ミルクサイエンス
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原著論文
キルギス共和国の乳加工体系の特徴とその発達史
平田 昌弘山田 勇内田 健治元島 英雅
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2016 年 65 巻 1 号 p. 11-23

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抄録

 本稿の目的は,1)中央アジアのキルギスにおける移牧民の乳加工体系を明らかにし,2)キルギス移牧民の乳加工体系の特徴を周辺地域と比較検討することにより分析し,更に,3)ユーフラテス大陸北方域に位置するキルギス移牧民の乳加工体系の発達史について推論することにある。現地調査は,キルギス移牧民13世帯を対象に,観察とインタビューを2000年11月,2014年 8 月におこなった。キルギス移牧民の乳加工体系は,発酵乳系列群とクリーム分離系列群の乳加工技術を採用していた。発酵乳系列群の乳加工技術では,酸乳,チーズ,乳酒を,クリーム分離系列群の乳加工技術では,クリーム,バター・バターオイル,酸乳,自然発酵乳,チーズを加工していた。周辺地域の乳加工技術と比較分析した結果,キルギス移牧民の乳加工体系の特徴として以下の 2 点を明らかにした。①クリーム分離系列群や乳酒の加工というユーラシア大陸北方域の冷涼な生態環境に適合した乳加工技術を発達させたこと,②凝固剤使用系列群の乳加工技術を採用せず,凝固剤を利用してまでチーズを加工するようには発達してこなかったことである。キルギス移牧民の乳加工体系の発達史は,西アジア型の発酵乳系列群の乳加工技術を土台とし,冷涼性ゆえにクリーム分離系列群と乳酒の乳加工技術が発達し,近年のクリームセパレーターの採用により乳脂肪分画はクリーム分離系列群に依存するように変遷していったと結論づけることができる。

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© 2016 日本酪農科学会
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