膵と脂質代謝の間には密接な関係があり,膵障害時にその異常をきたすことは古くから知られていたが,構成脂肪酸の面より追求した研究は極めて少ない.本論文においては膵炎時の脂質代謝の一端を窺う目的で,実験的には膵管内胆汁末水溶液注入により作成した急性膵炎犬にっき,経過を追って血漿脂肪酸組成をガスクロマトグラフフィーにより測定し,さらに経口的に脂肪を投与して血漿脂肪酸組成の変動を観察した,臨床的には慢性膵炎患者について同様な観察を行なった.血漿は珪酸カラムクロマトグラフィーを用いて各脂質分面に分離し,それぞれの構成脂肪酸組成を測定した.
その結果,膵障害により脂質代謝の量的な異常のみならず,質的な異常も存在することを示した.すなわち,膵障害時には脂肪の消化吸収障害が存在するのみならず,吸収された脂質も体内での代謝において正常と異なつた態度を示すことが推測された.