1979 年 68 巻 11 号 p. 1442-1448
最近われわれは前縦隔に原発した胚細胞性腫瘍(yolk sac tumor)の1例を経験したので報告する.症例は39才,男性.昭和53年3月健康診断にて胸部の腫瘤状陰影を指摘され,経過観察中に腫瘤の増大傾向が認められ,同年5月に胸腺摘出術をうけた.同8月になり血痰,右胸水の貯留のため当院入院.胸水の病理学的検査より悪性腫瘍を疑がわれ,摘出標本の再検討と最高169700ng/m1の血清α-fetoproteinを示したことからyolk sac tumorと診断された.同年10月患者は呼吸不全のために死亡.病理組織より本腫瘍に特徴的な類洞様構造,糸球体様構造(Schiller-Duval body),粘液性の間質などが認められyolk sac tumorであることが確認された.さらには電顕像で分泌性格をもつ像であると考えられた.剖検にて睾丸,腹腔内,頭蓋内に腫瘍が見られず,縦隔原発のものであることが認められた.本邦で縦隔原発のyolk sac tumorの報告は本例を含めて10例である.