本号で取り上げた文化は,マーケティングという学問と切っても切り離せない概念である。文化それ自体を対象とする研究は少ないが,消費者の行動を規定する先行要因や,様々な因果関係の調整変数として多くの研究で使われている。また,文化的なコンテンツという意味では,食文化やポップカルチャー,スポーツといったサービスがマーケティング研究の対象として議論されている。実務的にも,こうした文化的コンテンツの輸出は,いわゆるクールジャパン政策に代表されるように,官民を挙げた重要課題となっている。和食・日本食やマンガ・アニメといった一部の成功事例を除けば,まだまだ日本のコンテンツの輸出は道半ばである。
筆者は東南アジアを中心に日本企業の海外進出を調査しているが,いまだに多くの企業が宗教や価値観,労働観といった文化的な要素に課題を抱えている。マーケティング活動にとどまらない経営全体の課題として,本特集が文化の諸側面への理解を深めるきっかけとなれば幸いである。