わが国に認められるイヌ・ネコのアスペルギルス症は,副鼻腔-眼窩内アスペルギルス症が散見されている.原因菌種の多くはAspergillus fumigatusであるが,ネコの場合は,海外の報告と同様にAspergillus felis, Aspergillus fischeri, Aspergillus udagawae, Aspergillus viridinutansなどA. fumigatusの隠蔽種(近縁種:cryptic species)が分離されることが多い.これらの菌種は,抗真菌薬に対して低感受性を示す場合があるので,難治性の原因となると考えられる.そのため分離株の同定および薬剤感受性試験は,治療上必須である.
わが国の動物におけるクリプトコックス症はネコに多く,原因菌として重要なのがCryptococcus neoformans var. grubiiで,病巣から多数の菌体を排出するため,人獣共通真菌症として問題である.一方,海外ではCryptococcus gattiiの蔓延が問題視されているが,わが国のネコには感染が認められていない.
近年,わが国におけるネコのクリプトコックス症からフルコナゾール耐性のC. grubiiが初めて分離された.この株の耐性機構について調べたところ,チトクロムP450の遺伝子(ERG11)変異は認められなかったが,薬剤を菌体内から排出する膜ポンプの遺伝子(AFR1)およびチトクロムP450の遺伝子(ERG11)の発現量が,感受性株よりも増加していることが確認された.菌体外への薬剤排出の亢進および標的酵素の産生増強によってフルコナゾール耐性化を獲得したが,ERG11のアミノ酸変異が認められなかったことから,多剤耐性能の獲得までにはいたらなかったと考えられた.以上の結果から,耐性株が環境中には存在する可能性が高く,耐性株による人への感染には注意が必要である
このように人への感染拡大を防ぐためにも,動物の真菌症に対する疫学および薬剤耐性についてのさらなる調査が必要である.