日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: C19
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広義のSclerotinia属におけるSclerotinia borealisの種形質について
*斉藤 泉トカチェンコ O. B.国永 史朗
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抄録
好低温菌Sclerotinia borealis (子嚢菌門, ビョウタケ目)によるイネ科冬作物の雪腐病の発病環境として従来,“土壌凍結”が強調されたが, むしろ土壌凍結が発達するような気象条件(初冬の寒気と地表の断熱材とも言うべき積雪の遅れ)が植物体の凍害発生を招き発病の誘因となる, と考える方が妥当である.一方,イネ科以外の植物も凍害に罹るとS. borealisに感染し枯死する.最近十勝地方で発生したS. borealis に因るナタネの雪腐病もその好例である.これは従来S. borealis の分類形質として信じられて来たイネ科植物に対する“科特異性”を否定する事であり, この菌の分類にも影響するところである.一般に常温性のSclerotinia は宿主特異性に乏しいが、低温性のS. borealis も例外でないところが面白い.宿主範囲を無視した場合, S. borealis と言う分類群を限定する種形質は何か?を知る必要が以下の通り生じた.シベリア沿海州のマガダンおよびカムチャツカ半島の寒冷な非農業地帯で積雪下に枯死したと思われる様々な植物(非イネ科の自生種を含む)上の菌核から2-3℃の低温で分離され, Botrytis typeの分生胞子を作らない菌核形成菌をその後の子嚢盤形成を経て一応S. borealis と同定した.分離菌中には, より低緯度の北海道農業地帯で普通に見られるS. borealis のほか, 菌叢と菌核の形状, 生育速度, 子嚢盤のサイズ等が明らかに異なる2菌群が認められた.ここで, 分子系統関係の解析に入る前に3菌群に共通する以下の特徴を明らかにしS. borealis の種形質とみなした.即ち、生理的特徴では好低温性と好高張性が著しく, 形態的には塊状の菌核の髄組織に細胞間隙が無い、子嚢盤の外皮層外側は円形菌組織、無色の子嚢胞子はSclerotinia の中では大型で8個の核を含む, 等の特徴がある.以上の形質は実験室内で得られた結果に基づくものである.  
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© 2011 日本菌学会
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