2020 年 7 巻 p. 51-64
「サイコ・ナショナリズム」は、現在の中東地域において不安定要因を形成する主要な要因であり、それは排他的な国民意識の核となる集団的自己意識の半ば意図的に捏造された発明品である。本論は中東イスラーム世界における哲学的議論の豊かな蓄積―イブン・ハルドゥーンの政治学的・社会学的考察を含む―の上に、近年盛んに行われているアイデンティティー政治学の宗派主義・部族主義的な分析枠組みの脱構築を意図している。本論ではまずアラブ世界およびイラン世界における「想像的共同体」の具体的な構成要素に検討を加えたうえ、とりわけ中東地域においては人間集団間の長期的な混交と相互依存構築という歴史的な経験を踏まえた理性的な対話・交渉による関係の構築が地域的平和の実現のための不可欠の要件であることを確認する。