民族學研究
Online ISSN : 2424-0508
船世帯民再考 :家船民の陸地との交渉の分析を中心に
金 柄徹
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1996 年 61 巻 1 号 p. 28-49

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抄録

本稿は,海上の船だけをその居住とし,主に漁業を営みながら生活してきた船世帯民の歴史を,彼らの陸地との関係から再構成してみることを目的としている。その方法としては,まず,船世帯民と陸地民との関係を,「政治-陸地権力との力関係」と「経済-交換システム」というキーワードを用いて分析していく。また,近代における船世帯民の「陸地定着」という大きな「出来事」を境目とし,全体を「定着」以前と以後とに分けて考察する。そして結論として,船世帯民の「陸地定着」が近代国家の形成や市場経済システムの拡大と共に急激に進められる一般的傾向であることは認めながらも,一方では,今日もなおかつ船世帯生活を行い続けている漁民が少なからず存在していることや,彼らの多くが近代以降「新しく形成され」たことを明らかにすることによって,「定着」とは時代を生きる「選択=戦略(ストラテジー)の一つにすぎないことを示す。

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© 1996 日本文化人類学会
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