抄録
ダイオキシン類は生体にとっては毒であるが,一方で生体へのアクセスを抑制することが可能である。すなわち,生成抑制と吸着保持を巧みに組み合わせることで,火を使いながらも,ダイオキシン類が身近にありながらも,棲み分けることが可能である。このように,有害なものと生体との距離が保たれる「共存と棲み分け」のメカニズムは,有毒でありながら必須な元素の生体による利用 (たとえば血中のセレン),底質土壌への重金属類の閉じこめ,熱で活性化した六価クロムの有機物による安定化等,自然界の各所で観測されている。これらは,永い生命と自然の歴史から獲得された能力であると考えられる。しかし,注意しなければならないことに,自然環境がすべての有害物について「共存と棲み分け」の機能を用意しているわけではない。移動性と残留性を要件とする POPs 物質は,生体アクセスのポテンシャルが高く,「共存と棲み分け」は難しいと考えられる。