抄録
胞子による施設汚染や胞子アレルギーは,きのこ生産現場の重要な問題である.この対策のひとつとして,いくつかの種で突然変異育種により胞子欠損性突然変異体が得られ,無胞子性栽培品種が育成されている.これらの育種過程において胞子欠損性変異体の選抜には,全て子実体形成させ胞子の有無を精査する必要があり多大な時間と労力を必要とする.無胞子性栽培品種を効率的に育成するためには,胞子欠損性変異に関与する変異関連領域の推定とその連鎖マーカーの構築が不可欠である.
本研究ではエリンギ (Pleurotus eryngii)の胞子欠損性変異株 (PE2)を材料として,AFLPマーカーによる遺伝連鎖地図を作製し,胞子欠損性変異に関与する変異領域の座乗部位を推定した.連鎖解析のための分離世代は,PE2から得た単胞子分離株83菌株を用いた.検定交雑の結果,本変異が単一の優性遺伝子によって支配されていることが明らかとなった.また2選択塩基をもつ19組のEcoRI/MseI選択プライマーを用いて実施したAFLP解析では合計339個のAFLPマーカーが得られた.分離世代における胞子欠損性変異形質および交配型因子 (A,B)はほぼ1:1の比に分離した.またAFLPマーカーの多くについても期待分離比からの歪みは認められなかった.これらAFLPマーカー,胞子欠損性変異形質および交配型因子について連鎖解析 (LOD 3.0)を行った結果,合計294個のAFLPマーカーがマッピングされ,11連鎖群 (LG I~LG XI)からなる遺伝連鎖地図が作製できた.本遺伝連鎖地図の全長は837.2 cM,各連鎖群の長さは最小25.2 (LG XI)~最大116.8 (LG I)cM,平均マーカー間距離6.17 cMであった.胞子欠損性変異形質は32個のAFLPマーカーと交配型因子BからなるLG IXに座乗すると推定された.