Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Featured Article / Invited Peer-reviewed Article
The Mechanism of B2B Brand Community Activation:
Formation of Self-Efficacy and Active Participation Behavior
Akiko NagahashiNaohiko Oikawa
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 45 Issue 3 Pages 227-236

Details
Abstract

ブランド・コミュニティでは,顧客間におけるブランドに関する情報交換や知識の共有,交流が行われている。近年,B2C(企業対消費者間取引)だけでなく,B2B(企業間取引)においてもコミュニティ形成が活発化している。本研究は,B2Bブランド企業が管理するコミュニティに焦点を当て,参加者の能動的な参加行動とブランド・ロイヤルティの関係を,社会的認知理論における自己効力感のフレームワークを用いて解明する。B2Bブランド・コミュニティ参加者を対象とした定量調査と共分散構造分析の結果,自己効力感が能動的参加行動に影響し,自己効力感は制御体験を通じて高まり,制御体験は代理体験と言語的説得によって促進されることが確認された。また,能動的参加行動は推奨意向や製品利用継続に正の影響を与えることが明らかとなった。さらに,コミュニティ・リーダーへの定性調査を通じて能動的参加行動に影響を与える自己効力感のフレームワークが裏付けられ,参加者が経験を繰り返しながら徐々に関与を深めリーダーとなるプロセスが明らかになった。

Translated Abstract

Brand communities enable customers to exchange brand-related information, share knowledge, and interact. While traditionally common in a B2C (Business-to-Consumer) context, B2B (Business-to-Business) brand communities have also grown in prominence. This study examines company-managed B2B brand communities, analyzing the relationship between active participation and brand loyalty through the lens of self-efficacy in social cognitive theory. A quantitative survey and covariance structure analysis revealed that self-efficacy drives active participation, which is strengthened through mastery experiences, facilitated by vicarious experiences and verbal persuasion. Active participation, in turn, has a positive impact on recommendation intentions and continued product usage. Qualitative insights from community leaders further validate this framework, highlighting how repeated experiences deepen member involvement.

I. 背景と本研究の目的

インターネットとソーシャルメディアの普及に伴い,ブランドと顧客間,顧客同士の相互作用が活発化している。相互作用の増加は顧客を獲得し,繋ぎ止めるビジネスチャンスを企業に提供する。相互作用を促進する一つの方法として注目されているのが「ブランド・コミュニティ」である。ブランド・コミュニティとは,「当該ブランドを好む人々の社会的関係から構成される地理的な制約を伴わない特殊なコミュニティ」(Muniz & O’Guinn, 2001)を指す。近年,B2C(企業対消費者取引)企業のみならず,B2B(企業間取引)企業においても見られる取り組みである。例えばAmazon Web ServicesやSalesforceのようなITセクターの企業が自社顧客を対象に運営するコミュニティでは,ユーザーによる勉強会の開催を通じて,顧客間における専門的な知識や事例などの情報共有が活発に行われている。

しかしこうした一部の成功例を除き,多くのブランド・コミュニティではメンバーの継続的な参加の維持に苦戦しているのが現状である。50%以上のオンラインコミュニティは休眠状態にあるとも言われる(Ludford et al., 2004)。原因の一つとして考えられるのが,ほとんどのメンバーの参加レベルは情報を読むだけの「浅い」状態にあり(Wu et al., 2015),頻繁に発言するメンバーは一部に留まる点である。Hato(2020)が行った日本のブランド・コミュニティのメンバーを対象とした研究によると,8割弱は「ROM」(Read Only Member)と呼ばれる,書き込みをせず読むだけのメンバーであることが明らかになっている。

こういった課題意識を踏まえ,本研究では近年増えつつあるB2B領域のブランド・コミュニティにおいて,コミュニティの活性化に不可欠なメンバーの行動,つまり発言や投稿などの「能動的行動」の先行要因を明らかにすることを目的とする。同時に,能動的行動とブランド・ロイヤルティの結びつきについても検証することで,企業がブランド・コミュニティに取り組むべき理由を議論する。

本稿の構成は次のとおりである。第2節では先行研究をレビューし,B2Bブランド・コミュニティ研究の位置付けを概括するとともに,自己効力感とその情報源,能動的行動,ブランド・ロイヤルティに着目し,仮説モデルを提示する。第3節では定量調査の概要と測定尺度について説明し,分析結果を議論する。第4節では,定量調査の結果を踏まえ実施した定性調査の概要を提示し,質的データの解釈により実証的知見を検証し,拡張する。最後に,本稿で得られた知見を整理し,本研究の貢献と今後の研究機会について論じる。

II. 先行研究と仮説

1. ブランド・コミュニティとB2Bブランド・コミュニティ

ブランド・コミュニティは,ブランドをコンテキストの中心に置いている点が単なる消費者の集まりとは異なるとされる(Muniz & O’Guinn, 2001)。Muniz and O’Guinn以降,B2C領域におけるブランド・コミュニティの研究の蓄積が進んだ一方で,B2B領域におけるブランド・コミュニティの研究は数が限られることが指摘されている(Andersen, 2005; Bruhn et al., 2014; Sethi et al., 2024)。B2Bブランド・コミュニティがB2Cと異なる最も大きな点は,参加者がプロフェッショナルであり,職業上の動機をもつ点である(Bruhn et al., 2014)。B2Bのコミュニティは,重要なビジネス・パートナー間で技術やブランドに関連する知識,アイデア,情報,経験,解決策を交換するためのプラットフォーム(Snow et al., 2011)であり,メンバー間の相互作用は,ブランドに関連するトピックやコンテンツにより促進される(Craig & Zimring, 2000)。B2Bブランド・コミュニティにおいては,特定の製品を利用するユーザーによる知識や解決策などのコンテンツの流通が重要な役割を占める。

2. 自己効力感

コミュニティで知識を共有するという行動において,自己効力感が先行要因として影響を及ぼすことは様々な研究で検証されている。自己効力感(self-efficacy)は,Bandura(1977)が社会的学習理論の中で最初に提唱し,その後社会的認知理論において発展させた中心的概念であり,「特定の成果を達成するために必要な行動を組織し,実行する自分の能力に対する信念」(Bandura, 1997)とされる。Kankanhalli et al.(2005)は企業の社内ナレッジ・マネジメント・システムを対象とした調査を行い,知識についての自己効力感が高いと従業員の貢献度合いが高まることを検証した。Hsu et al.(2007)Lin et al.(2009)は,プロフェッショナルを対象としたコミュニティにおいて,知識自己効力感が知識を共有する行動に直接の影響を与えることを確認した。Ray et al.(2014)は,知識自己効力感がコミュニティエンゲージメントに有意に作用し,その結果知識の貢献行動につながることを検証した。

自己効力感は,制御体験(過去の成功経験),代理体験(他者の成功を見ること),言語的説得(他者からの励ましや説得),生理学的状態(身体的・感情的状態)の4つの情報源を源泉として形成される。制御体験は自分自身の個人的経験に基づくので,最も信頼できる原因になる(Bandura, 1977)。制御体験の達成により自己強化が行われると,それが動機づけ機能によって制御体験を増大させる。一方,自分と似た他者が成功するのを見ることで自己効力感を高めるのが代理体験である。言語的説得,つまり他者からの励ましや肯定的なフィードバックは,個人が自分の能力を信じる助けとなる。Capa-Aydin et al.(2018)が化学の学習を対象に行った研究では,言語的説得は制御体験に有意な正の影響を与え,制御体験の媒介によって自己効力感を高めることが明らかにされた。代理体験と言語的説得はいずれも単独では効果が限定的であり,実際の制御体験と組み合わせることでより効果的に自己効力感が高まることが示唆されている(Bandura, 1997)。

自己効力感の情報源をブランド・コミュニティにおける参加者の行動に当てはめてみると,4つの情報源のうち,「制御体験」「代理体験」「言語的説得」の3つはいずれもコミュニティ内で経験することが可能な体験である(表1)。多くのメンバーは,コミュニティ内で他の参加者の発言や行動を観察することによる代理体験,または発言や発表などを促される言語的説得を経験していると考えられ,その結果自身が行動を遂行する制御体験を経験し,自己効力感が強化された結果,能動的行動を継続的に行っていると仮定できる。

表1

自己効力感の源泉となる体験

出典:Bandura(1977)をもとに筆者作成

以上の論点から,コミュニティにおける能動的参加行動の先行要因には自己効力感があり,自己効力感は制御体験によって育まれ,代理体験と言語的説得が制御体験につながると推定し,以下の仮説を設定する。なお,生理学的状態は主に脅威の場面における情報源となるため(Bandura, 1977),能動的行動に正の影響を与える情報源には該当しないと考え,今回は対象としない。

H1a 代理体験は制御体験に正の影響を及ぼす

H1b 言語的説得は制御体験に正の影響を及ぼす

H2 制御体験は自己効力感に正の影響を及ぼす

H3 自己効力感は能動的参加行動に正の影響を及ぼす

3. 能動的参加行動

コミュニティにおける参加行動は,一般的には能動的と受動的の二つに分けられる(Antonacci et al., 2017; Kamboj & Rahman, 2017)。コミュニティの参加レベルについての分類は「インタラクティブ/非インタラクティブ」(Burnett, 2000),「読者(reader)/リーダー(leader)」(Preece & Shneiderman, 2009),「ROM/RAM」(Morita, 2005)などさまざまであるが,本研究では「能動的行動」と「受動的行動」に分類し,前者を対象とする。B2Bブランド・コミュニティの新たな参加者は職業上の課題に関連した知識や情報,解決策を求めてコミュニティに参加するため,当初の参加は受動的であり,「浅い参加」とされる(Oestreicher-Singer & Zalmanson, 2013; Wu et al., 2015)。彼らは主にコミュニティに存在する既存の知識を検索・閲覧し,集まりに参加して知識や情報を得る。対して能動的な参加者は,メッセージを投稿する,他の参加者の質問に回答する,イベントや勉強会で司会や講師を務めるなどの「深い参加」を行う。最も関与度の高い(深い)参加者は「リーダー(leader)」(Preece & Shneiderman, 2009)として認識され,議論をリードしたり,ユーザーグループを主催するなどの形でリーダーシップを発揮し,他のメンバーに影響力を与える。

4. ブランド・ロイヤルティ

ブランド・コミュニティへの参加がそのブランドに対するロイヤルティを高めることは多くの研究で明らかになっている。Mathwick(2002)の研究では,オンラインコミュニティに参加する消費者4クラスターのうち,チャットや掲示板などに対して最も関与度の高いメンバーは最も高い行動的ロイヤルティを示した。また,参加レベルと顧客の製品購入の間には正の相関があるとする研究もある(Oestreicher-Singer & Zalmanson, 2013)。Bruhn et al.(2014)のB2Bブランド・コミュニティを対象とした研究では,参加者同士の相互作用の質の高さが機能的・経験的・象徴的ベネフィットを通じてブランド・ロイヤルティに有意に作用した。よって,相互作用の中心である,能動的な参加行動を取るメンバーはブランドに対しても高いロイヤルティを持つと考えられる。サービスのブランド・ロイヤルティは,継続的にそのブランドを利用することや,他の利用者に推薦することなどによって測ることができる(Lee et al., 2023)。また,ロイヤルティが高い顧客は,使用している製品を推奨する可能性が高い(Rauyruen & Miller, 2007)。本研究ではブランド・ロイヤルティを測る指標として,そのコミュニティが対象とする製品についての「推奨意向」「利用継続」を設定する。

以上の論点により,能動的参加行動とブランド・ロイヤルティについての仮説を設定する。

H4a 能動的参加行動は製品の推奨意向に正の影響を及ぼす

H4b 能動的参加行動は製品の利用継続に正の影響を及ぼす

5. 仮説モデルの設定

以上の論点を踏まえ,仮説モデルを構築した。仮説のうちH1a/H1b,H2が先行研究で解明されていない本研究の新規性である。自己効力感がコミュニティでの能動的参加行動に影響を及ぼす点,能動的参加行動がブランド・ロイヤルティに影響を及ぼす点,自己効力感を基礎付ける情報源については先行研究に示されているが,自己効力感の情報源がどのようにコミュニティ内で体験され,自己効力感に作用するのかについては研究が不足している。よって,この点を明らかにすることに本研究の意義があると考える。

III. 定量調査

1. 調査概要

調査は,回答者が業務で利用しているITセクターの製品(サービス含む)のユーザーコミュニティに,過去3年間のうち1回以上参加したことがある人を対象とした。対象となるコミュニティは,(1)企業が主宰するコミュニティやユーザーグループ および(2)企業が公認または協賛し,ユーザーが主宰するコミュニティやユーザーグループの両方とした。調査方法はWebアンケート方式であり,2023年11月28日から12月14日にわたって調査を行った結果,42社のブランド・コミュニティに所属するメンバー208件の有効回答を得た。このうち回答数が多かったコミュニティ主宰企業は,サイボウズ(30件),Amazon Web Services(28件),Salesforce(26件),Asana(22件),SORACOM(17件),Google(12件),Adobe(11件),Stripe(10件)などであった。

本調査の回答者の属性を見ると,男性が約8割を占め,年齢は30才~49才が8割近くにおよび,情報通信(IT)業が最も多い業種となった。また職種は「専門職・技術職」と「情報システム」が4割を占めている。これはITセクターの製品の中でも特に開発者向けのソフトウェアのコミュニティが多く含まれていることに起因していると考えられる。男女比については,厚生労働省の2022年の調査によるとIT技術者における女性の割合はわずか19%に留まっている(注1)ことから,一般的な属性の割合を反映した結果であると言える。

2. 質問項目

質問項目は以下の通りである。自己効力感の項目はRay et al.(2014)から,自己効力感の源泉となる体験はBandura(1977)Capa-Aydin et al.(2018),能動的参加行動はChiu et al.(2006),製品利用継続についてはAlgesheimer et al.(2005),推奨意向についてはZeithaml et al.(1996)の項目を引用または参考にした。回答は表2で明記した一部の項目を除き,7段階のリッカート尺度により収集された。

表2

質問項目と記述統計

* 整数で回答。

3. 分析プロセス

分析に際し平均値・標準偏差・天井効果およびフロア効果の確認を行った。能動的参加行動については,Chiu et al.(2006)に従い7段階に正規化した。製品利用継続の一項目(実際に製品を利用した時間)については,正規分布に従っていなかったため,Zhang et al.(2020)に従い常用対数による対数変換を実施した。確証的因子分析を行ったところ,GFI=0.905,AGFI=0.866,CFI=0.968,RMSEA=0.046と高いモデル適合度を確認できた。内的整合性の確認のため,Cronbachのαが0.6を上回ることを確認し,収束的妥当性の確認のため,構成概念の平均抽出分散(AVE: Average Variance Extracted)の値がすべて推奨値である0.50を超えていることを確認した。また,弁別的妥当性の確認のため,すべての標準化負荷量が推奨値である0.50を超えていること(Hair et al., 2010)を確認した。さらに,Fornell and Larcker(1981)の基準に基づき,因子間の相関係数とAVEの平方根を比較した。その結果,すべてのAVEの平方根が因子間相関係数を上回ったことにより,弁別的妥当性があることが確認された。最後に共分散構造分析(最尤法)により仮説モデルを検証した。分析ソフトウェアとしてIBM SPSS Statistics 29,IBM AMOS 29を使用した。

4. 分析結果

共分散構造分析の結果,モデル適合度はGFI=0.867,AGFI=0.828,CFI=0.915,RMSEA=0.072となり,Hair et al.(2010)の推奨するRMSEA値のガイドライン(0.08以下)を満たす結果となった。図1に示す通り,6つの因果関係はすべて有意な正の影響が確認され,6つの仮説はすべて支持された。代理体験と言語的説得はいずれも同程度の強さで制御体験に正の影響を及ぼし,制御体験が自己効力感に非常に強い正の影響を与えることが検証された。自己効力感が能動的参加行動に正の影響を及ぼす点は先行研究と一致する結果である。能動的参加行動は,製品についての推奨意向と利用継続というブランド・ロイヤルティ指標に正の影響を及ぼすことも検証された。

図1

仮説モデルの検証結果

IV. 定性調査

1. 調査の枠組みと概要

定量調査によりB2Bブランド・コミュニティにおいて自己効力感が能動的参加行動に与える影響が明らかになった一方で,参加者の自己効力感の源泉となる代理体験と言語的説得が実際にどのようなものなのか,またそれがどのように制御体験と能動的参加行動につながるのかについての質的な側面はこれまでの研究で明らかになっていない。そこで,定量研究で示された能動的参加行動とその先行要因を定性的手法により検証する。定量調査により得られた知見を質的データの解釈により検証・拡張することは,McAlexander et al.(2002)Mathwick et al.(2008)をはじめとするブランド・コミュニティ研究で行われており,複数手法の組み合わせにより更に実証的な知見を得ることを目的とするものである。

能動的参加行動にはさまざまな行動が含まれるが,中でも「重要なコンテンツを作成し,コミュニティの議論をリードし司会するメンバー」が最も深いレベルであるとされる(Oestreicher-Singer & Zalmanson, 2013)。そこで今回は,IT領域のB2B製品のユーザーを対象とするブランド・コミュニティにおいて,グループの立ち上げやリーダーなどを経験したメンバー5人に対し,デプス・インタビューを実施した。5人のうち3人は男性,2人は女性であり,年代は30代から50代であった。インタビュイーの所属するB2Bブランド・コミュニティの対象製品はAmazon Web Services,Asana,freee,SORACOMであり,参加期間は4年から10年と長い。対象者には半構造化インタビューの形式で,コミュニティに参加した理由や経緯,リーダーとしての活動を行った理由やきっかけ,その後なぜ,どのように継続的に能動的な参加行動を行うようになったのかについて語ってもらった。インタビューは2025年1月から2月に行われ,インタビューの時間はそれぞれ1時間から1時間半にわたった。インタビュー対象者は表3の通りである。

表3

デプス・インタビュー対象者

分析においては,Belk et al.(2016)の提案する定性調査のガイドラインを参考にしてコーディングを実施した。コーディングとは「データを意味のあるセグメントに縮小し,そのセグメントに名前を割り当てること」(Creswell & Poth, 2007)である。デプス・インタビューにより得られた5人の質的データを逐語的にコーディングし,著者同士でコーディング結果をお互いに検証した。最終的に定量調査により実証した構成概念「能動的参加行動」「言語的説得」「代理体験」「制御体験」「自己効力感」に分類し,構成概念間の関係を考察する。

2. コミュニティリーダーたちの体験

以下に5人のケースのうち典型的と考えられる4件を紹介する。

(1) 40代女性Aのケース

企業に勤めるAは,あるIT製品を提供する企業が行う講演会に業務上の必要から参加したところ,講演した社員に誘われ,同社のコミュニティのイベントに参加した。イベントはカジュアルでリラックスした雰囲気の中,参加者同士が双方向に交流する形式で行われた。Aはその様子が「普段自分が知っているビジネスの世界とは全然違う」ことに驚きを感じ,もっとその世界を知りたいと考えてコミュニティに継続的に参加するようになった。運営に参加したきっかけは,運営メンバーから協力者の募集があった際に「受付ならできます」と回答したことだという。その後運営メンバーとして関わる中で,特定のユーザー層向けのグループの必要性を感じ,リーダーとして立ち上げを行うことになった。並行してプライベートでもコミュニティの立ち上げを行っていたこともあり,「1回やってたから,できそうだって感じになって,それでそのコミュニティを始めることになった」と語っている。

Aのケースでは,最初のコミュニティ参加という受動的参加行動が社員からの声かけという「言語的説得」から始まっている。徐々にコミュニティへの関与レベルが高まり,協力依頼に対して回答する,つまり「言語的説得」に応える形で一歩目の「能動的行動」を踏み出している。その後「能動的行動」を繰り返すことと並行して,プライベートでのコミュニティ立ち上げという「制御体験」があり,「自己効力感」につながった結果,IT製品のコミュニティにおいてもリーダーとしてグループを立ち上げるという深いレベルの関与につながったと解釈することができる。この結果は,「制御体験」が「自己効力感」をもたらし,「能動的参加行動」に影響を与えるという定量調査の結果を裏付けるものであると言える。

(2) 40代男性Bのケース

Bは勤める会社で利用していたIT製品のブランド・コミュニティでリーダーとして公式に認定されている。Bの最初の参加のきっかけは,その製品を会社に導入する際に,機能や使い方の情報収集を行う中で出てきた疑問を解決するため,オンラインのコミュニティに参加したことであった。最初は他の人の投稿を見たり検索するなどの受動的な参加行動であったが,どうしても解決できない疑問があっため,質問を投稿したという。

今までこういうところで質問したことはなかったんだけど,早く情報を収集しなきゃっていうのが勝った感じですね。他の人が質問してるのに回答をもらえているのを見たので,これだったら自分も投稿しても大丈夫かなっていうのもあった。そしたら〇〇さんに回答いただいて,色々教えてもらったのをきっかけに,じゃあこれはって言うので色々質問するようになった感じですかね。質問しているうちに,ま,自分もある程度知識はついてきて,質問しようと思って見てると,これがわかりませんみたいな他の人の投稿が見えるじゃないですか。それを見て自分は答えがわかるから,まあ僕も教えてもらったし書くかみたいな感じで回答し始めたって感じですかね。

Bの場合は,他の人の質問と回答を観察するという「代理体験」を通じて「自己効力感」を高め,「見ているだけ」の状態から,「質問する」という行動に一歩踏み出している。そして望んでいた回答が得られたことで「制御体験」として認識され,「自己効力感」が高まり,継続的な「能動的参加行動」に至ったと解釈することができる。継続的な参加行動により自身の知識が溜まり,回答できそうだという「自己効力感」が高まったこと,また回答してもらったことのお返しをしたいという気持ちから,他の人の質問に回答するという行動に繋がった。「自分が人から回答してもらったから,別の人に回答してお返しをする」という行動は「一般的互酬性(generalized reciprocity)」と呼ばれ,オンライン・コミュニティを継続させるための重要な要素として認識されている(Chiu et al., 2006; Mathwick et al., 2008など)。Bの体験においても,定量調査で示された通り,「代理体験」を経て「制御体験」を経験し,「自己効力感」が高まった結果,より能動的な行動を継続するようになったプロセスが示されていると考えることができる。

(3) 40代女性Cのケース

Cの最初の参加のきっかけはAと同様,コミュニティを運営する企業の社員からの声かけであった。コミュニティイベントに誘われ参加した際に,他の参加者との交流が発生し,自身の経験を話した際に「自分の話が他の会社でも参考になるんだなっていうのがわかったって感じがあった」。これは「言語的説得」から「制御体験」が導かれ,「自己効力感」が高まったプロセスと解釈できる。数度イベントに参加後,アンケートの「運営に興味がありますか?」という項目に対してイエスと回答したことで,グループの運営に参加することになる。さらに,グループの立ち上げ時に他の運営メンバーからの推薦により会長を引き受けている。いずれも「言語的説得」がきっかけで「能動的参加行動」へと導かれていると言える。

ただし,Cの場合は必ずしも「言語的説得」やコミュニティ内での「制御体験」だけで「自己効力感」が導かれたとは言えない。次の発言から,彼女の「自己効力感」は,過去に同コミュニティではない別の活動での「制御体験」により,ある程度導かれていたと考えられる。

これまでコミュニティに参加したことはなかったんですけど,中学,高校から委員会とかやったり,文化祭なりもそうですし,大学でもそういう一時的にプロジェクトの運営をやるみたいなことは結構やっていて,会社に入ったらプロジェクトが仕事になったんですけど,だからコミュニティの運営をやることに心理的な障壁はなかったですね。会社の中でも委員会があって,毎年継続的にそういう活動をやっていくということをやっているので,そういうものなんだろうっていうのはありましたね。

これは必ずしもコミュニティ内でなくても,「制御経験」に類すると本人が認識できる過去の経験があれば,「自己効力感が育まれるこということを示していると考えられる。

(4) 50代男性Eのケース

自身がエンジニアとして利用するIT製品のコミュニティでリーダーを勤めるEは,最初にコミュニティに参加後,「学べることが多いから,コミュニティにどんどんのめり込んでいった」と語る。一つのグループに参加したことをきっかけに複数のグループに参加し,どのように運営されているのかを間近で見るという「代理体験」を通じて「やってはいけないこと」を学び,その後自身でコミュニティを立ち上げる際に活かしてきたという。

コミュニティに数多く顔を出していると,なんかいろんなパターンがあるじゃないですか。たとえば少人数で集まって議論するパターンもあるし,大人数で集まってとか。あとなんか中身ないのに花火だけ上げてるとか。ゲストだけ豪華なんだけど,最終的にはただの製品の売り込みだったりとか。それをかなりの数見てくると,やっぱり,なんかこれダメじゃない?とか,全然面白くないね,っていうコミュニティはほぼすぐ終わるんですよね。そうじゃなくて,これ良かったな,すごい深い洞察があって何回も行きたいなって思うところは大体続いてるんですけど,そうすると,このやり方はダメだとかいうのはわかってくるんです。これをやると大きく成功するというゴールデンロードは描けないけど,こうやったら失敗するというのがわかるので,そこに外れないようにしています。

これは「代理体験」が反面教師として作用し,「これをやらなければ良い」という「自己効力感」を得て「能動的行動」に至ったケースと言える。Bandura(1997)は,「代理経験」には成功だけでなく「失敗の観察」も含まれ,他者が失敗する様子を観察することで他のより良い選択肢への自信を深め,観察者の「自己効力感」を高めることがあると述べている。Eはコミュニティの観察を通じて失敗を学び,自身のコミュニティの成功という「制御体験」を通じて「自己効力感」を高めたことで,継続的な「能動的参加行動」を実現している。

3. 定性調査の結果

我々が行った定性調査の結果は,定量研究で示された能動的参加行動とその先行要因としての自己効力感,およびその源泉となる3つの体験の関係を裏付けるものであった。インタビュイーはいずれも代理体験もしくは言語的説得によって最初の制御体験を経験し,自己効力感を得て,その後の能動的な参加行動に至っている。単発・一方向の体験ではなく,複数回・反復的な体験を通じて動機が強化され,体験が増大していくプロセスであるという点はBandura(1977)の指摘と一致する。また,能動的参加行動と受動的参加行動は一元的に切り分けられるものではなく,浅い参加から深い参加までのグラデーションがあるという点も先行研究と一致している(Oestreicher-Singer & Zalmanson, 2013; Wu et al., 2015)。インタビュイーたちはいずれも浅い参加から始まって少しずつ関与度を深めていき,最終的にグループのリーダーとなっていた。コミュニティの参加レベルが上がるということは,受動的行動と能動的行動の間を複数回の反復的な経験を通じて少しずつ梯子を登る行為であると言える。梯子を登る行為を通じて自己効力感が育まれ,深い参加と継続的な能動的行動に至る過程が,デプス・インタビューで得られた様々な事例を通じて示されていた。

定性調査の結果得られた新たな知見の1点目として,ブランド・コミュニティを提供する企業側の社員の関与が重要な役割を果たしている点が挙げられる。今回のインタビュイー5人いずれもが,企業側の社員からの言語的説得により「背中を押された」経験を少なくとも一度以上は有していた。B2Bというコンテキストでは担当者間の関係性がその取引や信頼に大きく影響する(Biong & Selnes, 1997)ことを考慮すると,B2Bブランド・コミュニティにおいても企業側の社員の影響が同様に大きいと考えられる。2点目は,言語的説得や代理体験は能動的参加行動の情報源だけでなく受動的参加行動の情報源としても機能するという点である。3点目として,体験の形の幅広さが挙げられる。Cのケースでは,制御体験はコミュニティ内の体験ではなく過去の学生時代や仕事上の体験であり,AとEの場合は,プライベートや社内コミュニティの立ち上げが制御体験となっていた。またEのケースでは,代理体験は他の人の成功体験ではなく失敗体験であった。

以上の結果は,定量調査の結果が定性調査によって裏付けられたことを示すとともに,B2Bブランド・コミュニティにおける参加行動が複雑で多彩な影響関係によって生み出され,その結果コミュニティが活性化していくメカニズムを示していると言える。

V. 本研究の貢献と今後の研究機会

本研究の理論的貢献として,数少ないB2Bブランド・コミュニティにおける実証研究の成果であること,コミュニティにおける体験が自己効力感を基礎づける情報源として機能することを我々の知る限り初めて検証したこと,自己効力感を基礎づける3つの情報源の関係を定量調査・定性調査の組み合わせにより実証的・統合的に検証したことが挙げられる。

実務的貢献としては,コミュニティマネージャーなどの企業側担当者が,参加者に対して代理体験や言語的説得を試みることで制御体験を促すことは,参加者の自己効力感を形成し,参加行動を促進できる可能性があることを明らかにした点である。また,コミュニティに能動的に参加するメンバーは製品の推奨意向や利用継続にも積極的であることは,コミュニティの存在が顧客の獲得・維持に重要であることが改めて示されたと言える。

本研究の限界として,能動的参加行動の他の要因として個人の能力や製品・ブランド愛,コミュニティへの信頼や同一化,エンゲージメント,ソーシャル・キャピタルなど他の要因がありうるという点である。また,製品の推奨意向と利用継続についても,製品の満足度や,組織としての意思決定などの要因が考えられる。今後の研究機会としては,先行研究と定性調査の結果に従って,参加行動をより詳細なレベルに分けた場合の研究や,能動的参加行動に影響を与える調整・媒介変数として参加者の属性や能力,コミュニティマネージャーの存在などの検討,さらにB2B独自の変数を考慮したモデルの開発などが考えられる。

謝辞

本稿の執筆にあたり,慶應義塾大学の山本晶先生より手厚いご指導を賜りました。また,本研究の一部はマーケティングカンファレンス2024にて発表され,ベストドクトラルペーパー賞を受賞しました。査読者からは貴重なご指摘をいただきました。調査にあたっては,コミュニティリーダーの皆様に快くインタビューへのご協力をいただきました。なお,本研究の調査の一部は2024年度潮田記念基金による慶應義塾博士課程学生研究支援プログラム(研究科推薦枠)の助成を受けて実施されました。ここに記して,感謝申し上げます。

Data Availability

本研究の根拠データは,情報提供者と交わした契約により,非公開とする。


1)内閣府男女共同参画局,女性活躍・男女共同参画における現状と課題(令和4年12月27日),https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/wg-nwec/siryo/pdf/wg01-4.pdfより,2025年2月にアクセス

2)本研究は,2024年1月に早稲田大学 大学院経営管理研究科に提出した修士論文 Nagahashi(2024)の内容の一部を加筆修正し,新たな調査と分析を追加してまとめたものである。新しい共著者である第2著者は,本論文において第4節の定性調査の設計を担当した。

References

長橋 明子(ながはし あきこ)

2024年早稲田大学大学院経営管理研究科修了。経営管理修士(専門職)。ITソフトウェア企業勤務。現在,慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程に在籍。

及川 直彦(おいかわ なおひこ)

1988年慶應義塾大学文学部卒業,2006年早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。電通コンサルティング代表取締役社長,マスターカードアドバイザーズ日本地区責任者などを歴任。2019年より早稲田大学ビジネススクール客員教授,2024年よりゼレンホールディングス代表取締役社長。

 
© 2025 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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