2026 年 46 巻 2 号 p. 169-176
本稿は,「真正性の高い観光経験が,旅行者の自己変革を促す」という命題に基づき,観光における真正性体験がいかにして変革経験として構造化されるかについて先行研究をもとに検討するものである。2000年以降に英語圏で発表された17本の先行研究を対象に,真正性と変革経験の関係性を,①関係的実践,②否定的経験,③未来志向,④時間性と反復性という4つの視点から整理・再構成した。分析の結果,真正性は固定的な「本物らしさ」の知覚に加えて,身体的・感情的関与,他者との関係,幻想や信仰,記憶やナラティブといった動的・関係的実践の中で生成される経験であり,その過程において自己と世界の境界が再編され,存在論的問いへの内省が促されることが示された。本稿は,真正性を変革経験の構造的条件として整理し,観光研究における真正性概念の再定位を試みた点で意義がある。また,観光の実践においても,表層的な演出ではなく,旅行者の内的変化を支えるようなナラティブや関係性の設計が求められる。