Japan Marketing Journal
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Print ISSN : 0389-7265
Book Review
Wakabayashi, H., Tokuyama, M., & Nagao, M. (2018). Place Branding. Tokyo: Yuhikaku. (In Japanese)
Tetsu Kobayashi
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2019 Volume 38 Issue 4 Pages 95-97

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I. 本書の概要

本書は,有斐閣から2009年に出版された電通abic project編『地域ブランドマネジメント』の続編である。

日本における地域ブランド研究は,「地域産品ブランディング」と「地域空間ブランディング」の2つに大別されるが,本書は,後者の地域空間ブランディングを対象としている。2009年に出版された前作も,同様に地域空間ブランディングに焦点を当てており,著者らは一貫して地域空間ブランディングを研究対象としている。一方,前作は,地域のゾーニング戦略やコミュニケーション戦略,そして,ブランディングの担い手を育成・誘引するアクター戦略など,どちらかと言うと機能的視点から地域空間ブランディングを捉えていたのに対し,本書では,事例を中心に地域空間ブランディングを動態的に捉え,そのプロセスを描こうとしている点が大きな特徴だといえる。

以上の理由から,本書は,地域空間ブランディングに対する分析視点を提供する「理論編」,地域空間ブランディングを動態的に捉えた「事例編」,その具体的な方法を事例を踏まえて考察した「実践編」の三つの部分から構成される。以下,その内容を紹介していくが,タイトルにもあるように,本書では地域空間ブランディングを「プレイス・ブランディング」と呼んでいることから,ここでも地域空間ブランディングではなく,プレイス・ブランディングという言葉を用いることにする。

II. 理論編

第1部の理論編では,まず,地域ブランド研究を1960年代に始まる原産国効果(COO: Country Of Origin, PCI: Product-Country Image)研究の延長線に位置づけ,初期のプレイス・ブランディング研究は,ビジネスにおけるマネジメント・モデルをそのままプレイス・ブランディングに適用しようとしていたと言う。しかし,2010年以降,この種のマネジメント・モデルの適用に対する限界が指摘されるようになり,本書でも,プレイス・ブランディングをダイナミックな関係性構築プロセスとみなし,その中でアクター間の動きを考えることが必要だと主張する。

ここで重要となるのが,ブランドとしての「プレイス」の捉え方である。本書では,人文地理学者が使う「スペース(空間)からプレイス(場所)へ」という言葉を援用しながら,「(プレイスと)直接関わり,関係を取り結ぶ当事者の心情や観念として生じ,当事者とともにそのプレイスに関わる他者との共同主観的な意味付けがされ,その結果として景観のあり方やその背後に潜む意味を通じて,受け取られ解読されるもの」としてプレイスを捉えようとする。すなわち,そこに関わる人々が相互に交わる中で共同主観的にプレイスが意味づけられ,その意味がプレイスの在り様を変え,その変化に触発されて新たな意味づけがなされるというサイクルこそがプレイス・ブランディングなのである。

III. 事例編

第2部の事例編では,理論編で提示されたプレイス・ブランディング・サイクルの視点に立ち,全米の若者を惹きつける「ポートランド」,広域エリアで内海文化を共創している「瀬戸内」,地域内の企業間連携が新たな企業間連携を生み出す「越後」,地域の自然資源の水資源に絞り込み,民間企業と行政との多様な連携を生み出す「南アルプス」を取り上げ考察している。本書の紙幅の半分以上がこれら事例の記述に割かれていることからも分かるように,この事例編が本書の中核部分だと言える。

その中でも,特に興味深いのが瀬戸内の事例である。今日につながる瀬戸内のブランディングは,1990年に一企業が直島を企業ビジョンの体験の場に位置づけ,現代アートのワークショップを行ったことに始まる。その後,直島が現代アートの島として国内外で注目されるようになり,それに呼応した香川県が瀬戸内国際芸術祭を開催し,現代アートの輪が瀬戸内へと拡大する。一方,しまなみ海道のサイクリング・ロードを活用して地域の活性化を図ろうとしていた今治市や愛媛県が,台湾の自転車メーカーであるジャイアントと出会い,しまなみ海道は世界のサイクリストが注目するサイクリング・ロードへと変貌する。そして,こうした状況の中で,広島県が中心となり7つの県が連動し,瀬戸内ブランディング・プロジェクトが生まれる。

瀬戸内の事例は,ひとつの活動やひとりのアクターの行動が,新たな活動やアクターを生み出し,それがプレイスに新たな意味を付与し,それを受けてさらなる活動やアクターが生み出されるというプレイス・ブランディング・サイクルそのものだと言える。他の事例も同様である。ここですべてを紹介することはできないが,各事例から本書が語ろうとするプレイス・ブランディング・サイクルを読み解いてほしい。

IV. 実践編

第3部の実践編では,事例編からの示唆に基づき,プレイス・ブランディング・サイクルの実現方法について考察している。その中で興味深いのが,プレイス・ブランディングにおける「ディレクション」の重要性である。

ここで言うディレクションとは,目標が定まらない中で,ある方向へと物事を動かし,予期せぬ出来事や偶然の出会いによる人間関係を取り込みながら物事を進めることを意味する。すなわち,物事をよい方向に変化させる技術がそれである。

プレイス・ブランディングでは,目的を設定し,それを効果的かつ効率的に達成するマネジメント・モデルを適用することは難しい。なぜなら,アクターが自らプレイスの意味を見出し,それを変革していくことが必要だからである。しかし,アクターが置かれている状況は多様であり,そのままでは彼らの思いや行動が収斂せず,プレイスの意味が希薄化してしまう。そこで,彼らのベクトルを合わせるためのディレクションが必要となる。

V. 本書の貢献

地域ブランドと言えば,地域産品ブランディングを連想する人が多い中,プレイス・ブランディングのみを扱った書籍は少ない。確かに,世界的にはプレイス・ブランディングが主流であり,それを学べばよいと考える者もいるだろう。しかし,プレイス・ブランディングは,その地域の人々の考え方や行動様式が色濃く反映されるため,日本人の考え方や行動様式に合ったプレイス・ブランディングが求められる。その意味で,本書の果たす役割は大きい。

また,本書は,現場でプレイス・ブランディングに携わる人にも理解しやすい内容になっており,その点も高く評価できる。と言うのも,プレイス・ブランディングを成功に導くには,現場のアクターたちがその本質を理解し実践する必要があるからである。新たな成功事例が増えれば,それに呼応してプレイス・ブランディングの研究も進む。本書は,その意味でも大きな役割を担っている。

 
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