2016 年 105 巻 8 号 p. 1455-1462
渡航医学(travel medicine)とは海外渡航者の健康問題を扱う領域で,その発生を未然に防ぐための予防に重点が置かれる.こうした健康問題は移動中や滞在先の環境の変化に起因するものであるが,途上国に滞在する者にとっては感染症が重要な問題になる.この中でも旅行者下痢症やA型肝炎などの経口感染症は最も頻度が高く,デング熱やマラリアなどの蚊媒介性感染症も滞在地域によってはリスクが高くなる.この他に性行為感染症(HIV(human immunodeficiency virus)感染症,B型肝炎)や狂犬病などが注意を要する感染症である.このような感染症の中にはワクチンで予防できるものも数多くあるが,どのワクチンを接種するかは,渡航者の滞在地域,滞在期間,滞在先でのライフスタイルなどを参考に判断する.最近は日本から海外に渡航する者だけでなく,日本を訪れる外国人が増加しており,内科医にとって渡航医学の知識は日常診療において欠かせないものになっている.