日本内科学会雑誌
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野外型KHF(韓国型出血熱)が疑われた1例および野鼠におけるKHF抗原保有状況
横山 正一鏑木 恒男
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1982 年 71 巻 3 号 p. 319-324

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抄録

韓国型出血熱(Korean Hemorrhagic Fever, KHF)は腎障害と発熱および出血症状を主徴とするvirus感染症であり,広くユーラシア大陸全域に存在する疾患である.我々は静岡県の山村の農夫に本症の発症を認め,さらに患者の自宅付近の野鼠にKHF抗原保有の事実を認めた.患者は43才,男.残尿感,尿量減少と発熱で発症. penicillinおよびcephalosporinに不応の発熱と急性腎不全,肝障害,出血傾向(鼻出血,下血),全身のリンパ節腫脹,発疹,漿液性髄膜炎,筋肉痛,関節痛等多彩な臨床症状を呈した.急性腎不全は1週間で利尿期となり, 6週間後にはほぼ軽快した.敗血症,薬物の副作用, leptospirosis, scrub typhus等は否定され調べた6種のvirusのうちには有意の抗体価を見出しえなかつた. Apodemus agrarius coreaeの肺組織を用いた間接蛍光抗体法にて,発症より3週目の患者血清で, KHF抗体が128倍で陽性であつたために韓国型出血熱を強く疑つた.同居家族のうち2人に不顕性感染がみられ,さらに付近で捕獲した野鼠(Apodemus speciosus, Microtus montebelli)の13匹中3匹において,その肺組織よりKHF抗原が検出された.本例は我が国で最初の野外型の韓国型出血熱の報告であり,本症が我が国に土着した疾患であることを示している.また, KHF抗原がこの地域にかなり濃厚に存在することより,今後韓国あるいは中国大陸東北部の如く,本疾患が流行する可能性もあり,早急な対策が望まれる.

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