日本内科学会雑誌
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前縦隔に原発した男子絨毛上皮癌の1剖検例
島野 毅八郎内藤 寛北 周二
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1963 年 52 巻 1 号 p. 31-35

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抄録

前縦隔に原発した男子絨毛上皮癌の剖検例を報告した. 18才の高校生で,昭和36年頃から女性様乳房に気づき, 3月に咳が始まり, X線検査などで異常を認めなかつたが,半年後には,右胸部を占有し,左側に転移を伴なう腫瘍陰影が発見されたものである.抗癌剤, X線深部治療,抗生剤,女性様乳房に対するエナルモン治療などを施したが奏効せず, 10月6日死亡した.剖検では,前縦隔のほゞ全域を占め,右各肺葉,心嚢壁上部にわたる小児頭大の種瘍で,左肺,肝,膵,脾,腎にも結節性転移を認めた.組織学的には絨毛上皮癌(choriocarcinoma)で,転移巣も同様の組織像を示していた.睾丸はとくに精細に検索したが,原発巣と見なすべき変化は発見されなかつた.胸腺原発の可能性は大きいが,遣残胸腺がみいだされないので,前縦隔原発とみなされた.縦隔腫瘍には奇形腫が多く,その原因は腫瘍学上の一つの課題であるが,前縦隔に原発した絨毛上皮癌は文献上稀有というのみにとゞまらず,縦隔奇形腫発生機序を考究する上に貴重な資料を提供するものであることについて述べた.

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