日本内科学会雑誌
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著明な白血球増加と高カルシウム血症とを合併した甲状腺原発扁平上皮癌の1例
斎藤 公司友常 靖子山本 邦宏斉藤 寿一葛谷 健吉田 尚
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1979 年 68 巻 11 号 p. 1466-1472

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抄録

著明な白血球増加と高カルシウム血症とを合併した甲状腺原発扁平上皮癌の1例を報告する.症例は71才の女性で疼痛を伴う前頚部腫瘤,嚥下困難,咳嗽喀痰のため入院した. 50年以上の甲状腺腫歴があり入院3カ月前になり腫瘤の増大傾向と疼痛が出現した.入院時甲状腺左葉に一致した7cm×7cmの圧痛を伴う硬い腫瘤を認め,胸部X線写真上全肺野に大小の結節状陰影を認めた.白血球数は, 26000/mm3 (好中球84%),血清カルシウム11.9mg/dl,血清無機リン3.2mg/dlであつた.甲状腺生検と喀痰細胞診より甲状腺未分化癌とその肺転移を疑いアドリアマイシンによる化学療法を開始したが,経過は極めて急速で入院算23日目に死亡した.剖検診断は甲状腺原発扁平上皮癌であつた.甲状腺原発扁平上皮癌は希有な疾患であるだけでなくその臨床像は未分化癌に近く経過が急速で種々の治療に抵抗性であるといわれ,本例はその典型であつた.本例はさらに著明な白血球増加と高カルシウム血症とを同時に合併しており,これらは腫瘍が産生する液性因子によるとの想定のもとに我々はヌードマウスへの癌の移植をみた.ヌードマウスにてこれらの随伴現象は見事に再現され,腫瘍の活性因子産生を一応証明し得た.経過の速い扁平上皮癌に白血球増加と高カルシウム血症が合併する例は本例が3例目であり,これらが一つの症候群である可能性が示唆された.

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