日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: A17
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基質から直接子実体を発生するガマノホタケ科菌の増殖温度域から推定される新たな生活史の過程
*星野 保矢島 由佳出川 洋介久米 篤
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抄録

小型で棍棒状の子実体を形成する担子菌はガマノホタケ科に属するとされる.本科の代表的な属にガマノホタケ属Typhulaおよびガマノホタケモドキ属Pistillariaがあり,両属は柄から子実層へ至る形態により区別される(Fries, 1821) が,この形質の不明瞭な種が多いため菌核から子実体形成する種をTyphula,しない種をPistillariaとするKarsten (1882) の見解が広く受入れられてきた.しかし,フキガマノホタケモドキP. petasitisでは子実体の菌核からの発生の報告Corner (1970)もある. 演者らは2007年グリーンランドにて,興味深い性質を示すイシカリガマノホタケT. ishikariensisを採集した.この標本はイネ科植物上から直接柄状の構造を形成し,先端に菌核を有していた.さらに演者らは2010年に北海道の旭岳で見られるP. petasitisが,野外では約2ヶ月にわたり子実体を基質から直接形成し,晩秋には地上より80cm程の枯死した高茎草本上部に子実体を形成することを見出した.採集した菌は全て培養下で菌核形成能を有していた.同様の性質はP. petasitisとは異なる種で神奈川県小田原市のマダケ稈鞘や北海道足寄町のハリギリ葉柄から,直接子実体を形成することが確認された.3地点それぞれの菌株の菌糸成長温度と採集地の採集時期の平均気温を比較から,いずれの種も採集時期に菌糸成長が可能であると考えられた.これまでTyphulaは晩秋に子実体を形成し,菌糸は子実体形成不適な積雪下に成長するとされてきたが,今回得られた結果から菌核より生じた子実体が胞子分散を行うのみならず,生育環境に応じて胞子発芽により生じた菌糸が複数回の子実体形成を行う可能性を見出した.

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© 2011 日本菌学会
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