日本内科学会雑誌
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著明な自律神経障害を呈し,心呼吸停止を反復した若年型糖尿病の1例
野内 俊彦小山 恒宮川 八平戸塚 慎一青沼 和隆伊東 春樹三浦 溥太郎笹岡 拓雄金山 正明
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1981 年 70 巻 9 号 p. 1267-1272

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抄録

1975年, Watkinsらの報告以来,自律神経障害を伴う糖尿病患者の心呼吸停止発作が注目されているが,本邦では1例の報告例をみるにすぎない.われわれは心呼吸停止発作を反復した31才女性の若年型糖尿病症例を報告する.患者は網膜症で失明し,糖尿病性腎症による腎不全で血液透析を行なつていたが,著しい末梢神経障害と自律神経障害を示すようになつた.最初の心呼吸停止は糖尿病性神経障害による疼痛を緩和するため,ペンタゾシン15mgを筋注した直後に生じた.蘇生後も正常心房調律時に無呼吸発作が頻発し,数分に及ぶ無呼吸に続いて心停止発作が反復した,心肺に器質的異常はなく,頭蓋内出血も否定された.神経症状の改善に伴つて無呼吸発作は消失した.自律神経機能検査で,心血管支配の自律神経調節の破綻と除神経過敏状態が証明され,これらは心停止の一要因と考えられた.しかし従来の報告例で心呼吸停止はいずれも全身麻酔,鎮静薬投与や肺炎による呼吸抑制状態で発生しており,とくに本例では呼吸停止がん停止に先行していたことが明らかであつた.そこで呼吸停止の原因検索のため,低酸素,高二酸化炭素,アシドーシスに対する呼吸反応を調べたが正常範囲内であり,心呼吸停止の原因は,脳幹部を含む自律神経反射の異常を考える必要があると思われた.本症例は自律神経障害を伴う糖尿病患君の心呼吸停止発作で,呼吸停止が心停止に先行することを示した最初の報告である.

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