抄録
天然変性タンパク質(IDP)は、生理条件下において単独でコンパクトな立体構造をもたないポリペプチド鎖である。近年、その性質からタンパク質相互作用ネットワークのハブに現れやすいこと、液-液相分離(LLPS)に関わるタンパク質の多くがIDPであることから、IDPが創薬標的として適しているかどうか、関心が高まっている。しかし、単独では低分子薬剤が強固に結合するポケットをもたないこと、X線結晶解析やクライオ電子顕微鏡で精密立体構造が決定しにくいことなどから、論理的設計や仮想スクリーニングなどの、近年確立されてきた創薬加速手法の恩恵が受けられにくいことが、課題として考えられる。本稿では、IDPの細胞内機能の理解に基づいたIDP創薬の基本戦略と、IDPを標的とした医薬品探索の成功例について考察する。