マーケティングジャーナル
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書評
長尾雅信・山崎義広・八木敏昭(2022).『地域プラットフォームの論理 ― プレイス・ブランディングに向けて ―』有斐閣
小林 哲
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2024 年 44 巻 1 号 p. 96-98

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I. 地域ブランド研究における位置づけ

地域ブランド研究は,地域空間ブランディングと地域産品ブランディングの大きく2つにタイプ分けされる(Kobayashi, 2016)。このうち,前者の地域空間ブランディングは,プレイス・ブランディングと呼ばれ,海外の地域ブランド研究の主流を占めているが,日本の地域ブランド研究は,後者の地域産品ブランディングの研究が主流を占めており,日本の地域ブランド研究の特徴のひとつとなっている。

こうした状況の中で,日本において,当初からプレイス・ブランディングに焦点をあて研究を行っているのが「電通abic(area brand incubation core)プロジェクト」である。電通abicプロジェクトは,「産品」発想の地域ブランド論ではなく,「地域そのもの」のトータルブランディングを目指す産学協同プロジェクトであり,その最初の著書『地域ブランドマネジメント』(Wada et al, 2009)は,プレイス・ブランディングを日本において初めて体系的に議論した学術書として,今でも輝きを放っている。

さて,前置きが少し長くなったが,今回,紹介する著書の筆者である長尾雅信氏は,上述した電通abicプロジェクトの初期メンバーのひとりであり,本書は,2009年の『地域ブランドマネジメント』から脈々と続く,当該プロジェクトのプレイス・ブランディング研究のひとつに位置づけられる。と言うのも,本書の問題意識は,電通abicプロジェクトの過去の議論の中で醸成されたものだからである。

II. 本書の目的

本書の問題意識は,電通abicプロジェクトが2018年に出版した『プレイス・ブランディング』(Wakabayashi et al., 2018)にある。

『プレイス・ブランディング』は,ブランド付与対象となる「空間(space)」を「場所(place)」として捉え,人文地理学の知見に基づき,場所(place)を「人間の具体的な関わりを通じて,周囲の空間や環境から分節された,個人や特定の人間集団にとって特別な意味を帯びた空間」(The Human Geographical Society of Japan, 2013, p. 106)と定義している。そして,プレイス・ブランディングを,「“分節された意味の空間”であるプレイスが,多様な人々の中に,高い密度で共有化されていくこと」(Wakabayashi et al., 2018, p. 49)としている。すなわち,意味空間の共有化こそがプレイス・ブランディングの中核であり,そのためには当該地域にかかわる多様なアクターが交じり合う「交わりの舞台」が必要だと主張する。

しかし,長尾らは,『プレイス・ブランディング』において,交わりの舞台の様相を記述することに成功したものの,それが自走する仕組みについて十分な議論がなされていないと指摘する。そこで,長尾らは,地域プラットフォームを「多様なアクターの協働によるプレイス・ブランディングの実行・実現のための包括的なシステム」(p. 164)とし,プレイス・ブランディングの交わりの舞台が自走する仕組みを,経営学のプラットフォーム概念を援用して解き明かそうとする。

III. 地域間ブランディング(IRPB)への注目

ここで興味深いのは,プレイス・ブランディングにおける地域プラットフォームの役割を明確にするため,地域間ブランディング(IRPB: Inter-Regional Place Branding)に注目した点である。と言うのも,地域間ブランディングとは,複数の地域を連携してブランディングするものであり,地域間であるが故に,そこには,プレイスを形成する交わりの舞台が存在せず,地域間ブランディングを追うことで,プレイスを形成する交わりの舞台が生成する過程を観察できるからである。

そして,長尾らは,経営学におけるプラットフォーム関連研究をレビューし,地域プラットフォームを考察するための理論枠組みとして,Gray(1989)を端緒とするコラボレーション理論に着目する。Gray(1989)は,コラボレーションを「問題となるドメインの将来について,当該ドメインの主要利害関係者間において共同の意思決定を行うプロセス」(Ohashi, 2009, p. 73)と定義し,コラボレーションを「課題設定」「方向設定」「実行(構造化)」の3つの段階を有するダイナミックなプロセスとみなしている。以上の観点から,長尾らは,地域プラットフォームをライフサイクルとして捉え,コラボレーションの質的相違とともに,通時的変化も視野に入れて分析を試みる。

IV. 本書の概要

上述した観点から,本書の構成を見ると,地域プラットフォームに関する考察は,大きく2つに分けることができる。ひとつは,地域プラットフォームにおけるコラボレーションの質的相違に注目した第3章から第5章までで,もうひとつは,地域プラットフォームのライフサイクルに注目した第6章と第7章である。

前半の地域プラットフォームにおけるコラボレーションの質的相違に関しては,まず第3章で,中山間地域の新潟・小千谷における取り組みを事例として,ソーシャル・キャピタルが,地域内の人々と地域外の人々の交わりをどのように形成するか考察している。次に,第4章では,新潟県三条市と福島県只見町の地域間ブランディング(IRPB)を事例に,ひとりのアクターが起点となり,地域間の交わりの舞台が形成される様を描いている。そして,第5章では,高知県土佐れいほく地域で活動しているNPO法人SOWAを事例に,コワーキング&コスタディ・スペース「あこ」が,交わりの舞台として果たす役割を考察している。

一方,後半の地域プラットフォームのライフサイクルに関しては,第6章で,岩手県の産官学連携体「岩手ネットワークシステム」を事例に,Williams et al.(2016)の言うコラボレーションのライフサイクル,すなわち「課題認識」から「価値創出」,そして「転換点」から「衰退」に向かう過程を描いている。また,第7章では,「行動を実現するための指示であり,脳(あるいはその他の物体)にたくわえられ,模倣により伝えわたされる」ミーム概念(Blackmore, 1999, p. 51)を用いて,「岩手ネットワークシステム」の影響を受けた「東北ライフサイエンス・インストルメンツ・クラスター」「関西ネットワークシステム」「土佐まるごと社中」を事例に,地域プラットフォームが他の地域にどのように伝搬するか議論している。

V. 地域プラットフォーム概念の有用性

あらためて,プレイス・ブランディングの主体であるアクターは,多様であり,個々独立した存在である。しかし,そのままではプレイス・ブランディングが機能しない。アクター同士が交わり,コラボレーションして,はじめてプレイス・ブランディングが実現する。ここに,長尾らが考える地域プラットフォームの役割がある。

また,アクター同士の交わりやコラボレーションをもたらす地域プラットフォームも,ソーシャル・キャピタルだったり,個人だったり,特定の機能を有する施設だったりと多様である。

そして,アクター間の交わりやコラボレーションが他のアクター間のそれに影響を及ぼすが故に,地域プラットフォームは,成長(増殖)し,変化し,衰退するというダイナミズム(ライフサイクル)を有する。さらに,そのダイナミズムは,特定の地域にとどまらず,ミームとなり他の地域へと伝播する。

さて,長尾らが考察してきたアクター間の交わりやコラボレーションは,どのようにプレイス・ブランディングに変換されるのだろうか。と言うのも,プレイス・ブランディングを行うには,地域プラットフォームにおいて,アクターが単に交わったり,コラボレーションするだけでなく,その過程で「センス・オブ・プレイス(場所に対してどのような意味づけを行うか,およびその起点となる“場所に対する感覚”)」を共有しなければならないからである(Wakabayashi et al., 2018, p. 51)。

この点に関し,長尾らは,Berque(1986/1992)が風土を読み解く際に提唱した「通態化(trajection)」という概念を用いて,その共有過程を説明する。すなわち,通態化とは,自然的かつ文化的であり,集団的かつ個人的であり,主観的かつ客観的である風土が秩序化/再秩序化する営みであり,Berqueが考察した風土と同様,センス・オブ・プレイスも,地域プラットフォームすなわちアクター間の交わりやコラボレーションが成長・変化していく過程で通態化し共有されていく。

以上,本書が,プレイス・ブランディングの中核概念である「交わりの舞台」を「地域プラットフォーム」として精緻化し,その多様性およびダイナミズムを描くとともに,地域プラットフォームが,地域活動(アクター間の交わりやコラボレーション)とプレイス・ブランディング(センス・オブ・プレイスの共有)を紐帯する役割を担っていることを明らかにした点において,高く評価できると言えよう。

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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