1969 年 58 巻 10 号 p. 1089-1096
心不全を伴わない葉間胸水貯留の2例といわゆるvanishing tumorの4例とを比較検討し,本症(後者)における葉間貯留胸水は周囲の肺実質,胸壁,心との間で,力学的に平衡状態にあることに気付いた.この事実を根拠として,本症の発生機序を病態生理的に次のごとく確立した.心不全の際,肺葉はうつ血(必須条件)を来たし,含気性が乏しく,かつ硬化する.その結果各葉間肋膜は弾力性のある平板状となる.心拡大(必須条件)による圧が,右上中葉および中下葉間の相接する肋膜に対し,縦隔側より胸壁側へと平行的をに働き,その結果,葉間肋膜が紡錘状~類円型にたわみ,中間に腔が出現し,内部が陰圧となる.その際水分に富む周囲肺組織より容易に葉間腔に濾出機転が働き,力学的に周囲組織と平衡を保つまで胸水が貯留する.葉間肋膜画はいわゆる曲玉状を呈するので,胸部X線像上,右上中葉間胸水貯留は平面像で腫瘤状,側面像で紡錘状を呈する.