日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第52回大会
セッションID: P013
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ポスター発表
線虫寄生性卵菌 Haptoglossa 属5種の生活環
*計屋 昌輝廣瀬 大徳増 征二
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抄録
線虫寄生性卵菌 Haptoglossa 属は絶対寄生菌として知られている.本属は全実性菌体を持ち,宿主体内に形成された菌体は成熟すると胞子嚢となる.胞子嚢からは種によって不動胞子もしくは遊走子が放出され,放出される胞子の種類によって本属は不動胞子性の種と遊走子性の種に分けられている.遊走子のシストと不動胞子は相同なもので,これらは発芽してガンセルと呼ばれる感染胞子を形成する.ガンセルは宿主体内に,細胞壁に包まれた原形質である sporidium を注入し,宿主への感染を行う.この感染は通常約0.3秒の間に行われ,本属菌の宿主への感染を観察することは非常に困難である.そのため,先行研究では連続的な生活環の観察は行われておらず,代表的なステージをつなぎ合わせることで生活環を推定していた.そこで,演者らは培養法および各ステージにおける観察法を工夫することにより,生活環の連続観察を試みた.その結果,不動胞子性,遊走子性それぞれの代表的な種である H. heterospora および H. zoospora に加え未記載種3種の生活環が明らかになった.各種の特徴は以下のようなものだった.不動胞子性の Haptoglossa sp. 1 は胞子嚢から不動胞子を放出する際に,放出管の先端に包嚢を形成し,不動胞子はすべて包嚢の中に放出された.遊走子性の Haptoglossa sp. 2 は H. zoospora とほぼ同じ生活環を示したが,ガンセルの形態から sp. 2とした.遊走子性の Haptoglossa sp. 3 は長期間培養した場合,宿主体内に厚膜胞子を形成した.Haptoglossa sp. 1,Haptoglossa sp. 3 で観察された包嚢と厚膜胞子の存在は本研究で初めて確認された.これらの結果と演者らがすでに発表した分子系統樹とを対応させたところ,本属の不動胞子性,遊走子性が系統を反映した形質である可能性が示唆された.しかし,それぞれのブートストラップ値の支持が低いため,この形質が実際に系統を反映しているか否かを明らかにするためには,株数を増やし解析を行う必要がある.
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© 2008 日本菌学会
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