日本内科学会雑誌
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高安病にかんする研究 II高安病患者の内分泌的考察
沼野 藤夫高野 照和相良 淳史島本 多喜雄
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1973 年 62 巻 8 号 p. 918-929

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抄録

高安病の成因は未だ不明であるが臨床的に若い女性に多く,心臓より直接出る大動脈およびその直接分岐や肺,冠動脈に病変が限局している特徴が知られている.一方実験的にestrogen長期投与家兎大動脈に高安病患者動脈組織像と酷似した変化を観察したことより,本病態成立の重要な因子としてestrogen関与が想定されたため,高安病患者70名(平均年令33± 1.2才)および健康婦人58名(33.4± 1.7才)につき内分泌的な面より調査,比較検討を加えた.その結果, 1)初潮年令は対照14.3± 0.2才に対し, 13.5± 0.2才で約1年早い(p<0.05). 2)月経の不規則で,基礎体温もはつきりした二相性を示さないものが対照群(58名中3名)に比し多い(34名中12名, steroid使用者除く). 3)初発年令23.8± 1.0才で易疲労感,脈の減弱,消失を初発症状とするのが多い. 4) 43名の妊娠経験患者のうち妊娠中または分娩直後に症状の発現をみたもの22名. 5)本学外来受診治療中の患者48名中31名は乳房,皮下脂肪よく発達した女性型(F型)を呈し,筋肉型(M型) (9名),中間型(N型) (8名)よりはるかに多い. 6)うち27名について行なつた尿中estrogen総排泄量は11.46±0.78γ/day (卵胞期), 9.89±0.48γ/day (黄体期)で,健康婦人(29名) 8.80±0.58γ/day (卵胞期), 12.43±1.05γ/day (黄体期)に比し,患者群では卵胞期でのその生理的排泄抑制が不充分で,有意の高値(p<0.05)を示した. 7)一方尿中pregnandio1排泄量は,高安病患者では低く,黄体期の生理的なその有意の増加を示さない(高安病群0.90±0.15mg/day,健康婦人群1.48±0.23mg/day). 8)尿中17-OHCS排泄量は両群の間に差はないが(高安病患者4.3±0.3,対象群5.8±0.8mg/day), 17-KS排泄量は有意の低値(6.7±0.6, 9.4±0.8mg/day) (P<0.05). 9)甲状腺機能検査(BMR, T3 uptake test, T4 test)肝機能検査では異常値を示す患者は少ないが,血液検査で低色素性貧血を示す患者が多いという結果が得られ,内分泌的な動態変化の存在が示唆された.このhormonal unbalanceの状態が血管壁,ことに平滑筋の代謝に障害を及ぼし,更に心拍動による激しい血流の機械的ストレスが加わつて限局した血管域に複雑な病態を進展させてゆくことが想定され,今後さらにこの面からの研究,治療への応用が検討される必要があろうと思われた.

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