2019 年 29 巻 1 号 p. 8-12
天然物化学はこの先どういった展開をするべきなのだろうか?これはこの研究領域にかかわる科学者が共有する悩ましいテーマかもしれない。天然有機化合物は化学的多様性に富み、その生物活性はときに極めて高い特異性を示す。実際、医薬品の40%は天然物やその改変体、あるいはフラグメントで占められてきた。ところが報告数50万を超える天然物のうちごく一部しか有効活用されておらず、一方で、ユニークな化学構造を有する化合物の取得確率は減少の一途をたどっている。天然物の探索とその作用機構解析を専門にする筆者は、1年ほどの限られた期間ではあったが、スクリプス海洋研究所で探索研究を行った。そこに滞在して思ったこと、そして天然物化学の「これから」について私見を書いてみたい。