2015 年 104 巻 11 号 p. 2428-2435
機能性消化管障害の1つである機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とHelicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎が保険診療病名となったことでFD診療は大きく変化した.これまで慢性胃炎として扱われてきた胃炎の概念は,このFDとH. pylori感染胃炎の2つに集約されつつある.FDの病態として胃適応性弛緩障害,胃排出障害,知覚過敏などの関与が明らかとなり,最近では十二指腸の炎症や小腸内細菌増殖までが病態に関与している可能性が指摘されている.FDにおけるH. pyloriの関与は大きくないものの,H. pylori陽性者では除菌治療が保険診療で認められるため,まず除菌治療を先行させることが可能となり,酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,漢方薬,抗不安薬などを患者個々の状態に合わせて使い分ける時代となったといえる.まだまだ不明な点が多いFD診療ではあるが,概念の再構築などを通して,病態整理を行うとともに,ディスペプシア症状発現の予防と制御を目指したさらなる診断法と治療法の開発が期待される.