日本内科学会雑誌
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び漫性脳軟膜癌腫症を呈しcytosine arabinoside髄注治療が奏効した胃癌の1例
永田 ゆみ子三輪 哲義村井 善郎森 真由美村上 元孝
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1982 年 71 巻 11 号 p. 1597-1601

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抄録

髄膜刺激症状と精神症状を初発とし,生前に髄液所見より,胃原発の髄膜癌腫症と診断され,治療に反応したと考えられる症例を経験したので報告し,合わせて若干の文献的考察を試みる.症例は82才,女.主訴は頭痛. 1979年9月,頭重感出現. 1980年3月,前頭部拍動痛,食欲不振出現,増悪. 5月,悪心,嘔吐,幻覚,詭妄状態を呈し,当科入院となる.入院時,血圧192/92,神経学的に髄膜刺激症状(+),強制把握(+),向反発作(+)の他,異常を認めない.腰椎穿刺にて,圧20OmmH20以上,腺癌細胞を認め,内視鏡的に,胃体から前庭部にかけて, Borrmann IV型の胃癌を発見した.胃癌の髄膜転移と診断し, FT207全身投与, cytosine arabinoside (Ara C),ステロイド髄注を試み,神経症状の劇的改善と,髄液中の癌細胞の消失をみたが,入院中54日目に,突然,後頭部痛を訴え,ショック状態を呈し,急死した.剖検では,胃癌,軟脳膜へのび漫性転移,傍胃,大動脈,膵臓,肺門リンパ節転移あり,血行性転移は認めず,新鮮脳出血巣をみた.脳軟膜癌腫症は,本邦で百数十例の報告があるが, 50%以上が胃原発であり,生前診断は32.2%である.しかも脳軟膜癌腫症に対する治療は3例におこなわれているにすぎず,著効例は我々の1例を除いて報告されていない.その特徴的な臨床像に関する議論に加え,抗癌薬による治療の観点から考察を加えた.

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