2025 Volume 45 Issue 1 Pages 32-43
環境問題の多くは社会的ジレンマの構造を持つ。本研究では,コミュニケーションの効果に着目し,オンライン上でのテキストによるコミュニケーションでも社会的ジレンマでの協力率を高める効果があるかを検討する。そのために本研究では,社会的ジレンマの構造を持つ,環境問題をシミュレートしたオンラインゲームを開発した。ゲームでは,3名が1グループとなり,排出されるごみのうち何kgを資源ごみとして処理するか(協力行動)を決定する。実験の結果,チャットを行った群ではチャット後に協力率が高まっており,コミュニケーションの効果が示された。また,チャット内で全員がすべてのごみを資源ごみとして処理することに合意したグループは,それ以外のグループよりも協力率が高まっていた。これらの結果より,オンラインでのチャットによるコミュニケーションでも,社会的ジレンマ状況での協力行動を促進する効果があることが示された。
Most environmental problems face social dilemmas. Focusing on the effects of communication, this study examined whether or not online text-based communication affects the cooperation rate in social dilemmas. For this purpose, we developed an online game that simulates environmental problems using a social dilemma structure. In the game, a participant decides how much recyclable waste they dispose of (cooperative behavior) out of the waste generated in a group of three members. The results of the experiment showed that the rate of cooperation was higher after having chatted with other members, indicating the effectiveness of communication. The groups in which all members agreed to cooperate with the entire amount had a higher cooperation rate than the other groups. These results show that online chat communication can promote cooperation in social dilemmas.
近年,気候変動などの環境問題は社会全体にとって大きな問題となっている。国連が提唱する目標であるSDGsにおいても,目標の1つとして「気候変動に具体的な対策を(目標13)」が挙げられている(IDCJ, 2018)。2015年に締結されたパリ協定においては,世界各国が世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保ち,1.5°Cに抑えるよう努力することが定められた。大幅なCO2排出量削減を実現するためには,これまでの方式の継続では実現不可能であるため,社会全体の変革,われわれのライフスタイル自体の変更が必要であり,そのためには個人の行動変容も重要な鍵となる。
環境問題の多くは社会的ジレンマの構造を持つことが指摘されている(Hirose, 2008)。社会的ジレンマとは,個人にとっては非協力を選択した方が得になるが,集団全体では非協力行動を取る個人が多いと全体としての不利益となる状況を指す。製品の大量消費や,空調により快適な温度を保つこと,マイカー利用など,多くの人が個人にとってより利便性の高い生活を追求した結果,CO2増加による気候変動やごみの増加,大気汚染などの問題が社会全体で生じることになる。
1. 社会的ジレンマにおけるコミュニケーションの効果社会的ジレンマを解決するための介入方法に関する実験では,罰・報酬を与えるという方法が多く検討されている(Wakamatsu, 2023)。現実社会においては,例えばごみを分別せず出す人に罰金を課す,省エネを実行する人に商品と交換可能なポイントを与えるなどの方法がある。しかし,罰を与えるためには,誰が非協力行動を取っているかを常に監視することが必要となり,監視のコストが増加する(Ohnuma, 2012)。報酬を与えるためにも,やはりコストが必要となること,報酬があると協力への内発的動機付けが低下することが指摘されている(Deci, 1975; Lepper & Greene, 1978)。
一方,社会的ジレンマの構造を変えないアプローチとして,コミュニケーションの有効性が多くの研究によって指摘されている(Balliet, 2010; Dawes et al., 1990; Ohnuma, 2008; Orbell et al., 1988; Wakamatsu, 2023)。Balliet(2010)では45の社会的ジレンマの研究のメタ分析を行い,コミュニケーションの大きな正の効果を確認した。Wakamatsu(2023)は社会的ジレンマ実験における罰金,奨励金,コミュニケーションの効果をCooperation Databank上のデータを用いて比較したところ,罰金,奨励金,コミュニケーションのいずれにおいてもベースラインと比較して介入の効果が有意であった。
社会的ジレンマにおいてコミュニケーションが効果を持つ理由について,Ohnuma(2012)は話し合いによって「みんなも協力するだろう」という協力への期待が形成されることを指摘している。話し合うことによって情報や規範の共有化を通じて全体の便益に目が向くという効果が考えられる(Dawes et al., 1990)。Kerr and Kaufman-Gilliland(1994)は話し合いの効果として,集団アイデンティティを高める,協力へのコミットメントの2つがあることを指摘している。社会的アイデンティティ理論(Tajfel & Turner, 1979)からは,集団へのアイデンティティが高まると,集団の利得も個人の利得の一部として認知されるため,集団への協力行動が促進されることが予測できる。Orbell et al.(1988)も集団での話し合いの効果として,協力への約束が重要であり,特に全員が協力の約束をした場合に協力率の増加が見られたことを報告している。
本研究においてはコミュニケーションにより帰属意識が高まり,それが協力行動を促進するのかを検討する。またKerr and Kaufman-Gilliland(1994)やOrbell et al.(1988)で指摘されている約束の効果について,本研究でもチャットの内容を分析し,協力への合意が協力率に影響を及ぼすかを検討する。
2. オンライン上のコミュニケーションの効果オンライン上のチャットを用いて社会的ジレンマ事態におけるコミュニケーションの効果を検討した先行研究は数多くはないが,いくつか存在する。Bos et al.(2001)の実験では社会的ジレンマゲームにおいてビデオコミュニケーション,オーディオコミュニケーション,テキストチャットのいずれかを行ったところ,ビデオコミュニケーションでは対面とほぼ同じレベルの協力率を達成したのに対し,テキストチャットでは協力率は低いままであった。Bicchieri and Lev-On(2007)は社会的ジレンマにおけるオンラインでのコミュニケーションの効果のレビューを行い,コミュニケーションの効果は,その情報の「豊かさ」によって異なると論じている。映像や音声など対面に近い情報があるほどコミュニケーションはより効果的であり,テキストのみのコミュニケーションの場合には協力を達成するにはより時間がかかり,維持するのが困難となる。Balliet(2010),Wakamatsu(2023)においてもテキストベースでのコミュニケーションは,対面のコミュニケーションと比べて社会的ジレンマゲームにおける協力率を高める効果が弱いことが指摘されている。
これらの先行研究では,一貫してオンラインでのチャットにおけるコミュニケーションは対面のコミュニケーションよりも効果が弱いことが報告されている。しかし,現実場面に応用する場合には,多くの人を一カ所に集めて集団討論を行うことは実施上の困難を伴うため,オンラインでのチャットによる議論の方が実施しやすいと考えられる。また,これらの先行研究では環境問題と関連づけたゲームは行われていない。
3. オンラインごみ処理ジレンマゲームの開発本研究では,環境問題をシミュレートした社会的ジレンマゲームを新たに作成し,そこでのコミュニケーションの効果を検討する。より汎用性を高めるためジレンマゲームはオンライン上で行うことができるようにデザインし,コミュニケーションはオンライン上のチャットを用いて行う。ゲーミング・シミュレーションとは,現実を模した一定のルールのあるゲームを用いて人々に行動の選択を行わせることで,社会問題の構造を検討したり,教育に用いたりすることができる手法である。
環境問題をシミュレートした既存のゲームには,廃棄物処理ゲーム(Hirose et al., 2004; Ohnuma, 1997; Sugiura & Hirose, 1998),産業廃棄物不法投棄ゲーム(Ohnuma & Kitakaji, 2007),仮想世界ゲーム(Hirose, 1997, 2011)などがある。しかしこれらのゲームではオンラインでの実施に対応していない,プレイヤー間の利得構造が共通でない複雑な事象を扱っている,短時間で実施することが困難であるなど本研究の目的と合致しない点があるため,本研究では社会的ジレンマ構造をシンプルに表現する公共財ゲームをベースに,オンライン上で実施することができるオンラインごみ処理ジレンマゲームを開発した。本ゲームのプログラムはoTree(Chen et al., 2016)を用いて作成した。
(1) ゲームのデザイン参加者は3名で1グループとなり,工場の社長としてゲームに参加する。1ラウンド1年とし,全部で10年間工場を運営する。工場からは毎年廃棄物が20 kg発生し,参加者は,その廃棄物のうち何kgを資源ごみとして処理するかを0–20 kgの範囲で決定する(図1)。可燃ごみとして処理する場合には費用がかからないが,資源ごみとして処理する場合には1 kgあたり1ポイントが必要となる。資源ごみとしての処理が可能となるよう毎年ベースポイントとして20ポイントが各プレイヤーに分配された。資源ごみとして処理された分は町が資源をリサイクルして売却するという設定で,資源ごみとして処理された分のポイントを2倍にして次のラウンドで各プレイヤーに分配する。各プレイヤーにとっては,自分が資源ごみとして処理する分をできるだけ少なくした方が個人の利益は大きいが,全員が全量を資源ごみとして処理した場合に最も全体の利益が最大になるという社会的ジレンマの構造となっている。各プレイヤーは画面で資源ごみとして処理された量の推移を確認することができた。

資源ごみとしての処理を決定する画面
チャット群では,5ラウンド終了後にチャット画面が表示された(図2)。画面のチャット欄にテキストを入力すると他のメンバーにも表示される。

チャット画面
本研究で用いるオンラインごみ処理ジレンマゲームではコミュニケーションはコンピュータ上のチャットによって行われるため,お互いに誰が参加しているかわからない完全に匿名な状態を作ることが可能となる。またチャットの内容はすべて記録されるため,実験後にチャットの分析を行うことが可能となる。
4. 本研究の目的本研究においては,環境問題をシミュレートしたオンライン上の社会的ジレンマのゲームにより,コミュニケーションが社会的ジレンマでの協力行動に及ぼす効果を検討する。
コミュニケーションが協力行動を促進する要因として,本研究では集団への帰属意識と,約束の効果について検討する。帰属意識については,チャット後にそれぞれの集団への帰属意識を測定し,帰属意識と協力率の関連を分析する。約束の効果については,チャットの内容を分析し,グループ内での合意形成があるグループとないグループでの協力行動を比較する。
実験1においては,大学生を対象とし,オンラインごみ処理ジレンマゲームを用いてオンライン上のコミュニケーションが協力行動に及ぼす影響を検討する。
2. 方法実験は2023年9月に大学の授業において行った。4つの授業のうち,2つの授業の参加者をチャット群,残り2つの授業を統制群とした。実験参加者は計84名であった1)。3人グループ,全員が最後まで参加,全員が一度もタイムアウトしていないサンプルのみを有効回答とし,72名を分析対象とした(チャット群 14グループ 42名,統制群 10グループ 30名)。
チャット群においては5ラウンド後にチャットの画面を表示した。チャットの時間は5分間であった。5ラウンド後(チャット群はチャット終了後),10ラウンド後にアンケートを実施した。統制群では,5ラウンド終了後すぐ,10ラウンド後にアンケート画面が表示された。
(1) 帰属意識帰属意識は,Ando(1999)の尺度を基に,集団カテゴリーに対する帰属意識と,集団メンバーに対する帰属意識をそれぞれ3項目ずつで測定した2)。集団カテゴリーへの帰属意識は「このグループに強い結びつきを感じる」などの3項目により測定した。集団メンバーへの帰属意識は「このグループのメンバーに親しみを感じる」などの3項目により尋ねた。すべての項目は5件法で回答を求めた(1 まったくそう思わない~5 非常にそう思う)。これらの6項目について最尤法を用いた因子分析を行ったところ,第1因子の寄与率が68.6%であり,1因子解が最適であったため,全6項目の単純加算平均を帰属意識の尺度し,以降の分析に用いる(α=.91)。
3. 結果 (1) 条件による協力率ラウンドごとの協力率の推移を図3に示す。チャット直後の6ラウンドから,チャット条件において協力率が高くなっていた。

ラウンドごとの協力率
注)エラーバーは標準誤差を示す。
チャット前の1から5ラウンドを前半,チャット後の6から10ラウンドを後半として条件ごとの前半と後半の協力率の平均値を2要因分散分析により比較した(図4)。その結果,時期の主効果[F(1, 70)=29.81, p<.001],交互作用[F(1, 70)=7.24, p<.01]が有意であり,条件の主効果は有意ではなかった。単純主効果の検定の結果,チャット群のみ時期の効果が有意で[F(1, 70)=39.87, p<.001],後半で有意に協力率が前半よりも高くなっていることが示された。

時期,条件による協力率
帰属意識についても同様に,時期と条件による2要因分散分析を行った(図5)。その結果,時期の主効果[F(1, 70)=17.63, p<.001],条件の主効果[F(1, 70)=11.20, p<.001] が有意であり,交互作用は有意ではなかった。1回目の質問項目の回答はチャットの直後に行っているため,チャット後の帰属意識はチャット条件の方が高く,それがゲーム終了まで維持されていることが示された。

時期,条件による帰属意識
5ラウンド直後の帰属意識と後半の協力率の相関は有意であった(r=.33, p<.01)。前半と後半の協力率の差を従属変数とし,5ラウンド後の帰属意識を共変量とした共分散分析を行ったところ,条件の効果は有意であり[F(1,69)=4.84, p<.05],共変量である帰属意識の効果は有意ではなかった。
(3) チャット内での合意形成の効果チャットの内容を分析し,全員20ポイントすべてを資源ごみとして処理することに合意した完全合意群,資源ごみの量を増やすことに合意はしたが20ポイントすべてではない場合は部分的合意群,資源ごみとしての処理に合意がない群に分類した。完全合意群は5グループ15人,部分的合意群は1グループ3人,合意なし群は8グループ24人であった。
合意の効果を検討するため,完全合意群と合意なし群の前半と後半での協力率の差を比較した。部分的合意群は1グループのみのため,分析から除外した。前半と後半の協力率の差を従属変数とし,合意の有無を独立変数とした一要因分散分析を行ったところ,合意の有無による協力率の差は有意であった[F(1, 37)=14.37, p<.001](図6)。全量を資源ごみとして処理することへの合意が,協力率を高めるために効果があることが示された。

合意の有無による前半と後半の協力率の差
注)エラーバーは標準誤差を示す。
チャット後では協力率が有意に高くなっていたことから,オンラインでコミュニケーションを取る機会を設けることが,社会的ジレンマ事態における協力行動を促進する効果があることが確認された。またチャット群の方が統制群よりも帰属意識が高くなっていたことから,コミュニケーションを取ることにより,帰属意識が高まる効果があることが示された。
実験1の課題としては,チャット群,統制群の割付が授業単位であったために,完全にランダムではないという問題がある。また,大学の授業であるため報酬がなかったこと,チャット時間が5分であり,議論が途中になっているグループがあったため,これらの点を改善して実験2を実施する。
実験2では,クラウドソーシングを用いて,一般の市民を対象としてごみ処理ゲームを実施する。ゲームのルールは実験1と同様である。クラウドソーシングによって集まった互いに面識がなく,属性が完全に不明な集団であっても,オンライン上のチャットによるコミュニケーションが協力行動に影響を及ぼすのかを検討する。また,チャット内でのコミュニケーションの内容,及びどのようなコミュニケーションが協力行動に結びつきやすいかを検討する。
2. 方法 (1) 実験参加者Yahoo!クラウドソーシングを用いて参加者を募集した。実験参加者は199名,うち途中離脱者を含むグループ等をのぞき3),174名が分析対象となった(男性125名,女性48名,性別未回答1名,平均年齢47.8歳)。参加者はチャット群か統制群にランダムに割り振られた。実験参加者のうち,チャット群は119名(有効回答102名34グループ),統制群は80名(72名24グループ)であった4)。
実験参加者の属性は,未婚者が59.8%,学歴は大学卒業以上が59.6%であった。雇用形態はフルタイム就業者が44.8%と最も多く,専業主婦/主夫・無職等が19.5%,自営業者が15.5%,パートタイム・アルバイトが8.6%,学生・その他が11.4%であった。世帯年収は400万円未満が39.1%,400万円以上600万円未満が26.8%,600万円以上が34.1%であった5)。
(2) 手続き実験は2024年1月に実施した。ゲームの内容,ルールは実験1と同様であった。変更点は,チャット群,統制群の割付を完全にランダムにした点,チャットの時間を8分とした点,謝礼をゲームで得たポイントに応じて支払うとした点である6)。
実験1と同様に全10ラウンドのうち,5ラウンド終了後にチャット群ではチャットの画面が呈示され,チャットでのコミュニケーションを行った。チャット終了後に中間アンケートを行った。統制群では,5ラウンド後に中間アンケート回答画面が表示された。両群とも再度10ラウンド後にアンケートに回答してもらった。
(3) 帰属意識の尺度帰属意識の測定は実験1と同様の質問項目を用いた。6項目すべての項目を投入し最尤法を用いた因子分析を行った。その結果,実験1と同様に1つの因子となったため(寄与率87.6%),全6項目の単純加算平均を帰属意識の尺度として以降の分析に用いた(α=.97)。
3. 結果 (1) 条件による協力率ラウンドごとの協力率の推移を図7に示す。チャット直後の6ラウンドから,チャット条件において協力率が高くなっていた。

ラウンドごとの協力率
注)エラーバーは標準誤差を示す。
チャット前の1から5ラウンドを前半,チャット後の6から10ラウンドを後半として条件ごとの前半と後半の協力率の平均値を2要因分散分析により比較した(図8)。その結果,時期の主効果[F(1, 172)=4.60, p<.05],交互作用[F(1, 172)=14.48, p<.001]が有意であり,条件の主効果は有意ではなかった。単純主効果の検定の結果,チャット群のみ時期の効果が有意で[F(1, 172)=21.39, p<.001],後半で有意に協力率が前半よりも高くなっていることが示された。

時期,条件による協力率
帰属意識についても同様に,時期と条件による2要因分散分析を行った(図9)。その結果,条件の主効果のみが有意であった[F(1, 172)=10.12, p<.01]。1回目の質問項目の回答はチャットの直後に行っているため,チャット後の帰属意識はチャット条件の方が高く,それがゲーム終了まで維持されていることが示された。

時期,条件による帰属意識
5ラウンド直後の帰属意識と後半の協力率の相関は有意であった(r=.38, p<.001)。帰属意識が協力率に与える影響を検討するため,前半と後半の協力率の差を従属変数とし,条件を独立変数,前半の帰属意識を共変量とした共分散分析を行った。条件の効果は有意であり[F(1,69)=9.80, p<.01],共変量である帰属意識の効果も有意であった[F(1,69)=5.50, p<.05]。
(3) チャット内での合意形成の効果実験1と同様に,チャットの内容を,メンバー全員が20ポイントすべてを資源ごみとして処理することに合意した完全合意群,資源ごみの量を増やすことに合意はしたが20ポイントすべてという言及がない場合,またはメンバー全員の合意でない場合は部分的合意群,資源ごみとしての処理増加に合意がない群に分類した。完全合意群は9グループ27人,部分的合意群は16グループ48人,合意なし群は9グループ27人であった。
合意の効果を検討するため,前半と後半での協力率の差を従属変数とし,合意の有無を独立変数とした一要因分散分析を行った(図10)。その結果,合意の有無の主効果が有意であった[F(2,99)=4.78, p<.05]。多重比較の結果,完全合意群と部分的合意群,合意なし群の間に差が見られた。部分的合意群と合意なし群の間の有意差は見られなかった。全員が資源ごみとしての処理に合意することが,協力率を高めるために効果があることが示された。

合意の有無による前半と後半の協力率の差
注)エラーバーは標準誤差を示す。
チャットの内容について,合意の有無以外にも,探索的に分類を行った。その結果,10のカテゴリーに分類された。それぞれに分類されたチャットを行っているグループの数を括弧内に示す7)。ゲーム内での選択に関するチャットは7カテゴリーに分類され,それぞれ「ゲームの構造説明(6)」「資源ごみ処理量増加の提案(23)」「提案への合意(全量)(9)」「提案への合意(部分的)(16)」「他者の行動確認(7)」「前半での行動報告(5)」「今後の行動宣言(10)」に分類された(表1)。直接ゲーム内での選択に関連しないチャットでは「環境問題への言及(8)」「チャット時間(チャット時間が長い等)(6)」「配分が難しい(3)」の3カテゴリーが見られた。

ゲーム内の選択に関するカテゴリーのチャット内容の例
次に,ゲーム内での選択に関するチャットについて,それぞれのカテゴリーのチャットの有無によって前半と後半の協力率に差が見られるかを検討するため,t検定を行った。表2にその結果を示す。t検定の結果,有意な差が見られたのは「提案への合意(全量)」と「今後の行動宣言」であった。提案への合意であっても部分的な場合には,協力率の増加は見られなかった。一方,行動の宣言だけであっても効果が見られることが示された。

それぞれのカテゴリーのチャットの有無による前半と後半の協力率の差
注)* p<.05
実験2においても,チャット群ではチャット後に協力率が上昇しており,チャットの効果があることが示された。同じグループのメンバーについてまったく情報がないオンラインでの社会的ジレンマ事態においても,コミュニケーションの効果があることが示された。
帰属意識の効果については,チャット群の方が帰属意識が高くなっており,チャットにより帰属意識が高まったと考えられる。共分散分析の結果より,帰属意識は前半と後半の協力率の差を説明することが示された。
チャット内での合意の効果について,全員が全量を資源ごみとして処理することに合意することが,協力率を高めるために効果があることが示された。また,提案がなくても,「自分は協力する」という宣言だけでも効果が見られた。ただし,行動宣言は,提案への合意の後に行われる場合が多く,この2つのカテゴリーは重複が多く見られた。
環境問題の多くは社会的ジレンマの構造を有している。本研究では,環境問題を模したオンラインでの社会的ジレンマゲームにおいて,コミュニケーションの効果を検討した。大学生を対象とした実験1,クラウドソーシングにより一般市民を対象とした実験2の両方において,チャット群ではチャット後の後半のセッションにおいて有意に協力率の増加が認められた。オンライン上で他者とコミュニケーションを取る機会を持つことが,メンバーが誰かわからない完全に匿名の条件においても社会的ジレンマ事態での協力率を高めるために効果的であることが確認された。先行研究では,オンラインでのテキストベースでのコミュニケーションは対面でのコミュニケーションに比べて効果が弱いことが指摘されているが(Balliet, 2010; Bicchieri & Lev-On, 2007; Bos et al., 2001; Wakamatsu, 2023),本研究では1回のみのオンライン上でのテキストベースでのチャットであっても,一定の効果があることが示された。
コミュニケーションにより帰属意識が高まり,それによりゲーム内での協力行動が促進されるという仮説について,まず帰属意識の変化については,チャット群の方が集団への帰属意識が高く,それがゲーム終盤まで維持されることが示された。特に実験2においては完全に匿名で,性別や年齢などの属性もわからないメンバーと同じ集団であったが,コミュニケーションにより集団に対する帰属意識が高まることが示された。本研究においては集団カテゴリーへの帰属意識とメンバーへの帰属意識を分離することができなかったが,メンバーの情報がないために,カテゴリーへの帰属意識との分離が困難であったとも考えられる。
帰属意識と協力行動の関連について,帰属意識と協力行動の間には実験1,2とも有意な相関が見られ,帰属意識と協力行動に関連があることが示された。共分散分析においては,帰属意識の効果は実験2では有意であったが実験1では有意ではなく異なる結果であった。実験1においては,協力率の増加は帰属意識を介さず条件による差で説明できることになる。Orbell et al.(1988)は,集団の帰属意識そのものの協力行動への効果が見られなくても,集団への帰属意識が高まることによって,協力の約束がされやすくなり,約束が守られやすくなるという,協力の約束を通じた間接的効果があることを指摘しており,実験1においても帰属意識が間接的に影響を及ぼしていた可能性がある。一般の市民を対象とした実験2においては,条件の効果を統制しても,帰属意識が協力行動に影響を及ぼしていた。
オンライン上でのどのようなコミュニケーションが協力率の増加と結びつくのかについて,チャットの内容を,全量を資源ごみとして処理することに合意が得られた完全合意群,全量ではないが合意が得られた部分的合意群,合意がない群に分類して協力率の差を検討したところ,全量を資源ごみとして処理することに合意が得られることが協力率の増加と結びつくことが示された。Kerr and Kaufman-Gilliland(1994),Orbell et al.(1988)は話し合いにより協力へのコミットメントが得られることが社会的ジレンマでの協力行動促進に結びつくことを報告しており,話し合いの機会があることによって,他者も協力するという期待が高まると考えられる。全員が協力の約束をした場合に協力率の増加が見られた点はOrbell et al.(1988)の結果と一貫している。協力の約束をしたのが全員でない場合,協力しないフリーライダーが存在する可能性が残るため,協力への意図が低下すると考えられる。
話し合いによってゲーム内のジレンマ構造の理解が進むという側面もあると予測される。協力率の増加の平均値は説明が行われた群の方が高かったが,分散が大きく,その差は有意ではなかった。
一方,「自分は協力する」という宣言だけでも効果が見られた。協力することを自ら宣言するメンバーがいることで,他者の協力への期待が高まり,自身の協力行動も増加したと考えられる。ただし,協力の宣言は,協力の合意の後で見られる場合が多いため,協力への合意の効果と完全に分離することは困難である。
チャットにおいては,最初からスムーズにコミュニケーションが行われるグループがある一方,チャット数が少なく,あまり議論が行われないグループも見られた。まったく見ず知らずで属性もわからない者同士でのコミュニケーションを円滑にするにはどうすればよいか,また全員での合意形成をどのように促進できるかについては今後さらに検討する必要がある。
本研究では実験1は大学生,実験2は一般市民を対象に実験を行ったが,どちらの実験でもチャットの効果に関する結果は類似しており,コミュニケーションの効果の頑健性が示された。環境問題をシミュレートしたオンライン上の社会的ジレンマゲームにおいても,コミュニケーションが協力行動に影響を及ぼすことを確認した。Kerr and Kaufman-Gilliland(1994)は話し合いの効果として,集団アイデンティティを高める,協力へのコミットメントの2つがあることを指摘しているが,本研究の結果からは,その双方の効果が認められた。
今後は現実の環境配慮行動においても,コミュニケーションの機会を設けることで協力行動が増加するのかを検討することが期待される。ごみ問題や排気ガス汚染など多くの環境問題ではその影響がコミュニティ全体に及ぶ場合が多く,利害関係者全体での話し合いを行うことは通常非常に困難である。しかし,オンラインツールを用いれば広範囲の人を対象としたコミュニケーションを実施できる可能性がある。
本研究の根拠データは,情報提供者と交わした契約により,非公開とする。
1)4つの授業の受講者合計は103名(男性52名,女性51名)であった。
2)Ando(1999)ではグループへの帰属意識は2項目であったが,本研究ではメンバーへの帰属意識に合わせて3項目とした。
3)実験1と同様に3人グループの全員が最後まで参加し,一度もタイムアウトしていないグループのメンバー,かつ中間,最終アンケートの両方に回答している者のみ分析対象とした
4)チャットの内容分析を行うため,チャット群の方が多くなるように設定した。
5)未回答を除いた回答についての割合を示す。
6)報酬は最大150 PayPayポイント,最小100 PayPayポイントであった。
7)1つのグループが複数のカテゴリーにまたがったチャットを行っている場合があるため,チャット数の合計はグループ数よりも多い。
安藤 香織(あんどう かおり)
奈良女子大学生活環境科学系教授。University of Kent修士課程,名古屋大学文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は社会心理学,環境社会心理学。環境配慮行動を促進する要因やその文化比較に関する研究を行う。
日室 聡仁(ひむろ あきひと)
近畿大学理工学部情報学科卒業。近畿大学大学院総合理工学研究科エレクトロニクス系工学専攻修士課程修了。2012年 NECシステムテクノロジー株式会社入社。現在,NECソリューションイノベータ株式会社にて行動変容や行動科学に関する研究を行う。
後藤 晶(ごとう あきら)
明治大学情報コミュニケーション学部専任准教授。明治大学情報コミュニケーション研究科修士課程,同博士後期課程修了。博士(情報コミュニケーション学)。山梨英和大学助教,多摩大学専任講師を経て現職。専門は行動経済学,実験社会科学,社会情報学。
笹鹿 祐司(ささか ゆうじ)
立命館大学理工学部情報学科卒業。立命館大学理工学研究科情報システム学専攻博士前期課程修了。2007年NECシステムテクノロジー株式会社入社。現在,NECソリューションイノベータ株式会社にて行動変容や行動科学に関する研究を行う。
江島 直也(えじま なおや)
近畿大学理工学部情報学科卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報学専攻修士課程修了。2019年NECソリューションイノベータ株式会社入社。
安原 彰子(やすはら あきこ)
同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程在学中。2024年度より日本学術振興会特別研究員(DC2)に採用。専門は感情心理学,社会心理学.人およびロボットの涙の対人的機能に関する研究を行う。