象として行った。実験参加者は,製品パッケージの画像掲載位置(上方/下方)×製品間スペース(狭/広)で分類されたいずれかの条件で実験に参加した。実験参加者に,4つのうちいずれかの刺激を提示したのち,希少性知覚について回答を求めた。実験1と同様,希少性知覚は「この商品は手に入れるのが難しそうだ」「生産量が少なそうだ」という合成尺度を用い(r=.569, p<.0001),リッカート式7点尺度(1:「まったくそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で回答してもらっている。また,仮説の中では触れていないものの,製品の購買へと結びつく可能性を検討するため,本実験では支払意思額についてもSevilla and Townsend(2016)を参考に,「この商品にいくらまでであれば支払ってもよいと思いますか」という尺度で測定した。

まず,「希少性知覚」を従属変数とする2(パッケージ上の画像:上/下)×2(スペース:狭/広)の2元配置分散分析を実施した。その結果,パッケージ配置の主効果が非有意となり(F(1, 300)=.584, p=.445; η2p=.002),またスペースの主効果も有意とならなかった(F(1, 300)=.159, p=.69; η2p=.001)。しかし,パッケージ配置とスペースの交互作用が有意となった(F(1, 300)=4.182, p=.042; η2p=.014; 図3)。

図3

スペース効果

注:希少性知覚は「この商品は手に入れるのが難しそうだ」「生産量が少なそうだ」の2項目の平均値である。

さらに,仮説のテストを行うため,Bonferroni法による下位検定を行ったところ,スペースが広い条件において製品画像が下方に掲載されたパッケージを見た群(n=82, M=3.457, SD=1.174)では,製品画像が上方に掲載されたパッケージを見た群(n=87, M=3.092, SD=1.226)に比べ希少性知覚が高く,その差は5%水準で有意となった(F(1, 378)=4.46, p=.035; η2p=.015)。一方,スペースが狭い条件においては,製品画像がパッケージの上方に掲載された群と下方に掲載された群で有意差は認められなかった。これにより,H2が支持された。

続いて,WTPを従属変数とする2(パッケージ上の画像:上/下)×2(スペース:狭/広)の2元配置分散分析 を実施した。その結果,パッケージ配置の主効果(F(1, 303)=1.501, p=.222; η2p=.005),およびスペースの主効果(F(1, 303)=2.373, p=.125; η2p=.008)は非有意であった。さらに,パッケージ配置とスペースの交互作用も有意とならなかった(F(1, 303)=1.123, p=.290; η2p=.004)。しかしながら,Bonferroni法による下位検定を行ったところ,スペースが広い条件において画像が下方に掲載された群(n=82, M=286.22, SD=161.17)では,画像が上方に掲載された群(n=88, M=245.28, SD=156.27)に比べWTPが高く,その差は10%水準で有意となった(F(1, 303)=2.937, p=.088; η2p=.010)。一方,スペースが狭い条件において,画像掲載位置がWTPに及ぼす影響は非有意であった。

VI. まとめと議論

1. 結論

本稿では,視覚情報のなかでも特にカラーと配置に注目し,これらの刺激から知覚される視覚的重さが,製品の希少性知覚に及ぼす影響について検討した。カラーを用いた実験1では,濃い色のパッケージは薄い色のパッケージに比べ,製品に対する希少性知覚を高めることが明らかになった。さらに,こうした効果は,製品の視覚的な重さによって媒介されることも確認された。画像の掲載位置に注目した実験2では,製品間のスペースが広い条件において,製品画像が下方に掲載されたパッケージは上方に掲載されたパッケージに比べ,当該製品に対する希少性知覚を高めることが明らかになった。さらに,WTPに関しても,製品間のスペースが広い条件において,製品画像が下方に掲載されたパッケージは上方に掲載されたパッケージに比べ,その額が高くなる傾向が見いだされた。したがって,本研究の仮説は概ね支持されたと結論付けられる。ただし,実験2においては,視覚的重さが希少性知覚に及ぼす主効果が有意とならなかった。この原因については,刺激の視覚的特性,製品特性などの可能性を考慮し,さらに検討していく必要があるだろう。

2. 本研究の意義

本研究の学術的な意義として,感覚マーケティング研究および身体化認知理論への貢献があげられる。消費者の感覚が,マーケティング刺激の効果に大きな影響を与えていることは,学術,実務の双方において注目を集めている。そのなかで,身体化認知理論は感覚経験と結びつく抽象概念を検討することによって,消費者の感覚が意思決定の幅広い場面において影響を及ぼす可能性が指摘されている(Togawa et al., 2016)。本稿では,希少性知覚に影響を与える新たな要因として,視覚的重量感の影響を明らかにすることができた。希少性に関するこれまでの研究では,希少である状態を操作することによって希少性を知覚させてきた。しかし,本研究で用いたカラーや画像掲載位置といった刺激は,直接的には希少状態とのかかわりが考えにくい。しかしながら,感覚経験と結びつく抽象概念と,従属変数が有する意味概念との結びつきを考えることによって,一見関係のなさそうに思われる視覚的重量感と希少性知覚との関係を明らかにすることができた。本研究を通して,身体化認知理論が,幅広いマーケティング変数へ応用可能であることを示すことができたと考えている。

本研究の実務的意義として,1つはパッケージ・デザイン戦略への貢献が考えられる。実験1によると,視覚的重さの経験は希少性の知覚を高める。この結果を踏まえると,限定感を強調する場合に濃い色を使用したり,商品や文字などの画像を下側に配置したりするデザインが効果的だと考えられる。さらに,視覚的重さを考慮したパッケージは,製品の希少性知覚を高めるため,贈答品を受け取った人に,大切な人(希少な人)であるという知覚を伝達できる可能性がある。

もう1つは,小売店頭における陳列戦略への示唆である。実験2によると,視覚的な重さの経験が希少性の知覚に影響を及ぼすか否かは,スペース(陳列距離)によって左右される。具体的には,製品間のスペースが広い場合,重さの経験が製品の希少性知覚を高め,さらにはWTPも高くする一方で,製品間のスペースが狭い場合には,これらの効果は生じない。この結果は,限定感といった希少性を伝達したい場合には,製品間スペースを狭くしてはいけないことを示唆している。特に,限定感が製品の購買誘因として働く高価な製品を扱う小売店舗では,製品の陳列距離に余裕をもたせることが高い価格での受容を促進している可能性がある。したがって,視覚的な重さを感じさせるパッケージを陳列する際には,製品間に十分なスペースを確保することにより,消費者のWTPを高めることができるだろう。

3. 今後の課題

本研究では,視覚的重さの経験と製品の希少性知覚に関して,仮説を概ね支持する結果が得られた。しかしながら,今後の研究に向けて,いくつかの課題も残されている。1つ目は,感覚経験と影響対象との意味的適合に関する検討である。本研究では,身体化認知理論に基づき,視覚的重さの経験が重要性の想起を通して希少性知覚を高めることを議論してきた。しかし,重さの経験と希少性知覚との関係がすべての製品に当てはまるとは限らない。たとえば,Deng and Kahn(2009)の実験では,通常タイプのクッキーについては視覚的な重さの経験が製品評価を高めていた一方で,低カロリー・タイプのクッキーに関しては視覚的な軽さの経験が製品評価を高めていた。これは,感覚経験が重要性概念に結びつくためには,当該製品において重視される属性との適合を検討する必要があることを示している。本研究で取り上げたチョコレートとクッキーは,一般的にどちらも濃厚さといった重さの経験が当該製品の重視属性と適合していたと考えられる。今後の研究において,さまざまな製品カテゴリーで感覚経験の影響を検討する際には,対象製品の重視属性との適合を考慮しながら,認知的連想との関係を吟味していくことが必要である。

2つ目は,実験デザインに関する検討である。本研究では,インターネット調査において画像をパソコン上に投影する形で実験参加者からの回答を得た。しかし,実務的意義でも触れたように,スペース効果に関わる本実験の知見は,小売店舗における陳列スペースの研究に応用することが可能である。実際,Sevilla and Townsend(2016)は,インターネットや紙媒体の調査によって検証してきた広告における余白研究を陳列研究に援用し,架空の陳列棚を設定した実験室実験を通してスペース効果を明らかにしている。製品が有する重さの経験を加味してスペース効果の発生条件を検証した本研究においても,店頭における陳列状況を再現した実験を通して,希少性知覚に対する本研究の知見の有効性を確認していく必要がある。

他にも,カラーによる感覚経験が文化的要因の影響を大きく受けることを踏まえ(Cattopadhay, Gorn, & Darke, 2010),消費者の文化的背景や個人特性の影響を考慮していくことも必要である。

謝辞

本研究は,科学研究費基盤B(課題番号 15H03394)による研究成果の一部である。本稿の掲載にあたり,レビュワーから建設的なコメントを頂いた。ここに記して感謝申し上げる。

付録A

実験2で用いた架空のパッケージ

平木 いくみ(ひらき いくみ)

東京国際大学 商学部 教授

2006年 早稲田大学大学院商学研究科 博士後期課程を単位取得。

明治学院大学講師,東京国際大学准教授を経て,18年より現職。

専門は消費者行動論,マーケティング。

外川 拓(とがわ たく)

千葉商科大学 商経学部 准教授

2013年 早稲田大学大学院商学研究科 博士後期課程を単位取得。

千葉商科大学専任講師などを経て,16年より現職。

16年 オハイオ州立大学客員研究員。

専門は消費者行動論, マーケティング。

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