ミルクサイエンス
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原著論文
バルカン半島西部スロベニアの乳文化
平田 昌弘山田 勇
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2019 年 68 巻 1 号 p. 12-23

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抄録

 搾乳と乳加工は西アジアに誕生した。乳文化が西アジアからヨーロッパに伝わり,乳文化が発達する過程を再構築するにおいて,バルカン半島西部の乳文化は有益な情報を提供するものと考えられる。本稿の目的は,1)スロベニアにおける乳加工体系を明らかにすること,2)スロベニアの乳文化をヨーロッパと西アジアの乳文化と比較分析することにより,スロベニアの乳文化の特徴を把握することにある。バルカン半島西部のスロベニアの乳加工体系の特徴は,1)非加熱殺菌の生乳を静置して自然発酵乳を加工すること,2)生乳から最初にクリームを分離すること,3)クリームはチャーニングしてバターにし,地域によってはバターを加熱してバターオイルまで加工すること,4)自然発酵乳を加熱・脱水・乾燥させて非熟成チーズを加工していること,5)アルプス地域ではレンネットを用いた熟成型チーズを加工していることであった。バルカン半島西部の乳加工の事例は,西アジアからヨーロッパに乳文化が伝播するに従って,発酵乳系列群からクリーム分離系列群へと変遷していったことを指し示していた。さらに,バルカン半島西部は,自然発酵乳と酸乳の両方を加工しており,ユーラシア大陸北方域と西アジアの乳加工技術に特徴的な技術が混在する乳文化となっていた。チーズ加工においても,発酵乳を脱水・乾燥させて加工する非熟成チーズとアルプス山脈で発達するレンネットを用いた熟成チーズを加工しており,バルカン半島西部はヨーロッパと西アジアの文化が混在している。バルカン半島西部は,西アジアに由来する発酵乳技術とヨーロッパで発達するチーズ加工とが正に交差した地点であると言える。

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© 2019 日本酪農科学会
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