2017 年 27 巻 3 号 p. 144-152
リゾホスファチジン酸(LPA)は、生理活性脂質の1つであり、6種類のGタンパク質共役受容体(LPA1〜LPA6)を介して多彩な生理作用を示すことが知られている。筆者らは、LPAがLPA1受容体を介して尿道を強力に収縮させることを見出した。その収縮作用の強度はα1受容体作動薬フェニレフリンに匹敵するものであったことから、LPA1拮抗薬が前立腺肥大症に伴う排尿障害の新規治療薬になるものと考えた。LPA1強制発現細胞を用いた高速スクリーニングのヒット化合物から合成展開を進め、リード化合物ONO-7300243を得た。ONO-7300243は、LPA惹起ラット尿道内圧上昇に対して経口投与で抑制作用を示した。既存薬であるα1受容体拮抗薬タムスロシンとラット尿道内圧低下作用を比較したところ、最大効果はタムスロシンと同等であり、かつ血圧に影響を与えないことを確認した。さらに、in vitro LPA1拮抗活性とin vivo LPA惹起ラット尿道内圧上昇抑制作用を指標として化合物最適化を進め、1日1回投与で有効性を示すONO-0300302を得ることに成功した。ラベル体による結合実験およびwash out実験により、ONO-0300302が有するslow tight bindingの性質が高いin vivo有効性に寄与していることが示唆された。