抄録
Massarina 属はクロイボタケ綱・プレオスポラ目・マッサリナ科に所属する子のう菌類であり, 様々な植物基質に生じる. 本属は1883年に設立されたのち170種以上が記載されてきた. その後分子系統解析から本属は科レベルで大きく異なる多数の系統群で構成されていることが判明したため, 分類学的再編が試みられている. しかし基準種であるM. eburnea が主に子のう胞子形態に基づき幅広く定義づけられており(Aptroot 1998), その結果属定義も曖昧なままとなっていることが本属菌の分類を再考する上で問題となっている. 本研究ではAptroot (1998) によってM. eburnea の異名として処理された種のうち, M. berchemiae, M. eburnella, M. eburnoides, M. leucosarca, M. pomacearum およびMetasphaeria corylina の6種について基準標本を検鏡することで, 広義M. eburnea の形態学的再検討を行った. その結果, これらは形態的特徴から狭義M. eburnea, M. eburnoides, M. berchemiae の3種に整理できると判断された. このうち, M. berchemia はMassarina 属とは明らかに異なる別属に所属するものと考えられた. 以上の形態的再検討に加え, 日本において採集されたM. eburnea 類似菌の6菌株について, 18S および28S nrDNA に基づく分子系統解析を行い, 狭義M. eburnea との系統関係を考察した. その結果, これらの菌株はいずれも分子系統樹上で狭義M. eburnea とは異なるクレードを形成し, Lophiotrema 属, Pseudotrichia 属, 所属不明系統1および 2の計4属6種からなることが明らかとなった. 所属不明系統の2系統群は形態的に一致する属がなく, 系統樹上でも独立したクレードを形成することから新属にすべきであると考えられた. 以上の結果は, 現在曖昧に規定されているMassarina 属やその基準種であるM. eburnea が実際は非常に多様な系統群で構成されており, 本菌群の各タクサは従来の定義よりもより微細な形態的差異によってはじめて識別しうることを示唆する.
文献: Aptroot A (1998) A world revision of Massarina (Ascomycota). Nova Hedwigia 66: 89-162.