ミルクサイエンス
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原著論文
乳酸菌のカドミウムおよび水銀耐性におけるムーンライティングプロテインの役割に関する研究
木下 英樹森下 光貴村田 祐太朗古閑 史也安田 伸荒木 朋洋井越 敬司
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2020 年 69 巻 1 号 p. 11-20

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抄録

 本研究ではムーンライティングプロテイン(MP)と呼ばれる多機能性タンパク質が乳酸菌の重金属の吸着および耐性にどのように関わっているのかを調べた。Lactobacillus gasseri(3菌株),L. casei/paracasei(3菌株),L. rhamnosus(2菌株),L. sakei(4菌株),L. plantarum(4菌株),L. reuteri(4菌株)の計20菌株について菌体表層のグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の酵素活性測定を行ったところ,L. casei 及び L. paracasei において高い酵素活性を示す傾向が見られた。選抜した3菌株を用いて,蒸留水(DW)洗浄およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)洗浄において抽出されたタンパク質をSDS-PAGEで確認したところ,PBS洗浄画分において40 kDaと66 kDa付近にいくつかのバンドが見られたが,DW洗浄では一部を除き殆どタンパク質は検出されなかった。また,フェノール硫酸法による糖の検出を行ったが,糖は検出されなかった。N-末端アミノ酸配列解析により,L. rhamnosus TOKAI 45mおよび L. casei(または L. paracasei) TOKAI 83mの約40 kDaのタンパク質は GAPDH, TOKAI 45m株および TOKAI 65m株の約66 kDaタンパク質は GroELと同定された。カドミウム吸着試験では TOKAI 65m株および TOKAI 83m株では DW洗浄に比べて PBS洗浄菌体の方がカドミウムの吸着が低くなったが,TOKAI 45m株では逆の結果を示した。水銀では全体的にカドミウムより吸着率が高く TOKAI 45m株および TOKAI 65m株ではほとんど差が見られなかったが,TOKAI 83株では PBS洗浄の方が吸着率が低くなった。カドミウム耐性は,TOKAI 65m株ではほとんど差がなかったが,他の2菌株ではPBS洗浄菌体の方が耐性が低くなった。興味深いことに水銀では,カドミウムと逆の傾向を示した。以上のことから少なくともTOKAI 83m株ではカドミウムがMPに吸着することで無毒化されている可能性が示唆された。一方,水銀においては,水銀がMPに吸着したことで菌体内への取り込みが促進され毒性が発揮された可能性が示唆された。本研究によりMPが重金属耐性に影響している可能性が強く示唆された。

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© 2020 日本酪農科学会
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