日本内科学会雑誌
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無顆粒球症に併発した多発性肝膿瘍の1例
吉川 治哉門野 寛林 輝義室久 敏三郎沢田 敏大沢 保
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1977 年 66 巻 10 号 p. 1448-1456

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抄録

肝膿瘍は比較的まれな疾患であり,無顆粒球症に併発したとの報告はさらに少なく,本邦においては同報告例はみられない.われわれは,典型的な無顆粒球症に併発した多発性肝膿瘍の1例を経験した.症例は74才,男性.主訴は発熱と食欲不振であつた.入院20日前より38°C台の発熱が出現し,アスピリン計10g,スルピリン計4gを内服したが解熱しなかつた.入院時,やせ著明で,肝腫,軽度の肝機能障害を認めたが,貧血,黄疸はなかつた.末梢白血球数600/cmmと減少し,血液学的検査から無顆粒球症と診断した.抗生物質療法下, prednisolone 90mg/d投与により好中球は回復したが,肝機能が悪化し, prednisolone中止後発熱遷延し,さらに浮腫,腹水,黄疸が出現した. 99mTc-Sn-colloidによるシンチグラムで肝右葉に多発性の欠損像を認めた. cephalosporin系抗生物質の大量療法からlincomycin 6g/dに変更後,全身状態,肝機能ともに好転し,選択的肝血管撮影で肝右葉に3個の膿瘍が示された.最大の膿瘍(8×8cm)に経皮的ドレナージを,次いで開腹下に他の2個の膿瘍(5×5cm, 3×4cm)を切開,ドレナージを施行し,排膿,洗浄した.膿汁細菌培養は陰性であつたが, lincomycin奏効から嫌気性菌感染が,また萎縮した胆嚢から胆道系からの感染が考えられた.この高年令の患者は,無顆粒球症,黄疸,肝機能障害,低蛋白血症などを伴う重篤な多発性肝膿瘍例であつたが,段階的治療法が奏効し,入院7カ月後に退院し,以後再発を認めない.

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