69 巻 (1980) 8 号 p. 975-981
顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(colony stimulating factor, CSF)産生腫瘍と考えられる肺癌の症例を報告する.この腫瘍は過去に数例のみ報告されている.症例は68才,男性.昭和53年2月より胸痛があり,近医にて原因不明の白血球増加症を指摘される.同年5月より血痰が出現したため, 6月当科へ入院した.軽度の肝・脾腫,胸部X線像上左上肺野に腫瘤陰影を認めた. 59700/mm3 (Met 1%, St 51%, Seg 43%, Mo 2%, Lym 3%)の白血球増加があり,好中球ALP活性は高値を示し,骨髄では穎粒球系の増殖が顕著であつた.入院後は腫瘤陰影の増大と共に上大静脈症候群, Pancoast症候群を呈する一方,白血球数も漸増し, 117000/mm3に達した.抗癌療法開始後,暫らく間をおいて白血球数は減少傾向となり,死亡当日は26500/mm3を示した.同療法により,胸部腫瘤陰影は軽度に縮小した.全経過を通じ末梢血中にはほとんど幼若顆粒球が出現することなく,成熟顆粒球は94~98%を占めた.また肝,脾は白血球数の増減と並行して腫大,縮小する傾向にあつた.針剖検により未分化型巨細胞癌と確診された.正常ヒト骨髄細胞を標的としてCSF測定を行なつた結果,患者血清にはCSF活性が検出され,形成コロニーはほとんどすべて成熟顆粒球からなることが判明した.以上のような臨床経過,並びに血清CSF測定の成績より,本例はCSF産生肺癌と考えられた.