日本内科学会雑誌
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右心房内発育を呈した肝癌の1例
井上 純一中川 昌壮中西 信輔野村 正博網岡 逸男柴田 醇前田 種雄赤木 笑入
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1983 年 72 巻 11 号 p. 1598-1605

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抄録

腹水と下腿浮腫を主訴とし,諸検査により生前に肝癌の右心房内発育を診断した症例を報告する.症例は69才の男性.昭和55年9月前胸部圧迫感があり,高血圧にて通院加療. 12月には腹満感があり肝機能異常を指摘された.昭和56年1月両下腿浮腫を認め入院.入院時黄疸なく,腹部膨隆・肝腫大あり,静脈怒張はない.肝機能検査異常, γ-globulin高値, KICG0.047より肝硬変と診断した.なおHBs抗原抗体は陰性, AFP29ng/ml.安静・高蛋白・減塩食および利尿剤の投与により,腹水・下腿浮腫は消失した.しかし,腹部CTにて肝右葉に1ow density area,下大静脈の閉塞,半奇静脈の拡張をみ,肝シンチにて右葉にSOLを認めた.腹腔動脈造影にて同部にhypervascularityおよび右心房へ至るthread and streaks signをみ,経右心房下大静脈造影にて右心房内に欠損像を認め,肝癌による二次性Budd-Chiari症候群と診断し,手術不能の判断で免疫化学療法を開始した.しかし, AFPが上昇し, 7月には25000ng/mlを呈した.腹満感・下腿浮腫・腹壁静脈の怒張がみられ, 8月上旬吐血にて死亡した.剖検上肝癌は肝外血管内発育を示し,下大静脈から右心房起始部まで及んでいた.本邦では二次性Budd-Chiari症候群の原因として肝癌によるものが多く,右心房内発育は0.6~4.3%にすぎない.しかも剖検で発見されることが多く,生前に右心房内発育と診断したものは文献上4例と数少ない.本例ではBall valve thrombus syndromeは腫瘤の連続発育のため認められず,深部の側副路の発達により末期まで表在腹壁静脈の怒張は出現しなかつた.最近長足の進歩をとげた画像診断により,生前に診断しえた貴重な症例と考えられた.

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