ミルクサイエンス
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原著論文
地中海域サルデーニャ島・バルバージャ地域の乳加工体系
平田 昌弘木村 純子上田 隆穂Tanja Barattin
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2018 年 67 巻 2 号 p. 65-79

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抄録

 本研究の目的は,ヨーロッパ乳文化の熟成チーズ発達史を考察する一環として,1)サルデーニャで実践されているチーズ加工を把握し,2)暑熱環境下においてどのように生態環境を利用してチーズの熟成を実現させているかを分析することを通じて,3)サルデーニャにおける熟成チーズの発達史を考察することにある。サルデーニャでは,凝乳からホエイを抜く際に加熱しない pasta cruda 法によりカズ・クルドゥ(S)/フィオレ・サルド(I)と呼ばれる熟成ハードチーズをつくってきた。サルデーニャの移牧民はかつて,低地に滞在する冬・春期はつくりだてのチーズを主にすぐに売却したり食に供したりしていた。冬・春期は低地でも気温が低いため,チーズを熟成させることも可能であった。夏期には高地に移動して熟成チーズを加工していた。夏期の高温乾燥となる自然環境には,高地の涼しさとより涼しくできる住居を利用し,乾燥を防ぐにはオリーブオイルを表面に塗布し,チーズの熟成を実現させてきた。移牧という年間の高度差移動を巧みに利用し,冬期低温・夏期高温乾燥となる地中海性気候に対処してチーズの熟成を実現させてきた。それは,凝乳をホエイの中での保存から空気中への保存,凝乳のカッティングによる凝乳からの急速なホエイ排除,燻煙による脱水,加塩,涼しい場所を選んでの静置という加工法の発見・発達であったとも言える。サルデーニャの地形(低地から標高1000 m 以上の高地),環境利用(冬・秋期間に低地,夏期に高地を放牧),ライフスタイル(移牧)が,サルデーニャ独自の熟成ハードチーズを生み出していったといえる。

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© 2018 日本酪農科学会
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