マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響
― 解釈レベル理論による効果の検討 ―
須田 孝徳石井 裕明外川 拓山岡 隆志
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2021 年 41 巻 2 号 p. 60-71

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Abstract

消費者が使用するデバイスの多様化とともに,デバイスが消費者行動に及ぼす影響に注目が集まっている。本研究では,デバイスの違い(スマートフォン/PC)が消費者の解釈レベルに及ぼす影響を検討するとともに,デバイス特性と解釈レベルの一致が,消費者の評価や行動に及ぼす影響について検討する。本研究では3つのオンライン実験と,1つのフィールド調査を通した検証を試みる。研究1では,スマートフォン(vs. PC)で対象を見たとき,消費者はその対象をより近いと知覚することを明らかにする。研究2では,スマートフォン(vs. PC)を使用した場合,消費者の解釈レベルが低次になることを確認し,研究3では,スマートフォン(vs. PC)の使用が,低次の解釈レベルに対応した広告の評価に正の影響を及ぼすことを確認する。最後に研究4では,実際の購買データを分析することで,研究1~3で得られた知見の実務への応用可能性を検討する。

Translated Abstract

The diversification of devices used by consumers has drawn attention to the influence of devices on consumer behavior. This study examines the impact of device types, such as smartphones and personal computers, on consumers’ construal levels and the congruence between the device types and construal levels on consumer behavior. For this purpose, we conducted four studies: three online experiments and one field study. Study 1 showed that consumers perceive the target closer when they view it on a smartphone (vs. a PC). In Study 2, we found that consumers’ construal level becomes lower when using a smartphone (vs. a PC). In Study 3, we confirmed that the use of smartphones (vs. PCs) positively influences the evaluation of advertisements corresponding to lower construal levels. Finally, in Study 4, we examined the applicability of the findings from Studies 1 to 3 to the field of business by analyzing actual purchase data.

I. はじめに

インターネットを介した電子商取引(EC)の拡大に伴い,消費者が使用する情報通信機器(以下,デバイス)の種類がマーケティング成果に及ぼす影響について注目が集まっている(Kannan & Li, 2017)。消費者の使用するデバイスは,PCやスマートフォンのみならず,iPadなどのタブレット端末から,腕時計型のウェアラブル端末まで多種多様化しており,消費者は状況や用途に応じて,さまざまなデバイスを使い分けながら購買を行っている。デバイスの特性を理解することの重要性は先行研究においても度々指摘されてきたが(Coulter, 2016; Yadav & Pavlou, 2014),その重要性はこれまで以上に高まっていると言えるだろう。

さらに近年では,デバイスの特性が消費者の評価や行動に影響することが指摘されており(Melumad & Meyer, 2020),デバイスの特性と消費者行動の関係性を把握することは,企業戦略のみならず,デジタル時代における消費者行動を理解するためにも意義があると考えられる。

そこで本稿では,使用するデバイスの違いが,消費者の評価や行動に及ぼす影響について検討する。具体的には,スマートフォン(vs. PC)を使用している消費者は,デバイスに表示される対象に対して心理的距離を近く知覚し,解釈レベルが低次になるため,低次の解釈レベルに対応したマーケティング刺激を高く評価することを明らかにする。

II. 理論的背景

1. マーケティング研究におけるデバイス

既存研究において,デバイスは,消費者と企業の相互作用を促すテクノロジーの一つとして位置づけられている(Yadav & Pavlou, 2014)。ECにおける取引が全てデバイスを介して行われることから,デバイスに関する先行研究は,企業戦略研究の視点から,消費者行動研究の視点まで,広範な範囲で知見の蓄積が見られる。

中でも,スマートフォンの普及によりモバイルマーケティングの重要性が指摘されると(Shankar & Balasubramanian, 2009),スマートフォンを利用したクーポン配布の効果や(Danaher, Smith, Ranasinghe, & Danaher, 2015),GPSを使用した地理的なターゲティングの効果検証など(Fong, Fang, & Luo, 2015),オムニチャネルにおけるデバイスの有効性を検証した研究が数多く取り組まれるようになってきている。

2. デバイス特性と消費者行動

マーケティング戦略の側面からデバイスへの関心が高まると共に,デバイスの特性が消費者の心理や行動に及ぼす影響に着目した研究も行われている。特に,PCとスマートフォンなどのタブレット端末を比較し,それぞれの特性が消費者反応に及ぼす影響を解明した研究が進んでいる。以下では,デバイスを比較する際に用いられる代表的な視点である「デバイスの操作方法」と「スクリーンサイズ」の先行研究を中心にレビューする。

(1) 操作方法による効果

PCと,スマートフォンなどのタブレット端末を比較する際に注目される点のひとつに,操作方法の違いが挙げられる。一般的に,PCがマウスやキーボードを使用して操作されるのに対し,タブレット端末はスクリーンに直接,指でタッチをすることで操作が行われる。Brasel and Gips(2014)は以上の点に着目し,スクリーン上で対象に直接タッチをする(vs タッチパッド,マウスで操作する)ことで対象に対する心理的所有感が高まり,製品評価に正の影響を与えることを確認している。またShen, Zhang, and Krishna(2016)は,身体化認知理論を援用し,スクリーン上で対象を直接タッチする動作が,実際に手を伸ばして物を掴む動作の心的表象を形成すると指摘している。同研究では,スクリーンで対象を直接タッチすることで,ヒューリスティックな情報処理が促され,快楽的製品(vs 功利的製品)の選択率が高まることを確認している。

使用時における,自身とデバイスとの距離に着目した研究も行われている。Coulter(2016)は,スマートフォンなどを使用して,デバイスに表示される情報に自身の手が近接している場合は,より詳細で属性ベースの情報処理が行われるのに対し,PCなどを使用して,自身の手が情報から離れている場合は,より包括的な情報処理が行われることを明らかにしている。

(2) スクリーンサイズによる効果

デバイスのスクリーンサイズが消費者反応に及ぼす影響に注目した研究も行われている。PCなどの大型デバイスと比較して,スクリーンサイズが小さいスマートフォンでは,デバイスを使用する際に必要な身体的および認知的負荷が増大することが明らかになっている(Raptis, Tselios, Kjeldskov, & Skov, 2013)。その結果として,スマートフォン・ユーザーは,PCユーザーと比較して,デバイスでブラウジングをする際の情報探索量が少なくなることが示されている(Ghose, Goldfarb, & Han, 2013)。さらに,Melumad and Meyer(2020)によれば,小さなデバイスでクチコミやツイートなどを入力した場合,当該コンテンツにおける自己開示の要素が強くなることを明らかにした。

以上の先行研究をまとめると,デバイス特性によって消費者の情報処理が影響を受けるとともに,その結果として,デバイスに表示される対象に対して異なる評価がなされると考えられる。本研究においては,スマートフォンがPCと比較して,デバイスに表示される対象をより近いと知覚させる可能性に注目する。こうした対象への距離感が,消費者の評価にどのような影響を及ぼすのかについて,解釈レベル理論をもとに検討を進めていく。

3. 解釈レベル理論とデバイスとの適合

解釈レベル理論とは,人が対象に対して感じる心理的距離によって,精神的表象が変化することを示した理論である(Abe, 2009; Trope & Liberman, 2003)。解釈レベル理論によれば,人が対象への心理的距離を遠く感じた場合に解釈レベルは高次となり,対象を抽象的,本質的,目標関連的に捉える一方,対象までの心理的距離を近く感じた場合に解釈レベルは低次となり,対象を具体的,副次的,目標非関連的に捉えるとされる(Trope & Liberman, 2003)。また,先行研究においては,心理的距離は様々な種類に分類することができ,既存研究では「時間的距離」「空間的距離」「社会的距離」「経験的距離」などが指摘されているとともに(Trope, Liberman, & Wakslak, 2007),複数の心理的距離の一致効果に着目した検証もなされてきている(Togawa & Yashima, 2014)。

本研究の問題意識である「デバイスの違いによる消費者反応の変化」との結びつきを考察するうえで,Hamilton and Thompson(2007)は興味深い実験を行っている。Hamilton and Thompson(2007)は,PC画面上で製品情報を閲覧した場合(経験的距離が遠い場合)に比べて,直接製品に触れた場合(経験的距離が近い場合),低次解釈に相当する訴求が行われた製品が高く評価されたことを明らかにしている。

また,Seo and Park(2021)は,Netflixなどの,デジタル財のサービスプラットフォームへの心理的所有感が高い(低い)場合,サービスへの心理的距離が近く(遠く)なることで,低次(高次)の解釈レベルに対応する具体的(抽象的)表現の広告メッセージが効果的であることを報告している。

さらにThomas and Tsai(2012)は,消費者の身体の姿勢が解釈レベルに与える影響について考察を行っている。実験において,デバイス画面に表示されたタスクに接近した座り方(vs 遠ざかった座り方)をした場合,対象に対する心理的距離を近く感じるとともに,対象を低次の解釈レベルで捉えることが示されている。

以上の知見をもとに,命題を導出する。スマートフォン(vs. PC)で製品情報を閲覧する際,消費者は画面を通じ,あたかも製品に直接触れるような経験を得ているとするならば(Brasel & Gips, 2014),こうした経験は製品への心理的距離を近く感じさせるであろう(Hamilton & Thompson, 2007)。その際,消費者の解釈レベルは低次になるため,それに適合した情報が製品評価を高め,購買行動を促すことが予測される(Trope & Liberman, 2003)。そこで,本研究では以下の命題を提示した(図1)。

図1

命題の概念図と研究1~4の位置づけ

命題:スマートフォン(vs. PC)を使用した場合,消費者はデバイスに表示される対象への心理的距離を近く感じ,解釈レベルが低次になる。よって,低次(vs. 高次)の解釈レベルに適合した情報に対して,ポジティブな評価を示す。

本研究では上述の命題に対して,3つのオンライン実験と,1つのフィールド調査を通した検証を試みる。研究1では,使用するデバイスの違いによって,デバイスに表示される対象に対する心理的距離が変化することを明らかにする。研究2では,デバイスの違いによって消費者の解釈レベルが変化することを確認し,研究3では,デバイスの違いと解釈レベルの対応が,特定の広告に対する評価に影響を及ぼすことを確認する。最後に,オンライン・コンテンツの購買データを分析した研究4では,より現実的な文脈における消費者の行動的反応を分析することで,研究1~3で得られた知見の妥当性を確認する。

III. 研究1

研究1は,スマートフォンを使用する場合に,PCを使用する時と比較して,対象への心理的距離を近く感じることを,オンライン実験を通じて明らかにする。

1. 方法

実験は,2021年5月に20~74歳の日本人の男女408名に対し,インターネットを通じて実施された。参加者には予め,スマートフォンもしくはPCのいずれかのデバイスを使用するように伝え,アンケートに回答してもらった。分析にあたり,アンケート内にて再度,回答に用いたデバイスについて質問し,指定された種類以外のデバイスを用いて回答を行ったサンプルを排除した。また,アテンションチェック項目に正答しなかったサンプルなどを除外し,最終的に349名の回答者を分析対象とした1)

従属変数は,参加者にとって馴染みが薄いと思われる3つの国(ブルネイ,アルバニア,ボツワナ)への印象を質問した2)。本研究の命題(図1)に基づくならば,スマートフォンで回答した参加者の方が,PCで回答した参加者に比べて,3つの国をより身近に感じると知覚するはずである。そこで,参加者に対して3カ国をランダムな順で提示し,3カ国に対する印象(「あなたは,ブルネイ/アルバニア/ボツワナをどれくらい身近だと感じますか」)を,「1:全くそう思わない」から「7:強くそう思う」の7段階のリッカート法で回答してもらった。

2. 結果と考察

参加者が使用したデバイスによって,それぞれの国に対して「どれくらい身近だと感じるか」の違いを比較した。その結果,ブルネイ(Mスマートフォン=2.35, SDスマートフォン=1.592 vs. MPC=2.04, SDPC=1.090; t(349)=2.168, p=.037, d=.233),アルバニア(Mスマートフォン=1.97, SDスマートフォン=1.359 vs. MPC=1.64, SDPC=.839; t(349)=2.667, p=.008, d=.299),ボツワナ(Mスマートフォン=2.06, SDスマートフォン=1.492 vs. MPC=1.47, SDPC=.759; t(349)=4.527, p<.001, d=.515),3ヶ国全てに対して,スマートフォンを使用した参加者の方が,PCを使用した参加者に比べて,より身近に感じていたことが示された。

研究1では,デバイスの違いによって,対象への心理的距離の知覚に差が生まれる可能性を検討した。その結果,スマートフォンを使用した方が,デバイスに表示される対象をより身近に感じていることが明らかになり,命題での想定と一致する結果が得られた。

IV. 研究2

研究2では,デバイスの違いにより,対象への心理的距離が変化することを改めて確認するとともに,デバイスが使用者の解釈レベルに影響することを確認する。また,解釈レベルの変化が対象への評価に及ぼす効果についても検討していく。

1. 方法

研究2では,デバイスの違いと解釈レベルの適合を確認するため,2(デバイス:スマートフォン/PC)×2(社会的距離:遠/近)の実験を実施した。いずれの要因についても参加者間計画法を採用している。実験は,2021年5月に20~76歳の日本人の男女399名に対し,インターネットを通じて実施された。なお,研究1と同様の方法でサンプルのスクリーニングを実施したのち,最終的に332名の回答者を分析対象とした3)

まず,参加者は研究1と同様,スマートフォン使用群とPC使用群のいずれかに割り振られ,社会的距離の操作を行うためのシナリオが提示された。シナリオの作成には,Kim, Zhang, and Li(2008)のStudy2を参考とした。Kimらは,ホテルと化粧水に関する架空の口コミを用意し,口コミの投稿者の特性(近:参加者と同じ国の人物/遠:参加者と違う国の人物)を変えることで,社会的距離を操作している。また,ホテルと化粧水を1年後/明日に利用する想定のシナリオを提示することで時間的距離の操作を同時に行い,社会的距離と時間的距離の一致効果を検証した。その結果,両距離の交互作用効果が認められ,心理的距離の一致が,ホテルと化粧水の評価を高めることを確認している。そこで本実験では,参加者にECサイトで洗顔クリームを選んでいる状況を想定してもらい,洗顔クリームについて投稿された口コミを提示した4)。口コミの投稿者として,社会的距離が近い条件群には「鈴木健太(東京在住)」,社会的距離が遠い条件群には「Henry Anderson(シアトル在住)」という名前が示された。シナリオを提示した後,「口コミへの心理的距離」「口コミ評価」について参加者に質問した。

従属変数となる「口コミへの心理的距離」は,提示された口コミに対して「親しみを覚える」と「近しいと感じる」の2項目(α=.89, CR=.75, AVE=.60)を7ポイントのリッカート尺度5)で測定し,2項目の平均値を求めた。また「口コミ評価」はKim et al.(2008)を参考に,「好ましい」「良いと思う」「役に立つ」「満足できる」の4項目(α=.90, CR=.95, AVE=.78)を7ポイントのリッカート尺度で測定し,平均値を求めた。

また,デバイスの違いによる解釈レベルへの影響を測定するため,Vallacher and Wegner(1989)のBIF尺度を質問項目に加えた。BIF尺度は25項目の質問から構成され,項目の合計得点(0~25)が高いほど,高次の解釈レベルを有していると判断される。

最後に,口コミ投稿者の違いによって社会的距離が操作されていることを確認するため,Kim et al.(2008)を参考に「口コミ投稿者との社会的距離」として「自分に似ている」「メンバーの一員だ」「心理的に近しい」の3項目(α=.83, CR=.89, AVE=.74)を7ポイントのリッカート尺度で測定し,平均値を求めた。

2. 結果と考察

デバイス・タイプに関する分析に先立ち,口コミ投稿者の違いによる社会的距離の操作チェックを行った。その結果,社会的距離が遠い条件群(M=3.22, SD=1.11)と,近い条件群(M=3.46, SD=1.01)の間に有意差が見られた(t(332)=1.632, p=.042, d=-.224)。したがって,社会的距離は適切に操作されていると判断した。

続いて,デバイスによって対象への心理的距離が変化することを確認するため,「口コミへの心理的距離」を従属変数とする2(デバイス:スマートフォン/PC)×2(社会的距離:遠/近)の2元配置分散分析を実施した。その結果,デバイスの主効果(Mスマートフォン=4.63, SDスマートフォン=0.077 vs. MPC=4.42, SDPC=0.080; F(1, 328)=3.584, p=.059, η2p=.011)が有意傾向であった。また,デバイスが解釈レベルに影響することを確認するため,「BIF」についても分析したところ,デバイスの主効果(Mスマートフォン=11.23, SDスマートフォン=0.200 vs. MPC=11.86, SDPC=0.209; F(1, 328)=4.655, p=.032, η2p=.014)が有意であった。「口コミへの心理的距離」「BIF」のいずれにおいても,社会的距離との交互作用効果は確認されなかった(ps>.330)。

次に,デバイス・タイプと心理的距離の一致が評価に及ぼす影響を確認するため,「口コミ評価」を従属変数とする2元配置分散分析を実施した。その結果,デバイスの主効果(Mスマートフォン=4.98, SDスマートフォン=0.072 vs. MPC=4.77, SDPC=0.075; F(1, 328)=3.936, p<.048, η2p=.012)が確認されたものの,デバイスと社会的距離の交互作用効果は確認されなかった(p=.889)。

研究2では,デバイスの種類が,対象への心理的距離,および消費者の解釈レベルに影響を及ぼすことが確認された。具体的には,スマートフォン(vs PC)を使用した参加者の方が,口コミへの心理的距離を近いと知覚し,参加者の解釈レベルが低次となっていた。

また,デバイスが口コミ評価に影響を及ぼすことも確認された。ただし,デバイス・タイプと心理的距離の一致効果により,スマートフォン条件では,社会的距離が近い投稿者の口コミをより好ましく評価するものと予想されたが,デバイスと社会的距離の交互作用効果は確認されなかった。交互作用効果が確認できなかった原因として,我々が想定していた以上にデバイスの効果が大きく,社会的距離の違いによる効果を打ち消してしまった可能性が考えられる。

V. 研究3

研究1ならびに研究2においては,デバイスの違いにより対象への心理的距離が変化し,解釈レベルに差が生まれることが確認された。そこで研究3では,デバイスと解釈レベルの適合に焦点を定め,デバイス・タイプと解釈レベルの一致が,消費者の評価に及ぼす影響について明らかにする。

1. 方法

実験は,2021年5月に20~76歳の日本人の男女400名に対し,インターネットを通じて実施された。なお,研究1と同様の方法でサンプルのスクリーニングを行い,最終的に367名の回答者を分析対象とした6)

研究3では,広告写真の抽象度合いと解釈レベルとの結びつきに注目した。先行研究では,より具体性(vs. 抽象性)の高いカラー(vs. 白黒)写真が提示された場合,消費者の解釈レベルは低次(vs. 高次)になることが明らかになっている(Lee, Fujita, Deng, & Unnava, 2017; Terasaki & Ishii, 2018)。そこで,本研究では広告写真のカラー(vs 白黒)と,スマートフォン(vs PC)との対応関係を検証する。

参加者には,Terasaki and Ishii(2018)を参考に,「ある企業がチョコレートの販売を予定しています。そのチョコレートの広告には,『このチョコレートは,商品の売上に応じて,その販売収益の一部が,アフリカの児童養護施設の子供たちに寄付されます』と書かれていました」というメッセージとともに,アフリカの子供が写ったカラー/白黒の写真が添えられた広告がランダムに提示された。シナリオを提示した後,「広告評価」と「製品評価」について参加者に質問した。

従属変数となる「広告評価」はChen, Yang, and Smith(2016)を参考に,「信頼できる」「正確な情報が得られる」「信用できる」の3項目(α=.93, CR=.95, AVE=.87)を7ポイントのリッカート尺度7)で測定し,平均値を求めた。また「製品評価」はTerasaki and Ishii(2018)を参考に「好きである」「とても良い製品だ」「好意を持っている」の3項目(α=.93, CR=.95, AVE=.87)を7ポイントのリッカート尺度で測定し,平均値を求めた。

最後に,Terasaki and Ishii(2018)を参考に,広告写真の抽象度を確認するため「抽象的な写真である」という項目を質問した。

2. 結果と考察

はじめに,カラー写真は白黒写真に比べて具体的な情報をもたらすという本研究の前提を確認するため,「抽象的な写真である」という項目を分析したところ,カラー写真(M=3.53, SD=1.384)と白黒写真(M=3.85, SD=1.152)の間に有意な差がみられ(t(367)=−2.393, p=.017),カラー写真の方が,具体性が高いことが確認された。

次に,「広告評価」を従属変数とする2元配置分散分析を実施した。その結果,「広告評価」におけるデバイスと写真の交互作用効果が確認された(F(1, 363)=7.224, p<.008, η2p=.020)。Bonferroni法による下位検定の結果,スマートフォンにおいて,カラーの広告写真が掲載された場合,白黒の広告写真が掲載された場合に比べ,広告評価が有意に高かった(F(1, 363)=4.463, p=.035, η2p=.012)。これに対し,PCにおいては,白黒の広告写真が掲載された場合,カラーの広告写真が掲載された場合に比べて広告評価が高く,その差は有意傾向を示していた(F(1, 363)=2.283, p=.090, η2p=.008)(図2)。

図2

研究3の結果

注:広告評価は「信頼できる」「正確な情報が得られる」「信用できる」の3項目の平均値である。

製品評価は「好きである」「とても良い製品だ」「好意を持っている」の3項目の平均値である。

「製品評価」についても,「広告評価」と同様の分散分析を実施した。その結果,デバイスと写真の交互作用効果が確認されたため(F(1, 363)=6.740, p<.010, η2p=.018),下位検定を実施したところ,スマートフォンにおいては写真の単純主効果が有意でなかった(p=.283)。一方で,PCにおいては,白黒の広告写真が掲載された場合,カラーの広告写真が掲載された場合に比べ,「製品評価」が有意に高かった(F(1, 363)=6.584, p=.011, η2p=.018)(図2)。

研究3では,デバイスと広告画像の適合が,当該広告に対する評価に影響を及ぼすことが確認された。具体的には,スマートフォン(PC)を使用した参加者は,低次(高次)の解釈レベルに対応するカラー(白黒)写真が提示された広告に対して高く評価した。また,製品評価についても,広告評価と同様の結果が示された。以上の結果は本研究の命題にて想定していた,デバイスと解釈レベルの対応を裏付けている。

VI. 研究4

前述のオンライン実験では,デバイスの違いが解釈レベルに影響し,特定の広告に対する評価に影響を及ぼすことが確認された。そこで,研究4では,実際の購買データを分析することにより,オンライン実験で得られた知見が,現実の行動データでも確認できるか否かについて検討していく。

1. 方法

研究4では,Ishii, Yamaoka, and Togawa(2021)にて使用されたデータを用いた分析を試みる。データは,GMO NIKKO株式会社,GMOプレイアド株式会社より提供された漫画アプリのバナー広告492種類に関するものである。バナー広告は2016年4月から2018年3月に掲出されたものであり,それぞれのバナー広告に対するスマートフォンとPCそれぞれにおける月ごとのインプレッション数,クリック数,コンバージョン数が結び付いている。従属変数の設定にあたり,研究4では,研究1から研究3で確認されたデバイスによる影響が実際の購買行動に結びつくかを検討するため,「購入数」に注目することとした。そこで,それぞれのバナー広告に掲載されている内容の違いを独立変数,コンバージョン数をインプレッション数で除した「広告掲出あたりの購入数」,コンバージョン数をクリック数で除した「クリック当たりの購入数(CVR)」を従属変数として分析を進めていく。

分析対象とするのは,広告のキャリーオーバー効果等を考慮し,バナー広告が掲載された最初の月の反応のみとした。また,デバイスによる違いを検討するため,スマートフォンとPCそれぞれに同じ広告が掲載された278種類のバナー広告に分析対象を絞り込んでいる。

Ishii et al.(2021)においては,2名の大学院生に広告内容を分類するためのコーディングを依頼し,Stewart and Furse(1986)などで提示されている項目を中心に,内容のジャンルや登場人物についてコード化を行ってもらっている。本研究では,Stewart and Furse(1986)で提示されていた「主人公が一般的な人物」という項目に注目して分析を進めた。

本分析データの対象が漫画アプリであることを踏まえると,登場人物が一般的な人物か否かという視点は,解釈レベル理論で想定している社会的距離と結びついていると想定できる(e.g. Trope et al., 2007)。つまり,主要キャラクターが一般的な人である場合には,社会的距離が近いと考えられる。従って,「主人公が一般的な人物」として分類された広告においては,低次の解釈レベルに対応するスマートフォンに掲載される状況において,好ましい評価や購買行動に結び付くものと予想される。

なお,「主人公が一般的な人物」という項目における二人のコーダーの評価が一致したのは,278種類の広告中152種類(54.7%)に留まっていた。そこで,2人のコーダーの評価が一致していた152種類のバナー広告のみを対象として分析を進めることとした。

2. 結果と考察

それぞれのデバイスに掲載された登場人物の影響を検討するため,デバイスの違いを対応のある要因とした2(広告における登場人物:一般的 vs. 一般的でない)×2(デバイス:PC vs. スマートフォン)の分散分析をそれぞれの従属変数に対して行った。

「広告掲出あたりの購入数」を従属変数とした分散分析の結果を見てみると,デバイスの主効果(F(1, 150)=137.26, p<.001, η2p=.478),デバイスと登場人物の交互作用効果が有意であった(F(1, 150)=6.43, p=.012, η2p=.041)。特に,PCにおいては登場人物の単純主効果は有意でなかった一方で(p=.729),スマートフォンにおいては登場人物の単純主効果が有意であり(F(1, 150)=4.17, p=.043, η2p=.027),主人公が一般的でない広告よりも主人公が一般的な広告において広告掲出あたりの購入数が高くなっていた(図3)。

図3

研究4の結果

なお,デバイスの主効果が強く生じていたことにより,主人公が一般的な広告においても(F(1, 150)=145.63, p<.001, η2p=.493),主人公が一般的でない広告においても(F(1, 150)=32.34, p<.001, η2p=.177),PCよりもスマートフォンの方が広告掲出あたりの購入数が多くなっていた。

また「クリック当たりの購入数(CVR)」を従属変数とした分散分析の結果を見てみると,デバイスの主効果(F(1, 147)=54.74, p<.001, η2p=.271),登場人物の主効果(F(1, 147)=4.62, p=.033, η2p=.030)が有意であり,デバイスと登場人物の交互作用効果が有意傾向であった(F(1, 147)=3.78, p=.054, η2p=.025)。特に,PCにおいては登場人物の単純主効果は有意でなかった一方で(p=.442),スマートフォンにおいては登場人物の単純主効果が有意であり(F(1, 147)=9.46, p=.003, η2p=.060),主人公が一般的でない広告よりも主人公が一般的な広告において広告掲出あたりの購入数が高くなっていた(図3)。

なお,デバイスの主効果が強く生じていたことにより,主人公が一般的な広告においても(F(1, 147)=61.36, p<.001, η2p=.294),主人公が一般的でない広告においても(F(1, 147)=11.54, p<.001, η2p=.073),PCよりもスマートフォンの方が広告掲出あたりの購入数が多くなっていた。

研究4では,研究1から研究3において得られた知見の実務への応用可能性を検討するため,漫画アプリのバナー広告を対象とした実際の購買データを用いて検証を行った。その結果,PCよりもスマートフォンの方が,心理的距離が近い広告に対する購入数が多くなっており,本研究が提示した命題と一致した結果が得られた。

購入数において結果が確認されたため,追加的な分析として「広告掲出あたりのクリック数(CTR)」を対象とした分析を行った。その結果,デバイスと登場人物の交互作用効果は確認されなかった8)。購入数とクリック数との間で結果に違いが生まれていた点は,今後の課題として検討していくことが必要だろう。

VII. まとめと今後の課題

1. 本研究のまとめ

本研究では,デバイスの種類による消費者反応の違いに着目し,解釈レベル理論における心理的距離の影響を考慮しながら議論を進めてきた。スマートフォンを使用している参加者は,PCを使用している参加者に比べ,対象への心理的距離を近いと知覚し(研究1),解釈レベルが低次になる(研究2)。また,研究3では,スマートフォンを使用している参加者が高次の解釈レベルに対応した広告よりも,低次の解釈レベルと対応した広告に好ましい評価を下していることを明らかにした。最後に研究4においては,実際の購買データを使用し,スマートフォンに広告を掲出する場合,心理的距離が遠い広告よりも,心理的距離が近い広告において購入数が多くなることを確認した。

2. 本研究の示唆

デバイス特性が消費者行動に与える影響は,マーケティング研究において注目が集まる研究対象の一つである。本研究では,異なるデバイスを使用することで,表示される対象への心理的距離に変化が生じるとともに,使用者の解釈レベルにも影響を与えることを確認した。さらに,使用者の解釈レベルの変化によって,特定の広告などに対し,評価に差が出ることも明らかになった。こうした知見は,デバイス研究に一定の示唆をもたらすものと考えられる。また,消費者行動研究において多数の援用がなされる解釈レベル理論について,デバイス特性との結びつきを取り上げた議論はそれほど多くない。消費者の使用するデバイスが解釈レベルに影響を与えることを明らかにした本研究の結果は,解釈レベル理論研究にも示唆をもたらすと考えている。

また,実務的貢献として,デバイスの特性が広告への評価や行動に影響することが示唆された。デバイスと広告写真の抽象性を取り上げた研究3の結果は,スマートフォン使用者に対しては,カラー写真を用いた具体性の高い広告が高く評価されるのに対し,PC使用者には白黒写真を用いた抽象性の高い広告が有効である可能性を示している。そして,研究4の結果は,デバイス・タイプと実際の広告クリエイティブの対応が購買に与える影響が示されており,デバイス特性に合わせた広告クリエイティブを投入することで,より高い成果の獲得が期待できる。

さらに,本研究の成果として,これまで経験的に対応していたデバイス別の広告クリエティブ制作の現場に,新たな理論軸を導入できる可能性を示している。広告クリエイティブ制作の現場において理論を活用することにより,仮説検証型で最適なクリエイティブを制作する体制に貢献できると考えている。

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究では,デバイス特性と消費者反応について,提示した命題を概ね支持する結果が得られた。一方で,本研究には課題も多く残されている。1つ目は,調査手法の限界である。研究1から研究3は,インターネットを利用した実験を行った。参加者は日常的に使用しているデバイスを用いて回答を行っているため,自身のデバイスに対する印象や使用経験が,デバイスに表示される対象への知覚や評価に影響した可能性がある。今後は,実験室などの統制環境下において,参加者の使用経験やITリテラシーなどの,その他影響要因を考慮した,より厳密な効果の測定が求められる。

2つ目は,デバイスが解釈レベルに影響する際の詳細なメカニズムの検討である。本研究では研究2において,デバイスの違いが解釈レベルに及ぼす影響を確認した。一方で先行研究においては,タッチの要素や,デバイス操作時の近接性など,より詳細な動作や特性が及ぼす影響が検討されており,これらのうち,どのような要因が解釈レベルに強く影響しているかは,今後の研究において確認していくことが必要である。

3つ目は,デバイスと心理的距離の関係性の検討である。研究3では,デバイスと広告の抽象性が一致した際に,より高い評価が得られたものの,研究2ではデバイスと社会的距離の一致において,交互作用効果が見られなかった。今後の研究では,時間的距離や経験的距離などの,解釈レベルが想定する心理的距離の下位分類と,デバイスとの対応を検討することで精緻な関係性の解明を行う必要があるだろう。

謝辞

本稿の研究4において,GMO NIKKO株式会社様,GMOプレイアド株式会社様より,データ提供などの様々な研究支援を賜った。また,研究1から研究4はJSPS科研費(19H01541)と一般社団法人成蹊会の助成を受けて進められた研究成果の一部である。さらに,本稿の掲載にあたり,レビュワーから建設的なコメントを頂いた。ここに記して感謝申し上げる。

1)  アテンションチェック項目の不正答者に加え,アンケート回答時間が30秒未満,20分以上のサンプル,全ての質問項目に同値であった参加者の回答はデータとしての信頼性が疑われると判断し,分析から除外した。最終的な349名のうち,スマートフォンを使用して回答した参加者は158名,PCを使用して回答した参加者は191名である。また,回答に用いたデバイスに対する習熟度や経験量が,デバイス・タイプの条件間で異なる場合(例えば,PC群において,PCに不慣れな参加者が多数存在していたなど),こうした違いが画像に対する知覚や判断に何らかの影響を及ぼす可能性がある。そこで,回答に用いたデバイスの1日における平均使用時間を6段階のリッカート法(「1:1時間未満」から「6:9時間以上」)で回答してもらった。分析の結果,デバイスのタイプ間において,デバイスの使用時間に統計的な有意差は見られなかった(Mスマートフォン=3.21, SDスマートフォン=1.095 vs. MPC=3.31, SDPC=1.198; t(349)=7.314, p=.416, d=-.087)。従って,回答デバイスの使用経験が本研究の結果に及ぼす影響は軽微であると判断した。

2)  3カ国の選定理由として,ブルネイとアルバニアは2018年における各国別の日本人訪問者数からアジア地域とヨーロッパ地域で訪問者数が一番少ない国であること(Japan National Tourism Organization, n.d.),ボツワナは日本人訪問者数の記載のないアフリカ地域から研究者間で議論のうえ,選定した(アフリカ地域において訪問者数が判明している国は,比較的知名度が高いと推察される国が記載されていた)ことによる。

3)  332名の回答者は,研究1の参加者とは異なるように工夫がなされている。また332名のうち,スマートフォン使用群は173名,PC使用群は159名となっている。

4)  参加者には「やさしい香りがするので,とても気に入っています。泡立てネットを使うことで,すぐに肌を覆る密の濃い泡が出来るので,扱いがとても簡単です。」という内容の口コミが提示された。また,口コミの信頼性を高めるために,提示された口コミの下部に「この口コミへの評価(100点満点):90点」という信頼性の評価点も添えられている。

5)  研究1に同じ。

6)  367名の回答者は,研究1と研究2の参加者とは異なるように工夫がなされている。また367名のうち,スマートフォン使用群は191名,PC使用群は176名となっている。

7)  研究1,2に同じ。

8)  「広告掲出あたりのクリック数」を従属変数とした分散分析の結果,デバイスの主効果(F(1, 150)=136.67, p<.001, η2p=.477),登場人物の主効果(F(1, 150)=4.89, p=.028, η2p=.032)は有意であったものの,デバイスと登場人物の交互作用効果は有意でなかった(F(1, 150)=2.49, p=.117, η2p=.016)。

須田 孝徳(すだ たかのり)

早稲田大学商学学術院助手。成蹊大学経済学部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。現在,同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。修士(商学)。専門は,消費者行動。

石井 裕明(いしい ひろあき)

青山学院大学経営学部准教授。早稲田大学商学部を卒業後,同大学大学院商学研究科修士課程および博士後期課程へ進学。博士(商学)。千葉商科大学サービス創造学部専任講師,准教授,成蹊大学経済学部准教授などを経て,2020年より現職。専門は消費者行動。

外川 拓(とがわ たく)

上智大学経済学部准教授。東海大学政治経済学部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科修士課程および博士後期課程へ進学。博士(商学)。千葉商科大学商経学部専任講師,准教授などを経て,2020年より現職。専門は消費者行動。

山岡 隆志(やまおか たかし)

名城大学経営学部教授。大手企業でマーケティング責任者を歴任。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了後,早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程に進学。名古屋商科大学商学部・大学院教授を経て,2021年より現職。博士(商学)。専門はマーケティング戦略。

References
 
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