石膏と石灰
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凝結時におけるセメントペーストの表面積ならびにセメント中の各型石膏量
吉井 豊藤丸村上 義一
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1957 年 1957 巻 30 号 p. 1474-1479

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抄録

現場のセメントミルは長時間ほとんど連続的に運転され,動力の80%は熱エネルギーに変るため,ミル温度は80°~200℃まで上昇し,また石膏はクリンカに比し極微粉砕され,吸湿性の強いクリンカと接触するため,またミル内は水蒸気分圧が相当高いため普通の石膏の脱水とは相当ことなると考えられる。セメント中の石膏の形態は偽凝結に深い関係を有するので,粉砕直後の新鮮なセメント中の各型石膏の定量を粉砕温度と関係づけて行つた。その結果を要約すると,
1. エアバス内では,可溶性無水石膏は200℃付近で安定で,それ以下の温度では次第に半水物に変り,60℃附近では半水石膏が安定であることを確め,化学天秤とエアバスを組合せた方法で,新鮮セメント中の各型石膏の定量を行つた。
2. オープンサーキュットミルにおいては,ミル温度40℃ですでに脱水が始まり,半水物が20%位存在する。温度の上昇とともに半水物の占める割合が多くなり,100℃位でほとんど半水物となり,それ以上では可溶性無水物を生じ,140℃位では半水,無水物がほぼ半々となり,180℃位ではほとんど無水物となつており,予想以上に早期に脱水が行われることを認めた。
3. ミル尻より出たセメントは,コンベア,サイロ,さらに紙袋に詰められ輸送される間に空気中の湿分を吸収し,可溶性無水物はすみやかに半水物にもどり,この状態で安定していると考えられる。
4. なお,本測定法は新鮮セメントのSO3迅速定量法として日常試験に使用している。また本法によれば,化学分析とことなり,クリンカよりのSO3と石膏よりのSO3(ただし不溶性無水物をのぞく)を区別することができ,アルカリおよびSO3の多いセメントの場合賞用されている。
次にセメント中に存在する半水石膏に起因する偽凝結(G型)においては,半水石膏の硬化する時刻が重要な要素であることはすでに報告したが,練殺現象を端的に証明する1方法として,セメントペーストの表面積の時間的変化をガス吸着法により測定し,確認することができた。要約は次の通りである。
1. 半水石膏をSO3として1.0~1.5%程度含有する普通のセメントのペーストは,注水後徐々にスムースに増加する。石膏量不足セメントは短時間に急に増加し,数十分以後はわずかしか増加せず,数時間後には前者の値を下廻る。石膏無添加セメントではさらに早く注水後3分以内(混練中)に極めて急激に増加し,それ以後は数時間にわたりほとんど増加しない。これと反対に半水石膏を多量に含んだセメントでは,注水後20~30分までの問に急激に増加するが,それ以後はやや減少し,ふたたび増加を始め数時間の表面積は石膏量の多いセメントほど表面積が大となる傾向が認められた。
2.石膏無添加セメントが急結をしめさず緩結であるのは,上述のように混練中の表面積の増加は練殺しのため無効となり,混練終了後容器に入れられてからは表面積の増加が数時間にわたり認められないためである。
3. 半水石膏による偽凝結においては,正常セメントは注水後3分以内に半水石膏水和析出による表面積が急激に増加し.それ以後は増加しない。
4. Powersはセメント水和物の表面積と強度とは直線的に比例していることを報告しているが,硬化の場合よりも水和時間がはるかに短い凝結および偽凝結の段階においても同様な関係が認められる。ただし,硬化の場合は混練時間(3分間)内の表面積は無視できるが,凝結特に偽凝結の場合は混練時間内の変化が凝結性に大きい影響をおよぼす。したがつて混練中の変化を察知できる表面積測定法は凝結機構解明の有力な一方法と思われる。

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