本研究は,カビ熟成型チーズのスターターとしての特徴づけを目的とし,非商業用Penicillium roqueforti K10株およびR26株,ならびにPenicillium caseicolum DL102株のタンパク質分解活性および脂質分解活性を評価した。また,各菌株を個別に接種したカードスラリー培地を用い,pHの経時変化,揮発性香気成分,アミノ酸組成,ペプチド成分および食品に見出される典型的なカビ毒について明らかにした。その結果,対照として用いた商業用Penicillium roqueforti CB2株ならびにPenicillium camemberti PCTT033株と比較して,K10株とR26株は低い最大pH値を,DL102株はpH値の緩やかな経時変化を示した。これは,カードスラリー培地中において非商業用ペニシリウム属3菌株が商業用2菌株と比較して有意に低いプロテアーゼ活性を示すことを反映していた。カードスラリー培地中の総遊離アミノ酸量は,CB2株と比較してK10株は33%,R26株は39%であり,PCTT033株と比較してDL102株は99%であった。非商業用Penicillium属3菌株の脂質分解活性は,商業用Penicillium属2菌株と比較して有意に低かった。揮発性香気成分の種類はK10株,R26株,CB2株間で同じであったが,DL102株はPCTT033株と比較して少なかった。非商業用Penicillium属3菌株を摂取したカードスラリー培地中に数種類の生理活性ペプチドを検出した。いずれの非商業用Penicillium属菌株もカビ毒は検出限界以下であり,その安全性が示唆された。以上から,非商業用Penicillium属菌株K10株,R26株,CB2株は,カビ熟成型チーズのスターターとして高い利用可能性が示されたが,それらの産業利用には実用面でのさらなる調査研究が必要である。