ミルクサイエンス
Online ISSN : 2188-0700
Print ISSN : 1343-0289
ISSN-L : 1343-0289
原著論文
イタリア北部山岳地帯の熟成ハード系チーズの特徴とその発達史
平田 昌弘木村 純子Tanja Barattin
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 67 巻 1 号 p. 1-14

詳細
抄録

 山のチーズと呼ばれる長期熟成ハードチーズが,紀元前2000年には冷涼なアルプス山岳地帯でつくられていた。フレッシュチーズと熟成ハードチーズの関連性の分析は,ヨーロッパにおけるチーズ発達史の再構築にとって極めて重要な論考となる。本稿では,イタリア北部山岳地帯のドロミテ地域を事例に,熟成ハードチーズとフレッシュチーズの加工工程を把握し,フレッシュチーズから熟成ハードチーズへの発達史過程について酪農科学・人文地理学的に考察することを目的とした。フレッシュチーズは,レンネット添加,カッティング,脱水,加塩することによって加工されている。フレッシュチーズは,風味の向上のため,塩水に漬けたまま数週間静置し,熟成されるようになっていった。この熟成フレッシュチーズを,塩水から取り出し,空気中で乾燥化を進めると,ドロミテ地域でつくられているドロミテと呼ばれるチーズのような熟成ハードチーズとなる。空気中で静置するため,表面は乾燥し,形成された外皮が内部のチーズを守るようになる。山岳地域では,熟成ハードチーズは長期熟成ハードチーズへと更に発展していった。より望ましい熟成を進展させるために,チーズつくりには乳脂肪含量を低くした脱脂乳が利用されるようになった。カードからよりホエイを除去するために,カードは42℃まで加温されるようになった。ここに,ドロミテ地域でみられる山のチーズのような長期熟成チーズが誕生することになる。このような発達へと向かわせた大きな要因は山岳地帯の冷涼・半湿潤性であり,ヨーロッパ山岳地帯でなるべくして変遷したチーズの発達だったと考えられた。

著者関連情報
© 2018 日本酪農科学会
次の記事
feedback
Top