国内医学教育における医療倫理は,これまで“医の原則”としてその重要性が認識されてきたが,現場での倫理的問題への対応について,どのように医学生に教育しているか明らかでない.本研究では,国内医学部における医療倫理の卒前・卒後教育の実施状況を調査するとともに,教育者による現状認識と今後の課題について検討した.
1) 学務担当者へのプレ調査(79大学回答,回答率99%)では医療倫理を履修する学年は低学年が高率(1年次61%)で,5-6年次は11%であった.
2) 医療倫理教育担当者が一貫してカリキュラムを担当していたのは54大学中28%であり,看護学生,保健学科などの他学部との合同教育を実施していたのは15校だった.
3) 教育担当者への調査では,「ベッドサイドティーチングへの医療倫理教育導入」が教育体制への満足と関連する可能性が示唆された(オッズ比[95%信頼区間]=7.4[1.75-31.59]).
4) 教育内容が十分であるかについて,教育者の専門分野を調整したロジスティック回帰モデルで検討したところ,「医療従事者を交えた講義やディスカッションあり」が有意であった(オッズ比=9.3[1.06-86.12]).
5) 医療倫理の重要性が再認識される昨今であるが,医学部教育実状にはばらつきも大きく人的資源も乏しい.現場のニーズに早急に対応しつつ指導者育成も視野に入れた教育体制整備が必要である.