日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: A1
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日本産マツカサキノコ属菌3種の分類学的研究
*中島 淳志出川 洋介
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抄録

マツカサキノコ (Strobilurus) 属は主に球果上に子実体を形成する特異な生態的特徴に基づきSinger (1962) により設立された属である.演者らは菌類の多様性生成要因を解明するためにこの基質再起性に注目し,本属の系統分類および生態の研究を進めている.本属には10種が知られているが,本邦からはマツカサキノコ ,マツカサキノコモドキ,マツカサシメジ,スギエダタケの4種が報告されている. Petersen & Hughes (2010) はITS領域の分子系統解析を行い,主に北米産種の種間関係を明らかにしたが,スギエダタケは解析に含まれなかった. 2010年~2011年にかけて演者らは長野県菅平を中心にのべ60か所でマツカサシメジを除く3種の本属菌を採集し,培養菌株を確立した.このうちマツカサキノコモドキ8株,マツカサキノコ5株,スギエダタケ3株のITS-5.8SrDNA領域について分子系統解析を行ったところ,以下の事実が判明した. 1)マツカサキノコとマツカサキノコモドキは,基質(トウヒ属,マツ属の球果)およびシスチジアの形態が明瞭に異なるため従来独立種として扱われてきた.しかし,この二種はそれぞれ単系統群をなさず両種の配列が全く同一の例もあった.このため,これらが同種である可能性も考えられ,今後交配試験により隔離の有無を検討したい.また,基質とシスチジアが一致しない例も見出されたため,基質再起性に関しては詳細な再検討を要する. 2)スギエダタケは当初Marasmius属菌として記載され (Hongo & Matsuda, 1955),その後Pseudohiatula属 (Hongo, 1975) ,さらにマツカサキノコ属 (勝本, 2010) に転属されたが,いずれも根拠は明示されなかった.本種の形態的形質を再検討した結果,他の本属菌との共通点が多く認められ,分子系統解析でも類縁性が示唆された.本種は落枝を発生基質とする点で本属菌としては例外的であり,基質再起性の進化を考察する上で重要な種だと考えられるため,今後さらなる検討が必要である.

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© 2011 日本菌学会
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