日本内科学会雑誌
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一過性の甲状腺機能亢進と周期性四肢麻痺を伴つたいわゆるpainless thyroiditisの1例
上原 昭夫小田島 博黒沢 元博功刀 正史西岡 利夫杉山 雅池 愛子福田 玲子下村 洋之助山田 衛小林 節雄
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1977 年 66 巻 12 号 p. 1747-1752

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抄録

甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は既に良く知られている.しかし一過性ではあるが甲状腺機能亢進症状を呈し得る亜急性甲状腺炎に合併し,あるいは誘発されたと思われる四肢麻痺の報告は未だみられていない.この亜急性甲状腺炎とその病態が近似し,他方頚部痛が全くみられず臨床上よりsilentであると言われるpainless thyroiditisに低カリウム性四肢麻痺を合併した本邦初例と思われる1症例を経験した.本例は四肢麻痺の起こり方,および家族歴から家族性周期性四肢麻痺の疑いが持たれた.しかし既往に強い麻痺発作はなく, painless thyroiditisの自然寛解とともに麻痺発作がみられなくなつた事より,本症の一過性甲状腺機能亢進状態が麻痺を誘発したと思われる.最近この四肢麻痺の病態の解明に種々のホルモンの関与が注目されており,内因性高インスリン血症の問題もその一つである.本例における飽食試験で早朝にみられた軽度麻痺時のインスリン値は高くなく,むしろコーチゾールの分泌開始期と一致している事から,また17-OHCSの排泄量増加のみられる事等より,麻痺にコーチゾールの関与を推定した.また一方内因性インスリンを介さずに低カリウム血症を惹起せしめる目的で陽イオン交換樹脂を投与し,麻痺を誘発し得た.この事実よりインスリンが麻痺誘発に必須でない事,および陽イオン交換樹脂投与法が周期性四肢麻痺の診断に有用であると思われた.

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